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無人島でエルフと共同生活  作者: わんた
パラダイムシフト
92/111

ゴーレム島 防衛戦2

 礼子は携帯電話のディスプレイを睨みつけるようにして記事を読む。


 海に面した場所が魔物に襲われ、警官と自衛隊が出動している。新宿ダンジョンからも魔物が地上に進出しようとして閉鎖中だった。


 また別の記事では、ダンジョン付近にしかなかった魔力が日本中に広がっていると報告されている。


「日本はどうなってしまうの?」

「礼子さん、それは違います。今回は、世界的規模の魔物襲撃事件のようです」


 礼子が後ろを振り向くと、青白い顔をした梅澤が立っていた。ダンジョン探索士の説明が終わり、ゴーレム事務所に戻ってきたのだ。


「……世界規模……」


 想像を絶する規模。目の前が真っ暗になった礼子は、壁に手をつけて、力抜けて倒れそうになる体を支える。


「……ダンジョン探索士の皆さんはなんと?」

「脱出する方法はありませんから、皆さん素直に従ってくれました」


 最初は疑う人間もいたが、世界中で魔物の襲撃事件の記事を見せると、否が応でも信じることなった。


 ゴーレム島に滞在していた数十名のダンジョン探索士が、魔物の襲撃に備えて周辺を警備している。


「それは良かった。そろそろ敵の正体を調べる必要がありますね」


 ダンジョンと広場の出入り口の監視が終わり、最低限の防衛準備はできた。次は魔物の情報を調べたい。だが魔法が使えるとはいえ、危険な偵察任務に一般人に任せてしまうのは心配だ。


 偵察を誰に任せるか礼子が悩んでいるところで、明峰が戻ってくる。


「大和姉さん、戻りました! いやー。避難途中だったおかげで、早めに終わって助かったっす!」


 警報に気づいたヴィルヘルムたちは、軽量化バッグに食料を詰め込んで広場へと向かっていた。その途中で明峰と合流したことで、礼子の任務は予想より早く終わったのだ。


「次は何をすればいいっすか?」


 危機的な状況にもかかわらず、嬉しそうに質問をする。


 悲壮な空気を漂わせている2人と正反対に、明峰は魔物の襲撃を楽しんでいるようにも見えるが、その心情はもう少し複雑だ。


 世界中の人間と同じく魔物の襲撃には恐怖心を抱いている。だがそれと同時に、礼子ともう一度、礼子と一緒に戦える舞台を用意してくれたことに感謝している。


 こういった状況を待ち望んでいた気持ちが、明峰の心の奥底にあったのだ。


「魔物の情報が欲しい……種族、数、強さを調べてくれ」


 除隊してまで、ずっと追いかけていた女性からのお願いだ。断るどころか悩む必要もない。結論は既に出ていた。


「一般人に任せて良い仕事じゃないっすからね! 大和姉さんのために一走りしてくるっす」

「危険だと思ったら逃げても良いんだぞ」

「うっす!」


 返事をすると明峰は走り出した。


 ゴーレム事務所、広場の壁、雑木林を通り抜け、砂浜の近くにまで到着する。その時間わずか5分。いくら身体能力を強化しているとはいえ、驚異的なスピードだった。


 慣れた手つきで近くの木に登り、身体能力を極限まで高めて目を凝らす。


 視線の先には、緑色の鱗をした魚に、足が生え前屈した体勢の魔物が数十体いる。手には三又のトライデントを持って、いくつかのグループに分かれゴーレムダンジョンに向かって歩いていた。


 幸いなことに歩みは遅く、到着するとしても数時間後だと明峰は判断した。

 明峰は腰のポーチから、エリーゼが作った魔物図鑑を取り出す。


「こいつはサハギンってやつっすね。基本は海中で生活し、陸上でも12時間程度なら活動できると。陸上だとスピードが落ちるんっすか。知能は低く、攻撃手段はトライデントのみっと。単体の能力はあまり驚異ではないっすね」


