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無人島でエルフと共同生活  作者: わんた
ダンジョン運営、始めました
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シェイプシフター討伐開始

 先頭を藤二と我妻が歩き、数メートル後ろを健人とエリーゼ、さらに最後尾は礼子が歩いている。

討伐と言えば魔物を倒すための武器を持って挑むというイメージが先行するが、実際に武器を持っているのは健人とエリーゼだけであり、他のメンバーは素手だった。


 その最たる理由は、ダンジョン探索士が新しい職業だと世間では広まりつつあるが、簡単に武器が手に入るほど世の中が変わったわけではない。未だ銃器の所持は禁止されているうえに、剣や槍といった武器が、探索の途中で壊れることも多い。


 ダンジョンで武器を手に入れない限り、魔法で戦うほうが効率よかった。そのため、エリーゼと同じ創造系の魔法タイプは人気であり、パーティ内に必ず1人はいる。このパーティもエリーゼ、我妻、礼子が、そのタイプだった。


 普段であれば進路の確認といった、探索に必要な会話があるはずだが、先ほどの一件で、討伐パーティの雰囲気は悪く、誰一人言葉を発することなく、重苦しい空気が支配していた。


 人工的に作られたような石畳の床を叩くような靴の音が鳴り響く。魔物と遭遇すれば、藤二が石槍を創り放つと、我妻が白い日本刀を創り出すと動きの止まったウッドドールにとどめを刺す。健人達の助けなど必要なく、先頭を歩いている2人だけで倒してしまい、無言で魔石を拾うと後ろをいちべつしてから再び歩き出す。


(実力は問題ない。シェイプシフターと戦うときには必要な戦力なのは間違いない。だけど、彼らは俺の指示には従わないだろうな……)


 先ほど健人が先頭を交代しようと声をかけた時に「先頭を歩くのは慣れている」とあからさまに拒絶されていた。名目上のパーティのリーダーは健人ではるが、藤二は健人の指示に従う気はなかった。また我妻は、藤二が問題を起こさないように監視することに専念しているため、できれば健人達とは距離を置きたいと考えていた。


 そのような思惑もあり実質2つのパーティが数度の戦闘を繰り返す。ウッドドール程度で苦戦するメンバーでもないため、目的地までは順調に進み、地下2階に続く階段の前にまで到着した。


「少し待ってもらえないか?」


 藤二と我妻は若い。20代のそれも前半であれば、感情に振り回されてしまうこともあるだろう。そんな時は時間をおいてから、話しかけたほうが良い。だが、短期間でシェイプシフターを討伐する必要があり、そんなのんびりとしたことは言ってられない。遭遇する前に関係を修復しなければ、致命的なミスを犯してしまうだろう。


「降りる前に、出現する魔物について説明してもらえないかな?」


 会話をする必要性を感じていた健人は、階段の近くで立ち止まると、前を歩く藤二と我妻に声をかけることにした。


 無言で階段を降りようとしていた2人だったが、さすがにこの意見を無視するわけにもいかず、立ち止まって振り返る。


「……藤二の監視に気を取られて、重要なことを伝えるのを忘れていました」


 我妻は失敗してしまったといった気まずそうな表情を浮かべているが、藤二は健人を睨みつけたまま沈黙を貫いている。このような態度ではエリーゼに好かれるどころか嫌われるだけだが、態度を改めようとはしなかった。


「地下2階に出現する魔物はスペルブックとストーンゴーレムです。個別の能力はさほど高くないのですが、彼らは必ず複数で襲ってきます。それも連携して、です。これが最大の問題でした」


 ウッドドールも複数で襲ってくる場合もあるが、それは珍しいパターンであり、基本的には単体で襲いかかってくる。それを、パーティを組んだダンジョン探索士が取り囲んで、フクロ叩きにするのが一般的な戦い方であった。


 だが地下2階に発生する魔物は違った。必ず複数体で襲い掛かり、連携までしてくる。ウッドドールとの戦闘が子どもの遊びだと言われても仕方がないほど、探索の難易度は上がっていた。ここから先は魔法による力任せの戦いではなく、パーティの連携が重要になってくる。


「なるほど……下に降りる前に、戦闘時の役割を決めたほうが良さそうだね」


 周囲を見渡してから健人は、自らの考えを言葉にする。


「エリーゼと俺が遠距離から魔物を攻撃して、近づいてきたら我妻さんと礼子さんが前衛として戦う。藤二さんは戦闘に参加せず、背後から魔物が来ないか警戒に専念してください」


 魔物が近づくまでは健人とエリーゼが遠距離から攻撃し、近づけば我妻と礼子が武器を創り出して攻撃をする。数が多ければ健人が大剣を持って参戦するなど、状況に合わせて柔軟に対応できる体制だと、健人は考えていた。


