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無人島でエルフと共同生活  作者: わんた
パラダイムシフト
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アマゾン探索1日目

 観光を楽しんだ翌日から、2人はホテルに缶詰になる。


「はっ!」

 健人は、持ち出し厳禁のロングソードを広すぎる室内で振り回し、扱い方を学んでいた。


 大剣より間合いが短い代わりに小回りは利くが、木々が生い茂るジャングルでは、それでも使いにくい。コンパクトに振り、時には突く。ロングソードの長さを体に覚えさせるために、同じ動作を何度も繰り返してた。


 次第に扱いに慣れてくると、エリーゼは床に物をばらまく。足場の悪い環境の再現だ。物を踏んでもバランスを崩さないように、健人は全身の筋肉を使ってバランスを取り、ロングソードを振る。これを3日間、休まず練習し、エリーゼは練習に付き合っていた。


 無論、戦闘の練習だけで探索の準備は終わらない。


 健人たちが訓練に集中している間、探索に必要な道具は鈴木、田尻が担当した。健人とエリーゼが着る予定の、黒いダボダボの上着とズボン。それと鉄板の入った丈夫で長いブーツ。さらに移動用のボート、食料や水などだ。


 表向きは観光として滞在しているので、探索の道具も全て現地で調達する必要があったのだ。彼らの協力がなければ、当日までに必要なものを揃える事はできなかっただろう。


◆◆◆


 マナウスに滞在してから4日目の朝。ネグロ川に、一隻のボートが浮かんでいる。木製の船体には、エンジンと屋根だけがある、簡素なものだ。5~6人乗ったら定員を超えてしまうほど小さい。


「ボートで奥地まで行く予定です。健人さんが上陸してから3日後に迎えに来ます。それまでに、探索は終わらせてください」


 魔物と戦えない彼らは、ボートから降りることはなく、危険地域付近の水上で、待機し続けるわけにもいかない。健人たちの帰還を信じてマナウスに戻り、3日後に迎えに来る段取りとなっていた。


「大丈夫です。時間も惜しいので行きましょう」


 ボートを揺らしながら、布に包んだロングソードを持った健人が乗り込む。奥に進むと、屋根の下に日本から持ち込んだリュックが置かれていた。


「健人さん。端っこに寄ってもらえませんか?」


 指示に従うと、田尻が船尾の方まで移動する。


「全員乗り込みましたね。これから動くので、しっかりとつかまってください」


 エリーゼが健人の隣に座り、鈴木が船首の方に座る。田尻がエンジンを始動させると、騒音と共にボートが揺れ、ゆっくりと動き出した。


 ネグロ川には、魔物の存在を知らない観光客を乗せたボートが盛んに行き交う。健人たちのようにジャングルに向かう船もあれば、マナリスに戻る船もある。ここだけを切り取ってみれば、平和な光景だった。


「本当に魔物がいるんですか?」

「恐らくは……」

「平和なのはいいことよ。今ここで襲われる心配がないのだから」


 エリーゼは他の船をカナリア扱いしていた。もうすでに危険なエリアに足を踏み込んでいるのだ。他人を心配する余裕など、どこにもない。


 緊張感を裏切るようにボートは順調に進み、次第に周辺の魔力が濃くなり川幅も広くなる。そんなタイミングでエリーゼが水質の変化に気付いた。


「水の色が違うわ」


 声に反応した健人が、前方を見る。左側は光を反射した青い川、右側は茶色く濁っている川。それらが、溶け合うことなく流れていた。


「これも、ダンジョンの影響?」


 色のついた水は絵の具のように混ざり合うと思い込んでいる健人。遠くまで続く2色の川。その珍しい光景に、ダンジョンの影響ではないかと勘違いしていた。


「ネグロ川とソリモンエス川の合流ポイントですね。ダンジョンとは関係ありません」


 船首にいる鈴木が、2人の疑問に答える。


「初めて見たときは、私も驚きました。水流や水温の影響などで混ざり合わず、その結果、世界でも珍しい2色の川が誕生したみたいです」

「……世界は広いわね」


 2色の川が存在するなど、想像すらしたことがなかったエリーゼ。緊張感が緩むほど驚いていた。


「川で魔物を発見された報告はありません。恐らく問題なく現地まで到着すると思います。しばらくはこの景色を堪能しててください」


 珍しい景色を発見してから、緊張感より好奇心が勝ったたエリーゼが、バッグからカメラを取り出す。


「一緒に写真を撮らない?」


 断る理由もなく、健人は頷き。川を背景に手早く写真を撮る。


 無論、その間も魔物に襲われることはない。撮影が終わりまた定位置に座ると、エリーゼは川の流れを見つめていた。


 その後も順調に進み、途中から川幅が細い支流に入って奥へと進む。さらにそこから数時間経過すると、予想どおりトラブルなく目的の川辺に到着した。


◆◆◆


 ボートがゆっくりと進み、砂浜に乗り上げる。


「過去の探索チームも、ここからジャングルに入りました。まずは、この先にある原住民の集落に向ってください。無事であれば、拠点として使えるはずです」


 鈴木の目線の先には、木々の生い茂るジャングルがある。良く見ると、人の歩いた形跡があった。人が一人歩ける程度の、地面がむき出しになった道があるのだ。その道は最寄りの集落へと繋がっている。とはいえ、最低でも数時間は歩かないとたどり着かないが。


