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無人島でエルフと共同生活  作者: わんた
ダンジョン運営、始めました
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魔物の群れ

「逃げましょう!」


 通路の奥にいる魔物の群れを見て、最初に動き出したのは我妻だった。すぐさま反転すると、進む予定だった奥の通路へと走り出す。前のパーティではリーダーをしていた我妻の声に藤二も従い続いて走り出す。


「健人の命令が出る前に行動するな!」


 現在のリーダーは健人だ。その命令を待たずに勝手に行動し、そのうえ敵から逃亡する。礼子の常識では考えられない暴挙に出た2人を怒鳴りつけるが、声は届かなかったようで通路の奥へと進んでいく。


「健人、私達も逃げるわよ」

「……ああ」


 本来であれば我妻の様に即座に判断をして逃走を選ぶべきだったが、大量の魔物を見て気圧された健人は、エリーゼの声がかかるまで硬直したままだった。


「礼子さん、エリーゼの順番で逃げて。殿は俺が受け持つ!」


 命令を受けた礼子がすぐさま走り出す。エリーゼは一瞬戸惑いを見せるが、健人が無言で、うなずく姿を見ると何も言わずに後を追った。


 後姿を見送った健人は、魔物が迫りくる通路をにらみつけると。ありったけの魔力を込めて、氷槍を6本創りだし、狙いをつけることなく通路の奥へと放つ。さらに6本の氷槍を創り出すと、合間を開けずに通路の奥へと放つ。これを数回繰り返し、魔物の進行を止めると、身体を反転させて礼子とエリーゼを追いかけるために走り出した。


 我妻を見失わないように必死に走っていた礼子は、後ろから衝撃音が聞こえたことで健人の足止めをしたことを確信する。しばらく走り、ここまま逃げ切れると思い始めた頃に、左右に分かれた道が見えてきた。


「前に左右の分岐! 左に曲がった我妻を追います!」


 先行する我妻達を追うべく迷うことなく分岐を左に曲がろうとするが、右の通路から魔物の気配を感じたため直前で急停止することとなった。


「曲がる前に魔物を倒す!」


 礼子達が立ち去った後に健人が遭遇すれば、後ろから迫りくる魔物の群れと挟み撃ちになる可能性もある。全員が無事に生き残るためには、今ここで倒す必要がある。戦う覚悟を決めた礼子は、ゆっくりと赤い刀を創り出し迎撃の態勢を整えた。


「スペルブックだけ……?」


 右の通路からゆっくりと表れたのは、空中を漂うハードカバーの洋書――スペルブックだった。本の形をしているが文字が書かれているわけではなく、不思議な幾何学模様が浮かべながら、礼子を邪魔するように分岐の中心まで移動して漂っていた。


 目の前の魔物が行動しないことに驚いたものの、魔法を使われる前に倒してしまおうと切りかかる。だがその一瞬の驚きが魔法を発動させる隙を与えてしまった。スペルブックが礼子との間に土壁を創り出し、通路を完全に封鎖してしまったのだ。


「「「逃げ道をふさがれた!?」」」


 先行していた礼子とエリーゼ。そしてこのタイミングで、ようやく追いついた健人が声をそろえて驚く。


 目の前に出現した土壁は通路を隙間なく埋めており、破壊する以外の手段で先に進むことは出来ない。


「俺の魔法で壊す!」

「待って!」


 珍しく即断即決した健人が魔法を放つために腕を出すが、エリーゼにつかまれてしまい魔法を放つことは出来なかった。


「なん――」

「静かに!」


 口を押えられて抗議するタイミングを失い、エリーゼの指示に素直に従った健人は、すぐに異変に気付く。


「……土壁の向こうから音が聞こえる?」

「恐らく足音よ。それも、かなりの数がいるわね」


 後ろから数えきれないほどの魔物が迫っている状況で、目の前の土壁を破壊すれば、前からも魔物に襲われてしまい危険度は跳ね上がる。だからといってこの場に残っていたら、我妻や藤二を完全に見失い、合流するのは難しくなるだろう。


