アホのこと中等部
「……じゃーん! 要見て見て! 欧洞学園の制服届いたよ。似合う? 似合う?」
ついに、鳳凰院綾華12歳、欧洞学園中等部に編入する時がやって参りました!
うひっ、前の学校の小等部の制服も清楚な感じでエレガントでしたけど、欧洞学園の制服は女子の理想の制服! って感じでかわいい。流石金持ち学園……というか、乙女ゲームの世界!
だってこの短いスカート丈とか、色使いとかあまり金持ち仕様に見えないもんね。うん。二次元仕様二次元仕様。……まあ、三次元の私めは、そんな二次元仕様制服も似合っちゃうんですけど! 流石外見チートな女帝様!
「……あー、まあ、似合ってるんじゃねぇの?」
「かわいい? かわいい?」
「……まあ、見れる」
「そこは嘘でも、かわいいって言ってよ!」
っく……いつも通りの塩対応。しかも、最近前より口悪くなってきて、プチ反抗期気味。要さんや、飼い主としてはとても悲しいよ。早く元のかわいい要にもど……あれ? おかしいな。そんな時期が思い出せないよ。
まあ、いい。今日の私は機嫌がいい。これくらい許してあげよう。
「ふははは、要や。私が試験で要を追い抜いて、主席を取ったからってすねちゃだめよーふははは」
欧洞学園中等部の編入試験は、小等部の最終試験と同じ日に、同じ内容で実施される。よく分からないけど、その結果が中等部のクラス分けに影響するからということらしい。
なお、成績は直接貼り出されないが、クラス分けの発表順位がまんま成績順なので結果的に周りにもテスト順位がバレバレという鬼仕様! ……絶対欧洞学園の学園長ドエスで鬼畜だよね。ほら、もっと成績悪い生徒の心のケアをだね……。
しかーし! 要による先取り教育によって天才児と化した私には無問題!
しかも、今回は要がおばかなポカをやらかしたせいで、堂々の単独主席ですのよ。おほほほ
「……何でこんなアホに負けたんだ、俺は……くそ、あの一問の馬鹿な間違いさえなければ」
「慢心! 慢心ですわね、要さん! 今まで学園に、要さんの主席を脅かすライバルがいなかったから、調子に乗ってたんじゃありませんこと?」
「……その喋り方やめろ。腹が立つ」
いやあ、完全勝利、気持ちいいね! 普段チェスでもゲームでも負けてばっかりだからさ。
……しかし、本当信じられない問題で間違ってるんだよな、要。
なんで、国語で「言葉の綾」の読み方を「ことばのりょう」なんて書いちゃうかねー? どう見てもこんなの常識でしょうに。……やっぱり慢心だな。慢心。
「………しかし、明日からお前と同じクラスか」
にやけが止まらない私とは対照的に、要の表情は険しかった。
「……綾華。学園に来る前に言っておきたいことがある」
「うん? 何」
「ーーお前、学園では俺に関わんな」
「……………!?」
きつい冗談かと思って笑い飛ばそうとしたが、要の表情はどこまでも真剣だった。
これは……これは、やっぱり
「ーーやっぱり反抗期なのね、要!」
「はあっ?」
「わかるよ、わかる。思春期の男の子が、こんなかわいい女の子といつも一緒にいたらからかわれて恥ずかしいものね! ましてや私はわんこ要の飼い主……そんな秘密な関係、周りに知られるわけにはいかないものね……!」
ああ、要ももうそんなお年頃になってしまったのね……ならば私も大人として、要の思春期が終わるまで、少し離れた距離から温かく見守る必要が………って要が思春期終わるの待ったら、高校卒業までかかるじゃん。
却下だ、却下。そんなの、私が淋しい。
「……要や。最近君は忘れているみたいだけど、私は君より格上の名家の一人娘なんだよ。君に私の接近を拒絶する権利はありません。何故なら君は私のわんこなのだから」
というわけで権力発動! 私の鳳凰院の姓は要を縛る為にある!
泣いていやがっても、来るべき時が来るまでは要を解放してあげません!
「……もう誰がお前の犬だと突っ込む気も失せてきたな……つーか、話はよく聞け。綾華。お前を嫌になって離れたいとか、今さら言うかよ。……そうじゃなくて、俺はお前の為を思って言ってんだよ」
……? 私のためってどういうこと。
訝しがる私に要はため息を吐いた。
「……自分でいうのも何だが、俺は欧洞学園では特別な存在として崇拝されてる。俺が預かり知らないところで勝手に作られた『ファンクラブ』とやらに、勝手に近づく人間や距離感を選別されたりしてな。奴らはどうも俺に『孤高の帝王』として君臨していて欲しいらしい」
……あー、そういやゲーム内であったな。女帝様とはまた別の、『要ファンクラブ』によるヒロインに対する嫌がらせイベント。お前みたいな庶民が要様の隣に相応しくない!ってキャンキャン吠えられるの。だから、要ルートは女帝様の派閥による嫌がらせと、ファンクラブによる嫌がらせ、二倍こなさないといけない過酷ルートなんだよね。
だけど、まあ、そういうことなら、まあ大丈夫。
「そんなファンクラブによる嫌がらせなんて、気にすることないよー。要」
「……お前は現状を知らないから、そう言えるんだ」
「いやいや知ってるよー。ゲームで見たもん」
「……またゲームの情報かよ」
げんなりとする要に、私は不敵に笑ってみせた。
「だって私は【女帝様】だよ! 鳳凰院家の一人娘だよ! 嫌がらせなんてできないでしょ」