 本にはイラスト、生態、攻撃方法、注意事項などがビッシリと書いてある。

 襲撃されている状況下において、非常に有用な情報がまとまっていた。


「注意するべきは集団で行動することと、群れのリーダーっすか。しかも同じ種族とは限らない……数を調べるついでにボスもチェックするっすかね」


 携帯電話を取り出しサハギンの写真を数枚撮り、手に入れた情報と共に礼子に送る。返信を確認すると携帯電話をポーチにしまい込み、移動を再開した。


 近くに魔物がいるので先ほどのように全力で走れないが、それでも常人にとっては考えられないほどの速さで、ゴーレム島の周囲を回る。


 礼子からの指示により、サハギンの数を数えるだけではなく、数の少ないグループを見かけたら不意打による一方的な攻撃をしていた。


 サハギンの戦力調査と、広場にたどり着く数を減らすためだ。


 ゴーレム島を一周回り、最初にサハギンと遭遇した砂浜に戻ると、上陸中のサハギンのグループを発見する。数はおおよそ30匹。グループの中心に、一回り大きい赤色の鱗のサハギンがいた。


「あれがボスっすか? 中心人物っぽいのは、間違いなさそうっすがっ!!!」


 絶対に見つからない距離。しかも木の後ろに隠れていた明峰と、赤いサハギンの視線が合った。


 赤いサハギンはトライデントを明峰の方に向ける。穂先から圧縮された水球が飛び出した。


 身体能力を強化していた明峰はギリギリのタイミングで回避すると、水球は後ろの木に当たり、なぎ倒した。明峰はその威力から、広場の壁に何度か当たれば破壊されてしまうと推測する。


「倒しておきたいっすけど」


 水球を外したこと赤いサハギンは苛立っていた。

 周囲に命令をして明峰の追撃を指示する。


「引き際っすね」


 正面から30匹以上のサハギンと戦う危険は犯せない。そう判断した明峰の行動は早かった。

 魔石爆弾を取り出すと前方に向かって投げる。砂浜に落ちた魔石爆弾は、爆発とともに砂を巻き上げ、サハギンの視界が一気に悪くなった。


 その隙に明峰は反転すると、広場に向かって全速力で走り出す。


「ウォォォォォォ」

「獲物を逃してブチギレって感じっすかね?」


 背後から赤いサハギンの圧力を感じながら、明峰は無事に逃げ出した。



 偵察から戻ってきた明峰の報告に、礼子は頭を悩ませている。


 現在ゴーレム島に上陸しているサハギンはおよそ200。相手の武器はトライデントのみで、広場の壁さえあれば脅威にならない。だが、赤いサハギンの使うトライデントだけは別だ。魔法の射程は長く、威力もある。


 あれを一方的に放たれたら間違いなく壁は破壊され、サハギンがなだれ込んでくる。その事態は避けなければならない。


「赤いサハギンは倒すべきですね。問題は、誰が倒すかですが……」


 事務所で独り言をつぶやく礼子。その周囲には偵察任務を終えた明峰と非戦闘員の梅澤、ヴィルヘルム、ミーナがいる。


 現在ゴーレムダンジョンでも魔物が外に出ようと迫ってきている。ダンジョン探索士が順調に討伐しているので背後を狙われる心配はないが、余剰の戦力が礼子と明峰しかない。


 2人でサハギンの群れを突破して、赤いサハギンを倒す。不可ではないが、厳しい戦いになるのは間違いない。その作戦に明峰を巻き込むことに躊躇していた。


「大和姉さんは命令するだけで良いっすよ。ここに来た時から最後まで付き合うって、決めているっす」


 決意のこもったまなざしを礼子に送っていた。


「戦うなら明峰が囮になり周囲のサハギンを引き付け、私が守りの薄くなった赤いサハギンに切りかかることになる。それでもやるか?」

「愚問っすね」


 迷いを許さない即答。覚悟を決めた礼子は、大きく息を吸い込む。


「ヴィルヘルムさん。魔石爆弾はどれほど残っていますか?」

「あと3つじゃ。武器なら健人が使っていた剣もあるぞ」

「梅澤さん。私と明峰はこれから赤いサハギン討伐に出ます。その間、サハギンが近づいてきたら撃退してください」

「分かりました。無事に戻ってくることを祈っています」


 礼子は必要なことを話し終えると、ヴィルヘルムから魔石爆弾と剣を受け取り、明峰を引き連れて広場の外へと出て行った。

無人島でエルフと共同生活の1巻は、6月9日発売です。

予約も始まっています。


ここまで読んでいただいた皆様、応援よろしくお願いします。

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