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無人島でエルフと共同生活  作者: わんた
パラダイムシフト
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アマゾン探索1~2日目

 夜の見張りは交代制となり、前半は健人が受け持つことになる。


 明かりのない夜。家の入り口から、健人が空を見上げる。日本では見ることできないほど、星が輝いてきれいな夜空だ。だが残念ながら、美しい風景を楽しむ余裕はない。いつ襲われるか分からない緊張感。葉のざわめきでも過剰に反応してしまうほど、健人は神経をすり減らしていた。


 それは、エリーゼと見張りを交代して、部屋で横になっていても変わらなかった。


 幸いなことに夜が明けても襲われることはなかったが、


「あまり、寝れてないようね」


 このような野営に慣れていない健人は、ほとんど眠ることができなかった。


 重い体を無理やり起こした健人に、エリーゼが声をかける。


「そうだね……全然、寝れなかった。安全な部屋で寝れるありがたみを感じているところだよ」


 周囲が明るくなったことで、ようやく健人の不安が和らぐ。


「今日は早く寝るのよ? 休めるときに休む。訓練だと思ってしっかりやってね」

「訓練というには、危険すぎる気もするけど……」

「私の世界だと、魔物がいる森で夜を明かすなんて普通よ」


 エリーゼは、こういった野営には慣れていた。熟睡こそしなかったが、浅い睡眠でもきっちり、頭と体を休めている。


「今日は、もっと奥地にある集落へ向かうわ。さっさと朝食を食べて移動しましょ」


 健人は眠い目をこすりながら、朝食の準備を始め、数分で簡素な食事を終わらせると、すぐに荷物を持って奥へと歩き出した。


 家から出た健人が空を見上げる。雲一つない、見事な晴天だった。


 異変を感じたのは、集落から出て1時間ほどだった。周囲の魔力濃度が急上昇したのだ。さらに、鳥の鳴き声が聞こえなくなり、動物も見かけなくなる。異様に静かな空間。ジャングルという生物が豊かな場所で、ザッ、ザッと、歩く音だけしか聞こえない。


 依頼さえなければ、早急に立ち去るべき雰囲気を漂わせている。だが危険だと分かっていても、今の健人とエリーゼは前に進むしかなかった。


 異変を感じてから、事態が変わるのに時間はかからなかった。先頭を歩くエリーゼが右手を上げる。止まれの合図だ。健人が前をのぞき込むと、数メートル先に人の背丈ほどある巨大なクモがいた。


「っ……!」


 驚きのあまり、声を出しそうになった健人。この場合、声を出さなかったことを褒めるべきだろう。


 巨大クモの全身は黒い毛におおわれ、頭は血のように赤い。黒と白のゼブラ模様の足をきれいに折りたたんでいた。


「寝ているのかしら? 恐らく、夜行性のクモね……」


 運よく木の陰で休息しており、健人たちには気づいていない。


「健人の世界には、こんな大きいクモっていないわよね?」

「うん。絶対」

「私が知らない魔物だし、この世界のクモと交配してできた魔物かしら? それとも……」

「それとも?」

「この場所は魔力濃すぎるわ。もしかしたら、そのせいで変異したのかも」


 エリーゼの世界には、魔境と呼ばれる場所がある。そこは周囲の魔力が異常なまでに濃く、魔法が使えない生物、特に胎内にいる子どもを魔物化させていた。


「想像していたより、ヤバいかもしれないわ……。ダンジョンから魔物が出たんじゃなくて、ここに生息している生物が魔物化しているかも。きっと、この近くにダンジョンが複数あるはずよ」


 そのような場所は通常より危険なのは当然として、必ず、近くに複数のダンジョンがあった。魔力の発生源が複数あり、それぞれの魔力が混ざり合うことで、魔境が出来上がるのだ。


「もう少し様子を確認したいから、一旦、下がるわよ」


 距離を取ろうと動いたところで、巨大クモがゆっくりと立ち上がる。頭についている6つの黒い眼は、健人たちを捉えていた。


「まずいわ!」


 エリーゼは慌てて青く輝く矢を創る。すぐさま矢を番えたが、放つことはなかった。


「待って! 動きがおかしい!」


 健人の指摘によって異変に気付いたからだ。


「こっちに来ようとしているけど……前に出れない?」


 巨大クモは数歩前進すると、すぐに後退する。それを何度も繰り返していた。まるで見えない結界に阻まれているように、前に進めないのだ。


「健人、何か魔法を使っているの?」

「まだ何もしていない。近づいてきたら土棘で串刺しにするつもりだったよ」

「じゃぁ、なんでアイツは、踊っているのかしら?」


 獲物を取り逃がしたくない巨大クモは、諦めることはなかった。何度も前に出て、後ろに下がる。それを絶え間なく繰り返している姿は、エリーゼが表現した通り踊っているように見える。


