表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無人島でエルフと共同生活  作者: わんた
パラダイムシフト
83/111

アマゾン探索2日目

ロングソードを使ってサラマンダーから鱗を数枚,剥ぎ取る。さらに魔石を取り出そうとするが、血の臭いに敏感な魔物と遭遇するのを避けるため、全ての魔物から魔石を取り出す時間はない。


 健人は仕方なく魔石を1つだけ取り出すと、すぐさまその場から離れる。


「最低限のものは手に入れたから行こう」

「そうね……」


 巨大クモはどのような魔物なのか調査したかったエリーゼだが、後ろ髪を引かれる思いでその場を立ち去ると決める。


「さっきの集落に戻る?」

「もう少し奥に進みましょ」


 ジャングルは魔境となっているが、幸い昆虫系の魔物は近寄れない。撤退判断を下すにはまだ早いと、エリーゼは考えていた。


 2人は、周囲を警戒しながら無言で歩く。奥に進むにつれ、巨大なアリなど様々な昆虫型の魔物を目撃し、さらに高濃度の魔力によって魔物化した食虫植物が、ジャガーを捕食する姿を見る。


 魔境に踏み込んだ2人は、混沌とした生態系を肌で感じていた。


「高濃度の魔力で魔物化した魔物ばかり。ダンジョンから出てきた魔物は少ないし、恐らくここは魔境の外縁部ね」


 目的の集落まであと少し。そんな場所で2人は短い休憩をとっていた。


「これで外縁部……奥はもっと混沌としているのか……」

「奥に行けば、ダンジョンから出てきた魔物が大量にいるはずよ」

「難易度は奥地の方が高いよね?」

「もちろんよ。強力な魔物ほど、魔力濃度が高い場所を好むのよ。魔力によって変質した生物程度じゃ生き残れないわ。当然、私たちもね」

「奥地で住んでいる人たちの生存は絶望的か」

「そうね。次の集落を確認したら引き返すわよ。出来ればその前に異世界人を見つけたいのだけど……」

「難しいだろうね……」


 ダンジョンとセットで発見される異世界人。ダンジョンが複数出現しているのであれば、異世界人も複数こちらに来ている計算になる。さらにミーナの事例を考慮すれば、その数はダンジョンより多い可能性もある。


 だが転移したばかりの異世界人が、魔境で生き残っている可能性は低いと、2人は予想していた。


「それでも出会えるとしたら、この外縁部よ。次の場所で何もなければ、周辺を少し調べてから撤退しましょ」


 魔物の存在を証明する写真、魔境という情報、これらがあれば十分な成果と言える。後は外縁部との境界線を大まかに把握すれば、初期の探索としては完璧だ。


 魔境の存在を確認できた以上、拡大を阻止するために魔物を間引く必要はあるが、それは健人やエリーゼの仕事ではない。


「異論はないよ。エリーゼの考えに従う」


 今回の探索ではエリーゼの指示に従うと決めていた健人は素直に同意する。


 状況の整理が終わると、2人は集落に向けて歩き出したが、5分も経たないうちに立ち止まることとなった。


 巨大なクモとアリの魔物が争い、捕食しあっている場面に遭遇したからだ。そんな特撮映画のような非現実的な光景を、2人は木の陰から観察していた。


「最悪……こいつら、食べるために争っているわ」

「さっきもサラマンダーが、クモを食べてたよ?」


 エリーゼはジャングル内の状況が悪いことを即座に理解する。


「死体を漁るのと、争うのでは意味が違うわ。エサとなる動物が居なくなったから、仕方なく魔物同士で争っているのよ」

「ん? それって、もしかして……」

「そうよ。魔物が魔境から一斉に飛び出す――氾濫が、もうすぐ起きるわよ」


 ダンジョンが同じ場所に複数発生して魔境化する。その結果、生物は魔物化する。そのスピードはエリーゼの予想を大きく上回っていた。


「見つからないように、ゆっくり離れるわよ」


 氾濫には、まだ猶予はあると考えたエリーゼは、当初の予定通り奥に進むことを選んだ。

 健人は無言でうなずき、足音を立てずにその場を離れた。


 目的の集落が見えてきたのは、それから2時間ほど歩いたころだった。


 2 人の前には、地面がむき出しになった広場が見える。集落の周辺には獣を避ける柵があり、その外側には、無数にある木の棒が突き刺さっており、緑色の液体が塗りつけられていた。


