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アホのこと中等部5

 しかし! 敵わないと、分かっていても、女には闘わねばならん時がある。

 引かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!

 女帝様には後退なぞ、ない!(でも愛は下さい)

 大丈夫、私は女帝様、身体能力も前世にくらべて、かなりハイスペック! しかも、ちっちゃい頃から護身術習ってる。

 きっと、スケバンマッチョにだって互角で戦えるはず。


「……それじゃ、行くよ!」


 太い腕が、風圧を伴い真っ直ぐ私に向かってくるのを、持ち前の反射神経で避ける。

 ……なんちゅー、重い拳じゃ! 風圧だけで、真空派出せそうだよ!

 しかし、幸いこの世界は乙女ゲームな世界だけど、ファンタジーではないので、今のところ、ノーダメージ。

 ……このまま、攻撃を避けまくって、疲労からできる隙を狙うのが上策だとは思うんだけど。


「おらおらおらおらあああ! 避けるだけかい? 私はあんたの拳が見たいんだよ! このまま、逃げるだけなら、一気に終わらせちまうよ!」


 ーーうん、全く疲れそうにないね! てか、手、残像で千住観音みたくなってね!? スケバンマッチョさん、本当人間!?

 ………まあ、それを全て避けてる私も、大概だけどさ! 女帝様スペック、すげぇ!


 ……しかし、逃げるだけじゃ終わらないのも、事実。

 こうなったら、急所っぽいところを狙って、こちらから仕掛けるしかない。

 ……えーと、急所って言えば……金的? いや、スケバンマッチョさん、女の子だから! それにあかんよ、そういうところはやっぱり、だめよ! お嫁に行けなくなっちゃうもの!

 同じ理由で、顔も却下! 傷物にしちゃったら責任とれません! (もうスケバンマッチョさんの顔には歴戦をくぐり抜けたかのような、猛々しい傷跡はあるけど、私がつけるわけにはいかないの……! ……てか、熊とでも戦ったんか! あんた!)

 ……と、なるとやっぱり、狙うべくは、あの剥き出しのお腹しかない……!


「……っ!」


 私は顔に向かって放たれた拳をかがみ込むことによって避けると(顔面狙いに一切躊躇ない辺り、さすがスケバン……!)、そのままスケバンマッチョさんの懐に飛び込んだ。そしてぐっと拳を固く握り締めて振りかぶる。

 ……ごめんね……! スケバンマッチョさん……! きっと、痛い。

 それでも、私にも、どうしたって譲れないものがあるんだ……!

 私は、そのまま勢いよく、拳をスケバンマッチョさんのお腹に叩きこんだ。

 そして次の瞬間。


「ーーー痛ああああああ!!!」


 苦痛の悲鳴を上げたのは、何故か私の方だった。

 

「指が……指が、ぐぎって! ぐぎっていったあああ」


 何、このお腹……めっちゃ硬! これ私、指の骨折れてね?

 え、鉄を仕込んで肌色に塗ってるわけじゃないよね! え、何この鋼の筋肉! ありえん!


「……なんだい。今の、軽過ぎるパンチは……蚊が止まったようじゃないか」


 呆れたようなスケバンマッチョさんの声に、さあっと血の気が引いた。

 ………の、ノーダメージだと……? 私の全力の拳が……?

 ……終わった。これ、どうやっても、勝ち目ないや。

 頭の中に、スケバンマッチョさんによってボコボコにされた自身の未来の姿が、思い浮かぶ。

 ……ああ、全治何ヶ月かな。なんてこったい。くそう。視界が涙でぼやけてきたぜ。

 

 でも……でも、どんなにボコボコにされようと私は「負けた」なんて言わないからな!

 力で勝てなくても、要の隣は譲らない!

 だって私は、要の飼い主なんだから!

 さあ、スケバンマッチョさんよ殴ればいい! 絶対私は屈したりしないからな! これが、精一杯の私の女帝様イズムだ……!


「……まともな人の殴り方も知らない癖に……生っちろい細腕している癖に、よくもまあ私相手に、逃げずに殴りかかれたもんだよ」


 しかし覚悟を決めて歯を食いしばった私に降ってきたのは、重い拳ではなく、呆れたようなため息だった。


「……あんたの勝ちさ、鳳凰院綾華。認めるさ。あんたほど、要様の隣に相応しい奴はいない」


 ………へ?

 ちょっと待って。急展開過ぎて、脳がついてけない。


「……え、先に拳さえ入れれば勝ちなルールだったの? だったら、寸止めしたのに」


「……馬鹿だね。あんたは。私に喧嘩で勝てだなんて、一言も言ってないだろ。私は『あんたの要様への想いを拳で伝えな』と言ったんだよ」


 ???

 うーん……スケバン語は、よくわからん。

 しかし、どうやらスケバンマッチョさんは戦闘モードを解除した模様。少なくとも、ボコボコにされる未来はなさそうだ。……よ、よかった。


「見たかったのは、想いの強さ……何があっても、要様の隣にいるって言う、あんたの覚悟さ。伝わってきたよ………痛いほどにね。私にとっちゃ、どれほど重い拳よりも、あんたのさっきの拳が痛かったよ」


 そう言って、スケバンマッチョさんは、吹っ切れたように白い歯を見せて笑ったのだ。

 ……うん? よく分からないけど、スケバンマッチョさんは思ったよりも、良いマッチョさんなのか?


「……薄々こうなることは分かっていたんだよ。だから本当は、最初からこうすべきだったんだ。真っ向から拳で語り合うべきだった。だけど、それでも先にこそこそと、卑怯な小細工をしちまったのは……向き合うのが、怖かったのさ。自分達の九年間が、要様にとって害でしかなかったのかもしれないという事実に」


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