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アホのことお勉強2

 完全に私が安心しきっていたところに、要が不意打ちで爆弾を落としてきた。


「……しかし、だからこそ、お前は誰よりも勉強を頑張る必要が出てくるわけだ」


 なにゆえ!? 


「え、私、同年代の中ではかなり優秀なんでしょ? だったらなんで……」


「ーーお前が、アホだからだ」


 ……上げたかと思えば、今度はいきなり下げるんかーい。

 しかし、馬鹿にしているかと疑ったが、要は至って真剣だった。


「よく聞け。アホ。俺はここ一月ほどお前と過ごして、一つ学んだことがある。……この世には矯正できるのアホと、どれだけ矯正しても無駄なアホ、二種類存在している」


 ……そんな、どれだけ矯正しても無駄だとか、かわいそう過ぎない? 人間ってさ、無限の可能性を秘めているんだよ。努力は時に、限界能力を超越するんだよ。

 そんな風に切り捨てちゃ……


「ーーそして、お前のアホの大部分は後者だ。多少軽減できても、完全に克服するのは不可能だ」


 ーーって、私のこと!? 私、今切り捨てられたの!?

 いやいやいや、ちょっと待って、そんなかわいそうなものを見るような目を向けるのやめてえぇぇ!

 私、まだ、10歳よ! これからいくらでも成長の余地がある(前世は成人してもアホなままだったことはとりあえず棚にあげよう)のだから、たかが一ヶ月で私を見限らないでーーー……!


 頭を抱えながら半泣きになる私を無視して、要は話を続けた。



「だからこそ、お前には学業成績が必要となってくるんだ。それも同年代の中でも、ずば抜けたな」


 ……えーーっと……。


「……どゆこと?」


「簡単な理由だ。……お前は歴史に名前を残すような、素晴らしい発明家が、私生活では驚くほど駄目な人間だったとしたら、どう思う?」


 何故そこでいきなり発明家の話題になるのだ。理解できないながらも、とりあえず要に言われた言葉に対する回答を考えてみる。

 ……素晴らしい発明家が、駄目人間……?

 そんなの……。


「そりゃあ……天は二物を与えなかったんだなーって思うよ。残念な反面、ちょっと安心するかな」


 前世の自分を思い出して、思わずちょっと遠い目になった。

 歴史に名前を残すような偉業なんてもちろん出来なかったし、今みたいな家柄も、美貌も(ふはははは、自分で言うのもなんだが、今の私は絶世の美少女だぞ! 羨ましかろう、諸君!)持ち合わせず、ただひたすらアホだった、当時の自分。

 そんな駄目駄目だった自分みたいな人間だっているんだから、歴史に名前を残すような人間は、密かに駄目人間なくらいのオプションないと不公平だよね! うん。天才で、中身もパーフェクトな人間なんて、正直腹立たしいぞ。


「じゃあもし、家柄と顔だけ秀でて、中身が残念過ぎる人間だったら?」


「うーん……。家柄も、顔も、生まれた時に与えられたものであって、さっきの発明家みたいに自分の能力で培ったものじゃないからなー。だいたい、この不景気な今の日本で絶対安泰な家柄もないわけだし。顔だって、年を取れば変わってくるものだし、絶対的な価値はないよね。その場合は悪い部分が鼻につくかもしれない」


「……じゃあ、そいつが勉強では、とても優秀だったら?」 


「それなら、うん。まあ、許せるかな。特出し美点が三つもあるわけだし」


 偉大な発明家とは比べちゃいけないけど、それだけ優秀な部分があれば、多少駄目人間なくらいは目を瞑っちゃう気がする。

 家柄と容姿だけを鼻にかけるようじゃ、なんていうか典型的バカボンボンの三下悪役だし………うん? 悪役? あれ?


「………自分で、自分のことがよく分かってるじゃないか」


 思わず眉間に皺を寄せる私を横目に、見ながら要は肩をすくめた。


「だから、お前がアホでも許される人間であるためには、今のうちにある程度高等部の問題を解けるようになっている必要があんだよ」


 ーーな、何だとーー?


「……アホでも許される……?」


「そうだ。長点の中に垣間見える、わずかな短所は、寧ろ長所を引き立たせる。そして人間というのは大昔から、『天才』に憧れを抱いているもの。お前が勉強面で『天才』と言われる人間にさえなれば、周囲はある程度のアホは目を瞑ってくれるはずだ」


 ……確かに、アホと天才は紙一重だ。前世でも、「天才」と言われる人は奇人変人は多かった。

 しかし、明らかにアホな行動を取っていても、何だかんだで「天才だから、常人とは頭の作りは別」で済まされる部分は多々あったように思う。

 学生時代において、成績の良さと言うのは、一種の武器だ。確かに今の私が高等部の問題もスラスラ解けるようになれば、周りの生徒を萎縮させ、女帝として学園を君臨するための一手にならないこともないかも知れないけど……。

 家柄と顔だけを誇ると言う役どころは、フィクションの世界では三下悪役ポジが定番。仮にも私は女帝様。そんな十把一絡げな悪役になんて、なるわけにはいかないけど……。



「……だけどさ、やっぱりこの年齢で高等部部分まで学習を進めるって、かなり無理がある気がするよ……!」


 ……それでも私はやっぱり、高等部の理系分野の学習は先延ばししたいんだー……!


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