アホのこと中等部8
え、なにそれ。聞いてない。
てか、お嬢様が、「庶民風情が私に逆らうなんて……うちの家がどこだと思ってるの!」って台詞って親の威を借りた口ばかりがセオリー違うの? お父様、まじで学園に介入する気だったの?
「……てか、何でお父様知って」
「そんなの、俺が一から全て報告したに決まってるだろ。原因が俺にあることも、その上でお前が俺から離れないと言ったことも含めて」
「なっ……よけいなことを……!」
「何の為のお目付役だと思ってる。ここで報告怠ったら、意味ねぇだろうが。……まあ、俺が報告しなくとも、高井さん辺りは薄々気付いていたみたいだけどな」
……なんと。敵(?)は身近な所にいたとは。
待て待て、つまり、鳳凰院家のみんな、私がぼっちなこと知ってるの!? え、私こないだ執事のセバスチャンに「もう、私ったら欧洞学園でも人気者で人気者で、困ってしまったわ!」とか、見栄張って言ってしまったよ! セバスチャンだって「それはようございました」って、ニコニコ笑っていたのに!
庭師の里田さんにも、「友達にプレゼントしたいのだけど、何かいい季節の花ないかしら」なんて、さも仲良しな娘ができたように相談しちゃったよ! ……実際あげたのは要で、一本要の髪に挿してみて、イケメン顔で「君に似合うと思ったんだ……綺麗だよ。要」って囁いたらデコピンされたけど!(なお、花はちゃんと要が持って帰りました。しかも、最終的にブリザード?フラワー? に加工してもらったらしいです。なんかずっと、枯れない奴に。……意外と要、乙女だよね)
それなのに……それなのに、みんな私の現状知っていただと……。
うわ、恥ずかしい! これ、とても恥ずかしいよ!
「……てか、そのわりにお父様、私には何も言ってこなかったよ」
「だから様子見していたと言っているだろ。……他家への圧力というものは、お前が思っている以上加減が難しいもんなんだよ。横暴が過ぎれば、他家の反発を招く。一家一家は鳳凰院家より小さくとも、集団になれば鳳凰院だって傾かせる。かといって、寛容が過ぎれば、侮られ、家の名を落とすことにもなる。お前の親父さんは、最小限の被害で最大限の効果が出るタイミングを見計らってたんだ」
「ふ……ふーん」
よ、よくわからないけど、権力を使うのも、色々面倒くさいことはよくわかった。
……あ、あれ? そのわりにゲームでは女帝様バリバリ権力振りかざしてたし、学園そのものを権力によるカースト制が蔓延る場所に変えていたよね。え? あれも全部女帝様のカリスマ性がなせる、とんでも現象だったの?
ど、どうしよう……学園に君臨できる自信がなくなってきたぞ……いやいやいや、私は鳳凰院綾華。諦めてはいけない。
きっと……きっと正規ヒロインちゃんが来る高校二年までに、私もスキル:女帝様が使えるようになって、毒々しくも美しい花を咲かせるはず……! 私はそう、信じてる!
「……で、今ようやく、その機会が来たというわけだ」
要の言葉にスケバンマッチョさんが頷く。
「今の学園で、一番恐れられているのは、私さ。どんな大層な家柄の相手でも、鍛え抜かれた鋼の筋肉の前には無力だったからねぇ。……今までは」
「助田が処分されることは、ここの生徒にとっては、鳳凰院に手を出すことの恐ろしさを見せつけられることと同義と言うわけだ。停学三日程度の処分でもな……その後に助田の報復がなければの話だけどな」
「そんなこと私はしませんよ……私は処分に納得していますし、鳳凰院綾華の覚悟は十二分に見せてもらいましたから」
「知っている……だが、周りはそうは思わねぇだろう。停学に追い込まれたにもかかわらず、助田が綾華に仕返しをしないことに、周りは勝手に想像力を働かせてくれるはずだ。全て鳳凰院の名前があったから、だとな。そうなりゃ、今後こいつに手を出す奴もいなくなるはずだ」
「ちょ、ちょっと待って! そ、それじゃあスケバンマッチョさんは、全部わかってて……」
全部わかってて、私の為に泥をかぶってくれたの……!?
私の問いに、スケバンマッチョさんは苦笑いを浮かべて首を横に振った。
「ーー美談にするのは、よしてくれよ。もし、そうならコソコソ嫌がらせなんてする前に、真っ先にあんたを呼び出していたさ。言っただろう? 私はあんたを認められなかったって」
「だ、だけど……!」
「あんたが私が納得するだけの覚悟を見せてくれたから、一番丸く収まる道に進むだけで、あんたが自分可愛さに要様を見捨てるような奴だったら、例え退学にされても、そのお綺麗な顔をボコボコにしてたさ。鳳凰院の名前なんて関係なくね」
……おうふっ。私思った以上に、綱渡りな状態だったのね。
ま、間違っても「要から離れるから、助けて!」なんて言わないで、よかった……! 正直言えば、喧嘩スペックが前世のままで勝算0なら、そう言っちゃってた可能性も否定できないしね……!(前世と今世合わせても、ボコボコにされた経験ないから、実際そうなってみないとわからないよね。人間って……てか、むしろ何故さっきの私、ボコボコにされる覚悟できたし。今さらだけど不思議だ)
「ーーだから、あんたは何も気にすることないよ。鳳凰院綾華」
そう言って、スケバンマッチョさんはニッと白い歯を見せて笑った。
「あんたは、私に勝った。そして私はあんたに負けたから、処分に納得している。それだけの話さ。全て私が選んだ道で、私が選んだ結果さね。甘んじて受け入れなければ、女が廃るってもんだろ?」
スケバンマッチョさん……漢……いや漢女だ……!