 健人は自ら置かれた状況を整理し、しばらく悩むと、1つの結論を出す。


「もしかしたら、これのおかげかもしれない」


 健人が手にしていたのは、ベルトループから取り外した虫除けだった。


「……あり得るわね。ベースが虫であれば、ミーナお手製の薬は役に立つはずよ」

「ちょっと、試してみる」


 手に持った虫除けを、巨大クモに投げる。すると大きく跳躍して後退した。


「帰ったら、ミーナに特別ボーナス確定だね」

「ええ。たっぷりと上げましょ」


 魔境という危険な場所で、思わぬ朗報に2人とも大きく安堵する。


「向こうが近づけないことも分かったし、そろそろ倒すわね」


 エリーゼが、番えていた矢を放つ。


 放たれた矢は、周囲の気温を下げながらクモに向って一直線に進む。狙い通り赤い頭部に突き刺ささると、その数秒後、矢が爆発する。


 巨大クモの頭部が氷漬けになり、砕けるように力なく倒れる。


「証拠の写真を撮っておきましょ」


 健人は自身が持っているカメラを取り出すと、頭部が氷漬けになったクモを写真に収めた。


「魔石があるか、確認しに行き……」


 写真も撮り終わり近づこうとしたところで、エリーゼが動きを止める。周囲を警戒するように見渡してから、健人の手を引いて後ろに下がった。


「エリーゼ!?」


 健人が悲鳴を上げそうになるが、木の陰に隠れて口を押さえられてしまった。


「少し黙ってて」


 エリーゼの緊迫した声に気圧され、健人は無言でうなずく。2人で木の陰から、ゆっくりと巨大クモの死体があった場所を見ると、1周り小さい赤い鱗を持つトカゲが、3匹。死体を食べていた。


「このトカゲは知っているわ。サラマンダーと呼ばれる魔物よ。口から火の玉を吐き出すから要注意ね」

「……こいつも写真に収めておくか」


 健人が証拠となる写真を撮影している間、エリーゼが今の状況を整理する。


 周囲の魔力が濃く、生物が魔物化している。さらにダンジョンから出てきたと思われるサラマンダーまでいた。間違いなく複数のダンジョンがある。


 さらに生物の頂点たる魔物を、別の魔物が食べている状況は良くない。普通の動物が極端に減ってしまった影響だ。こうなってしまえば魔物の生息範囲が広がるのも時間の問題だ。


「本当にやっかいな依頼を受けてしまったわね……」


 エリーゼは魔物除けを起動させながら、大きくため息をはいた。


「魔物除けが起動していれば、魔法の発動が察知されにくくなるわ。健人、魔法でまとめて倒してもらえないかしら?」


 写真を撮り終わった健人が、手を前に出し魔法を発動させる。鉄よりも硬く頑丈な氷槍が1本、2本、と作られ、最終的には10本の氷槍が健人の周囲に創られた。


「打ち漏らしたら、私が倒すわ」


 エリーゼも緑色に輝く矢を創り出し、全ての準備が整う。


「いけ!」


 健人の掛け声とともに、10本の氷槍が、サラマンダーに向って放たれた。木々を縫うように、複雑な軌道を描き、食事に夢中になっているサラマンダーの目や口を中心とした、頭部に命中し、悲鳴を上げることも許されず3匹とも絶命した。


「素晴らしいコントロールね」


 エリーゼは、ずば抜けた魔法のコントロール力に感嘆していた。実戦経験は確かに足りない。だが、それを補って余りあるほど、健人のコントロール力は卓越したものだ。


「魔石の他に鱗も有用よ。ヴィルヘルムとミーナのお土産にちょうど良いわ。リュックに入るだけ、持って行ききましょ」

「わかった。俺が魔石と鱗を剥ぎ取るから、エリーゼは周囲を警戒して。それでいい?」

「問題ないわ」


 ロングソードを片手に、慎重に近づく健人。その後姿を、頼もしいと思いながら、エリーゼは自分に与えられた仕事に集中することにした。

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