「……健人さん。どうしますか?」


 判断を仰ぐように、礼子が健人を見つめる。エリーゼもこの場は健人に任せるようで、口をはさむことはなく同じように顔を見ていた。


「…………壁を背にして、後ろから来る魔物を倒そう」


 目を閉じてから数秒。健人が選んだのは背水の陣――土壁を背にして、最初に遭遇した魔物の群れを倒すことだった。


「俺が先頭に立つからエリーゼが援護。礼子さんは土壁が消滅しないか監視してください」


 すぐさま礼子は土壁の近くに、健人は大剣を両手で握って通路の前に出る。そしてエリーゼが、2人の間に立って矢を創り出して弓を構えると同時に、魔物の群れが視界に入る。数は多いものの、通路を移動したおかげで魔物の群れが縦に伸び、集団の密度は最初に比べて低くなっていた。


「スペルブックを中心に攻撃して!」


 声に反応したエリーゼが矢を放つと、魔物の群れにいるスペルブックに向って飛ぶが、その半数はストーンゴーレムが体を盾にして防ぎ、予想より少ない数のスペルブックが矢に当たり消滅した。


「前に出る! 引き続き援護よろしく!」


 再び魔法で矢を創り出し攻撃するには近すぎる距離だった。

身体能力を限界まで向上させて魔物の群れに飛び込むと、一人で戦うには広い通路を縦横無尽に走り、健人は大剣を振り回した。


 近くには図体が大きく、動きの遅いストーンゴーレムしかいなかったのが幸いし、狙いの甘い攻撃が当たると真っ二つに叩き切り、ストーンゴーレムの上半身が回転しながら宙に舞う。周囲を囲まれないようにすぐに天井すれすれまで跳躍すると、氷槍を連続して雨のように放ち、魔物を黒い霧へと変える。着地と同時に地面から氷槍を出現させると遠くに待機していたスペルブックに命中させた。


(よし! うまくいった!)


 剣と魔法の連続使用。ベテラン探索者でも実践するのが難しい戦い方を、魔物に囲まれた状況で実践できていた。


(数は多いけど、エリーゼと2人ならさばき切れる!)


 エリーゼの実力が発揮できるように魔物を引き付ける健人。その健人が攻撃を受けないようにと魔物を処理するエリーゼ。出会ってからこれまでの間に築き上げてきた2人の連携が、今この場で最大限の効果を発し、考える余裕が出るほど、戦闘は有利に進んでいた。


「流石ですね……」


 大量の魔物を素早く処理する2人の戦闘を呆然と眺めていた礼子がつぶやく。


 数は多かったが密集していなかった、適切な援護があった、背後から攻撃される心配がないといった好条件があったものの、大量の魔物を目の前にして苦戦することない。数十分後には、最後まで生き残っていたストーンゴーレムに大剣を突き刺して戦闘は終了した。


「もう……だめ…………」


 全力で走り回り魔物を攻撃していた健人は、糸が切れた人形のように倒れ、胸を大きく上下させていた。無事に勝ったとはいえ無傷とはいかず、全身に打撲による鈍痛があり、身体を動かそうとしても体が言うことをきかない。全ての力を出し切り、腕すら上がらない状態だった。


「少し休みます――土壁が消えましたね……魔物はいないようです」


 健人が回復するまで休もうと声をかけると同時に、通路をふさいでいた土壁が光の粒子と共に消える。礼子が、恐る恐るといった風に通路の先にあるT字路の左右を確認するが、魔物1体すら居なかった。


「やけにタイミングがいいわね」


 戦闘が終わると、この先を行けと言わんばかりに障害物が消える。これを偶然だと思うほど、楽天的に考えることはできなかった。


「……シェイプシフターが魔物を使って……殺そうとしている?」


 仰向けになり乱れた呼吸を整えながら、思いついたことを口に出した。


「間違いなくそうよ。指揮する魔物がいない限り、こんな動きはしないわ。大量の魔物に襲わせて殺そうとしているのよ。この先に進んだら、次の罠があるのかしら?」


 ストーンゴーレムとスペルブックの様に知能がほとんどない魔物でも連携ぐらいはする。そんな中に、シェイプシフターのように知能が高い魔物がいればどうなるか? 今みたいに魔物の群れを作ることも不可能ではないだろう。そう、健人達は結論を出していた。


「だとしても逃げるわけにはいかない。体力が回復したら先に進もう」


 魔物が魔物を指揮し、敵を襲う。この事実に気付いたとしても、名波議員との約束がある限り、逃げるという選択肢は存在しなかった。何があってもシェイプシフターを討伐して「外で活動したがる魔物」の存在を隠す。もう一度、心に誓ってからゴーレムダンジョンの奥へと進んでいった。

もしかしたら、少し書き直すかもしれません。


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