「魔境の外縁部とはいえ、集落が残っているとは驚いたわ」


 2人は木々が途切れるギリギリのところで身を隠し、隙間から集落を観察している。


 柵の中には木製の建物がいくつも見え、破壊された形跡もなく、その数から数十人は生活しているとエリーゼは推測した。


「煙が上がっているけど、家が燃えているようには見えないね」


 建物が焼けているにしては、煙が細すぎる。木の枝を数本焼いている程度の勢いの少ない煙だ。当然、自然界で発生するような火事とも違う。


「ということは、人がいる?」

「昆虫型の魔物が火を使うことはないわ。サラマンダーなら周囲を焼き尽くしてしまうし、原住民が生き残っている可能性の方が高いわね」

「でも、どうやって?」


 健人が疑問に思うのも当然だ。現代兵器を持っていない原住民が、魔境で生き残れる可能性は限りなくゼロに近い。唯一生き残れる手段は魔法であるが、その場合、魔力に気付くためのきっかけが必要だ。


 さらに正しい使い方を理解する知識と時間もだ。知識が全くない状態から、魔法が使えるようになるためには、ジャングルが魔境化する以上の時間が必要となる。


「きっと、異世界人が魔法を教えたのよ。私が健人に教えたみたいにね」


 必要な時間を短縮する唯一の存在が異世界人だ。ジャングルには間違いなく、ダンジョンがいくつかあるのだ。そのうちの数人が、この集落を拠点にしていても不思議ではない。


 原住民が自らの力だけで魔法の使い方を覚えるより、現実的な考え方だった。


「魔法を使える程度で、魔境の中で生活できるものなの?」

「難しいわね。でも不可能じゃないはずよ。実際、生き残りはいるみたいだし」


 エリーゼが指さした先には、一人の女性がいた。褐色の肌に長い黒髪。顔には赤や黄のラインペイントが施されている。腰に赤い布を巻いているだけのトップレス姿だ。


 原住民と思われる女性の手にはツボがあり、緑色の木の棒に液体を塗っていた。


「どうする?」

「決まっているわ。異世界人にご対面しましょ。健人は、ここで待ってて」


 この場に住んでいる異世界人であれば、魔境についての詳細な情報が手に入る。リターンとリスクを天秤にかけ、エリーゼは接触することに決めた。


 エリーゼは、健人から十分離れた場所に移動してから立ち上がり、液体を塗り付けている女性に向って歩き出す。


『止まりなさい! これ以上、近寄ると攻撃する!』


 エリーゼの足音に気付き、女性が振り返る。魔物ではなく、人間だったことに安堵の表情を浮かべる。だがそれも一瞬の事。いつでも逃げ出せる体制を取り、エリーゼに警告をした。


『魔物の調査に来たものよ。詳しい状況を聞きたいんだけど、村に入っても良いかしら?』


 女性が使う言語は、健人にとっては理解できないものだったが、言語チートを持つエリーゼには関係なかった。


 両手を上げて、ジャングルに来た理由を告げる。


『どうやって、ここまできた?』


 何も考えずに質問をした女性は、一度首を横に振り、


『いや……なぜ、ここまでこれた?』


 改めてエリーゼに質問をする。


『あなたたちと同じ方法よ。虫除けの道具を持っているの』


 答えに納得した女性の表情が少しだけ和らぐ。


『外部の人間との会話は許されていない。ボスを呼ぶ』


 そういうと女性は、口をすぼめて音を出す。


 エリーゼはその行為をしばらく見守っていると、集落の奥から一人の男性が出てくる。


 服装は女性と似たような恰好だが、色白の肌に金髪。それだけで原住民とは種族が違うことが容易に分かる。さらに頭にはライオンのような丸い耳と、先端に丸い塊のある細長いしっぽがあった。


『お前、エルフか? こっちの世界にも居るもんなんだな』


 突如現れた獣人の異世界人は、エリーゼの姿を見て驚きと共に鋭い眼光で睨んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