 ボートが完全に固定されると、健人とエリーゼは準備を進める。


 腰につけたポーチに魔石爆弾を入れ、ベルトループにミーナお手製の虫除けをつける。サバイバルキット、携帯食料、水、魔石、魔物除けの入ったリュックを背負う。リュックベルトには、方位磁石がぶら下がっていた。


「準備は出来ました。3日後、必ず来てくださいね」


 ロングソードを手にした健人が、鈴木に話しかける。


「もちろんです」


 2人が手を差し出し握手をし、鈴木はボートに戻ると川岸から離れていった。


「行くわよ」


 見送りが終わると、エリーゼが先頭となり、ついにジャングルへと足を踏み込んだ。


 木々が陽を遮り、辺り一面は薄暗い。さらに枝や葉が視界の邪魔をする。地面も起伏があり、地味に体力を削る。そんな場所をエリーゼは、気に目印をつけながら、慎重に歩いていた。


「ミーナの虫除けは、効果抜群ね。私が近づくと、虫が逃げていくわ」


 ブヨやアリ、ムカデといった昆虫が、道を譲るように避けていく。虫除けの効果は、目に見えるほど高かった。


「帰ったら、ボーナスをあげないとね」

「賛成ね。そのためにも無事に帰りましょ」

 魔力は漂っているが、いまだ魔物の気配はない。警戒が雑にならない程度に、会話をする余裕があった。

「健人、この先に蛇がいるわ。毒を持っていたら厄介だから、魔法で静かに倒して」


 足から放たれた魔法が地面を伝わり前方の蛇に向かうと、次の瞬間には地面から生えた土棘が頭を貫いていた。


「発動も早く、正確ね。良い感じよ」


 健人の肩を軽くたたいてから、エリーゼが歩き始める。その後も、何度か蛇やジャガーなどを見かけては倒し、順調に奥へと進む。数時間経過すると急に視界が開けた。


「ここは原住民が住んでいた場所なのかしら?」

「そうだね。ほとんどの家は壊れているけど……人もいないね」


 草が生えた広場。その中には、ドーム状の木製の建物が、いくつもある。壁がたたき壊され半壊しているものもあれば、焼け落ちた家もある。異変が起こる前なら、人影などあっただろうが、今は廃墟のようだった。


「家を調べるわよ」


 出入り口にドアはない。難なく中に入ることができた。


 最初に目についたのは床に散らばる、狩りの道具。弓矢、槍といったものが散乱している。さらにバナナなどの食料も置いたままだ。地面がむき出しになった床には、所々に穴があった。


「この穴は何かしら、魔物の足跡? 地面に穴をあけるなんて、変わった足をしているのね」


 エリーゼがしゃがんで、穴の様子を観察している。


「こっちを見てくれ!」


 穴の跡をだとった健人が、緊迫した声を上げた。


 エリーゼは思考を中断して、家の奥へと進む。そこにあったのは、立ち尽くしている健人と赤く染まった地面があった。


「人の血だよね?」

「そのようね。ここで襲われて、食べられたみたいよ。ほら、奥に骨が残っているわ」


 エリーゼの指先には、崩れかけた頭蓋骨があった。


「ここは、もういいわ。他の家も調べてみましょ」

「う、うん……」


 動揺が隠し切れない健人を強引に連れて行き、他の家も見て回るが、どこも似たような状況だった。中は散乱しており、魔物に襲われた痕跡も見つかる。


「物を取るわけでも、虐殺するわけでもなしと。やっぱり、魔物に襲われたと考えるのが妥当かしら?」

「これから、どうする?」

「もうすぐ日が暮れそうね……今日は、キレイに残っているこの家で夜を明かしましょうか」


 野外で寝るより、壁がありば多少なりとも安心できる。そう考えての提案だった。


 健人が同意すると、リュックから魔物除けを取り出し、部屋の中心でスイッチを入れる。ゴーレムダンジョンで実験した通り、室内全体に広がる魔法陣が展開された。


 辺りが明るいうちに全てを終わらせたかった2人は、リュックから携帯食料を取り出して味気ない食事を数分で終わらせると、道具の点検、翌日向かう場所を話し合っている間に日は完全に落ちた。

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