 横にいるエリーゼも、うなずくことで健人の案に同意していることをアピールしている。


「藤二と別れるのですか……」

「2人が使える魔法を考慮した配置なんだ。不満があるかもしれないが我慢してほしい」

「……分かりました。健人さんの指示に従います」


 藤二の監視ができなくなると不安を抱いた我妻だったが、正面から健人の指示を拒否することもできず、受け入れることに決めた。


 基本的な方針がまとまると、すぐに魔物と戦う際の具体的な行動を話し合いが行われ、ついにシェイプシフターがいると思われる、ゴーレムダンジョンの地下2階へと降りて行った。


 地下2階は今までと同じように、きれいに整えられた石畳の通路と壁に囲まれた場所であり、上の階と違いは全く感じられない。ここが1階だと言われても信じてしまうだろう。だが、出現する魔物の強さは大きく違った。魔法が飛び交う戦闘で油断していれば、すぐに殺されてしまい、死体、遺留品すら残らずダンジョンに吸収されてしまう。


 まさに今、健人達が戦っている魔物は、油断どころか余裕すらなかった。


「私が撃ち漏らした魔物を攻撃して!」


 エリーゼが赤銅色に光る矢を、ハードカバーの本が開いた状態で宙に浮いている3体のスペルブックに向けて放つ。2体のスペルブックに突き刺さるとが燃え上がるが、前衛のストーンゴーレムが腕を前に出して身を挺して残りの1体をかばう。さすがにストーンゴーレムを貫くほどの魔力は込められておらず、腕に当たると同時に矢は消滅してしまった。


 攻撃の結果を見届けた健人は、用意していた氷槍を2本放つ。1本はストーンゴーレムの頭部に命中してとどめを刺し、もう1本が、撃ち漏らしたスペルブックを貫いた。だがスペルブックも、消滅する寸前に風の塊を放っていた。


「我妻さん!」

「分かっています!」


 健人と同タイミングで目の前の空間の歪みに気付いた我妻が、自身の腕に白く輝く盾を出現さ健人の前に立つと、ドンっと低い音がダンジョン内に響き渡る。衝撃に耐えた盾が消えると、魔物がいた場所には4つの魔石だけが転がっていた。


「話で聞いていた以上に厄介だ……」


 魔石の回収が終わると、先ほどの戦闘を振り返る。連携すると言っても攻撃の射程が違うだけで、バラバラに攻撃してくるだろうと、健人は考えていた。だが実際は、相手をかばうといった判断をするようになっている。


 今回の戦闘ではなんとか問題なく乗り切れたが、状況に応じて行動を切り替える知能があるということは、地下2階の魔物には学習能力もあるだろうと、健人は考えていた。


「地下2階で、このレベルはおかしいわ。新宿ダンジョンでハーピーが出た時にも気になったんだけど、私の世界のダンジョンより難易度が高いように感じるわね」


 ゴーレムダンジョンの1階に出現したフロアボス。高度な連携をする魔物。どれもエリーゼの世界では、もっと下層で出現するような魔物であり、浅い階層で出現するような魔物ではなかった。ダンジョンという全体的な仕組みはエリーゼの知っているものだが、その中身――魔物は全くの別物だった。


「でも、先ほどの戦闘は危なげなかったと思いますよ?」


 礼子が指摘する通り、バランスの良いパーティ構成に加えてエリーゼと健人の魔法をコントロールする能力は高い。先ほどの戦闘も余裕はなかったが、油断さえしなければ何度戦っても勝てる相手であり、十分に距離が離れていれば相手が近づく前に全滅させてしまうことも可能だった。


「あれの倍以上の数で来られたら、流石に危ないわよ」

「……確かにそうですね」


 だがそれも魔物の数が健人達と同じ程度だという前提で成り立っている。数が増えればそれだけで脅威だ。


「我妻さん達はどう思いますか?」


 健人、エリーゼ、礼子から微妙に距離を取っている我妻と藤二に声をかける。


「イレギュラーが発生しない限りは、問題ないと思います」

「分かりました。では、先に進みましょう」


 経験者からも特に意見がないと判断した健人は、隊列を戻してから再び歩き出す。


 その後、何度か戦闘を繰り返しながらも通路を進むと、大部屋が見えてきた。中にはストーンゴーレムが2体とスペルブックが1体いるだけであり、特に変わったところは見えない。大部屋の奥には通路があり、まだ先に行けるようだった。


「相手は気づいていないようなので、先制攻撃をして倒します」


 宣言が終わるとすぐさま、健人、エリーゼが魔法を放ち、不意打ちによる遠距離攻撃により相手が反応する暇を与えずに倒す。


 全員がフロアに入って魔石の回収が終わり、フロアから出ようとすると、通ってきた通路から地響きのような足音が聞こえてくる。


「通路から魔物よ! 数がかなり多いわ!」


 エリーゼの警告によって振り返った健人達は、通路を埋め尽くすほど大量の魔物がいた。


 数時間も歩き回り、さらにシェイプシフターが出てこないことに緊張感が薄れていたことが影響し、気づいたときには魔物の群れが目の前にまで迫っていた。

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