アホのことサプライズ3
……うーん。これはあれか?
わんこが飼い主のほっぺを、舐めるようなもんか? 口ではなんだかんだ言いながら、実はかなり要、私に懐いてるんか? ……だったら、まあ喜ばしいと言えば喜ばしい事態だけど……しかし。
「……なんだよ。その微妙な生温い目は」
「いや、要さ………私だから良いけど、さっきの他の人にやっちゃダメだよ?」
……これ、私以外の人にやったら、普通に変な風に勘違いされるよな………いくらイケメン無罪とは言え、あかんよ。うん。
「……安心しろ。お前以外に、口の回りクリームだらけにするような奴は俺の回りにはいない」
「そう言う意味じゃなくて! ……ああ、もう、いーや」
全く仕方ないわんこだなあ……。こうなったら、私が飼い主の責任の一貫として見張ってあげるしかないな。万が一やらかしたら、うちのわんこが、粗相してごめんなさい~と代わりに謝ってあげよう。
「……なんへ、ほっへは、ひっはるの(なんで、ほっぺた、ひっぱるの)」
「顔がむかついた」
……理不尽! 私はこんなにも要のこと心配してあげてるのに!
「……で、これからどうするんだ? またチェスでもやるか?」
「おお、チェス! やっと勝率上がってきたから、今度こそ要を完敗させる! ……あ、でも、その前に」
プレゼント第一弾!(本命は夕飯後)と言うのも、あれなものだけどさ。
楽しくて、忘れてしまう前に真面目な話をしとこう。
「……要さ。本当にうちの子になる気、ない?」
「は……?」
差し出したお父様のサイン入りの「養子縁組」の紙に、要は絶句した。
……うん。戸惑う気持ちは分かるよ。いきなりだもんね。
でも、ずっと考えてたんだ。
「要の今の環境って、あまりにひど過ぎるよ。私、これ以上要に悲しい思いさせたくない。お父様は、最初は18歳まで待てないのか、って渋ってたけど、最終的には要さえ同意してくれたら、竜堂寺に掛け合ってくれるって言ってた」
前世ではゲームの設計でも、要の今の環境は、フィクションなんかじゃない。
だからこそ、変えられるものなら、変えてあげたい。
……それに。私にとっても、要がうちのこになってくれるのは嬉しいことなんだ。
「……それに要が私の兄弟に……誕生日的には私がお姉ちゃんかな? なってくれたら、これからもっと一緒にいれるじゃん。例え学園卒業してからだって、繋がってられるでしょ。そうなったら、嬉しいなって」
いつか。いつか乙女ゲームのヒロインちゃんが学園に来たら、ゲームのように要は私の前から去ってしまうのかもしれない。
それはすごく……すごく、淋しい。
だから、私は要と兄弟になりたい。
紙切れ一枚の絆でも、それでも要と繋がっていたいと思ってしまう。
だけど、要は私が望んだ答えは返してくれなかった。
「……お前みたいなアホが、姉なんてごめんだよ」
「……そっか」
……それも、そうだよな。
だいたい兄弟になんてなったら、要の負担は更に増えるし。
だけど……こうもはっきり拒絶されると、ショックだな。
一応要にとっても良い道かと思ったんだけど。
俯く私に、要は大きくため息を吐いた。
「……俺なりのけじめだ。高校を卒業するまでは竜堂寺の姓を捨てない」
「そう……」
「……だけど、高校卒業したら……もう18だし、鳳凰院家に入ること考えてやっても良いぞ」
「……っ!?」
ばっと顔を上げると、要はどこかバツが悪そうに顔を背けた。その頬は、ほんのり赤い。
「私の弟になってくれるの!?」
「……だから、お前みたいな姉、ごめんだと言ってるだろ」
「??」
……私のお兄ちゃんになりたいってこと?
誕生日遅くても、そう言う風にできるものなの?
……うーん。戸籍のことはよく分からないな。
「………とりあえず、お前の父親には6年後に再考すると言ってたと伝えておけ。それで通じるから」
「? 分かった」
……とりあえず要が、うちの家に入ること検討してくれただけ、収穫だな! 6年後に気が変わってないとは限らないけど。
ぬふふ……要と、家族になれるのかー。なんか、想像しただけで、すごく幸せな気持ちになるぞ。わくわくする。
「……それより、お前、今日は泊まりとか言っていたが、まさか同室じゃないだろうな」
「え? 同じ部屋に決まってるでしょ! 枕投げしようよ」
お泊まりと言えば、枕投げ! ふふん。この日の為に鍛えていた私の投げ技を、要に食らわせるのが今から楽しみです!
「……いや。まだ12とは言え、異性だぞ。同じ部屋で寝るのは……」
「ーーあら、いいじゃないですか」
話に乱入したのは、お茶のお代わりを持って来た、高井さんでした。
「要様なら、安心して綾華様を任せられますもの。……それに万が一何か間違いが起こったとしても、予定が六年早まっただけですもの」
「……聞いていたのですか」
「申し訳ありません。ノックをしても、話に夢中で気づかれなかったようでしたので、勝手に入らせて頂きました」
「……だったら尚のこと、こいつの心配して下さいよ。このアホは、俺が言ったことの意味も分かってないのですから」
「だからこそ、いっそ既成事じ……」
「何を言おうとしてるんだ、お前は。……いや、何を言おうとしてるんですか」
「私なんぞに敬語は要りませんよ。要様。近い将来、ご主人様になるのですから」
何故か高井さんが上機嫌な一方で、要がやたら不機嫌そうにしていたけど、火に油を注ぐのが怖いので、下手に口を挟まないことにした。
沈黙は金なり。火の粉がこちらに飛んでくる前に、チェスセットを持ってこよう! まだまだ誕生日は続くのだから。