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無人島でエルフと共同生活  作者: わんた
ダンジョン運営、始めました
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ダンジョン探索士と合流

 東京での予定を全て消化した健人は、エリーゼをゴーレム島に送ると、急ぎ九州に滞在しているダンジョン探索士の我妻と藤二と面会することとなった。彼らは、シェイプシフターの被害者である豊田のパーティメンバーであり、地下2階にまで到達し、今回の討伐に必要なメンバーであった。


 夜、料理店の個室で、豊田がシェイプシフターに捕食され死亡したこと、そして、その魔物を討伐するチームに参加して欲しいと依頼すると、2人とも涙を流しながら敵討ちだと言わんばかりに快諾をし、翌日には我妻と藤二をクルーザーに乗せてゴーレム島に戻ることとなった。


 予定通りに健人達がゴーレムダンジョンの前に到着すると、すでに探索の準備が終わっているエリーゼと礼子、明峰が待っていた。


「健人の道具はまとめてあるから」


 足元には探索用のリュック、服、靴、大剣が置いてあった。

 エリーゼや礼子といった女性の前で着替える度胸のない健人は、軽く礼を言うとすぐさま道具を拾い上げ、ゴーレム事務所へと向かって歩き出す。時間にして数分。大剣を片手に持ち、耐刃防護衣を来た健人が外に出ると、怒鳴るような声が聞こえてくる。


「――断るって、言っているじゃない!」


 魔物がゴーレムダンジョンから出てきたのではないかと不安になり駆けつけると、エリーゼと藤二が言い争いをしていた。エリーゼは顔を赤くして怒鳴っているのに対し、藤二は落ち着かせようと、なだめているように見える。


 たまに子どもっぽい行動はするものの、落ち着いて大人な対応ができるエリーゼが、顔を赤くして怒鳴っていることに驚くと共に、健人は、初めて見る姿に意外な一面を見たと感心していた。


 周囲にいる人間は、止めるべきかどうか悩んでいるようで、様子をうかがっているだけで、役に立ちそうにない。これから大事な討伐が始まるというのに、終わるまでずっと見ているわけにはいかない。2人を仲裁するべく健人が歩き出した。


「ちょっと待って! 俺が着替えている間に何があったんだ!」


 お互いの言い分を聞くため、間に割って入り、興奮しているエリーゼを落ち着かせるために肩に手を置く。さらに怒っている理由を聞こうと口を開きかけたところで、背後から右手を強く握りしめられながら後ろに引かれ、エリーゼから手が離れてしまった。


「気安く、エリーゼさんに触るな」


 健人をエリーゼから引き離したのは、なだめようとしていた藤二だった。先ほどちらりと見かけた時には、困ったような表情をしていたが、今は眉を吊り上げて怒りに満ちた表情をしている。


「手を、離してもらえないかな?」


 攻撃的な発言に軽い怒りがこみ上げてきたが、怒ったところで事態が解決するわけでもない。そう考えなおした健人は、冷静に対処しようと言葉を選んだ。だが、嫌悪をしている人間に何を言われても腹が立つのと同じように、健人の余裕のある態度に、怒りを収めるどころかさらに腹を立てた藤二は止まらなかった。


「お前がエリーゼさんを、寂れた島に閉じ込めているのが悪いんだ!」


 脈略もなく唐突な発言に健人とエリーゼは、怒ることも忘れて呆然と立ち尽くしていた。この2人の気持ちを代弁するとしたら「え? この人何を言っているの?」といったところだ。


 無理やりゴーレム島で共同生活を送っているわけではない。お互いに一緒に居たいから生活しているだけだ。だが、こうと決めつけている人間の意見を変えるのは難しい。2人ともどうすれば真実が伝わるのか悩んでいた。


「エリーゼさん。今回の討伐が終わったら東京に行きましょう。こんな寂れた島に、いるべき人ではない」


 勝手に決められたことに腹を立てたエリーゼは、前にいる健人を押しのけて藤二の前に立つ。


「それは、あなたが決めることではないわ。それと、私はこの島が大好きなのよ。今の発言は撤回してちょうだい」


 これから一緒に討伐する仲間に掛ける声とは思えないほど、低く怒りに震えた声だった。

 健人との思い出が詰まったゴーレム島を「寂れた」とバカにするような表現をしたことを許せないでいた。


 これ以上、2人を会話させたら取り返しがつかないことになる。そう直感した健人は、再び間に入る。


「藤二さん。本来の目的を思い出してください。これからシェイプシフターの討伐に行くんですよ? 豊田さんの仇を討ちたいと言ったのは、あなたじゃないですか!」


 昨日、料理店で涙を流しながら語ったことは嘘だったのか。そう問い質すような視線を藤二に向ける。


「知り合ったばかりとは言え、豊田の仇は打ちたい。それは間違いない……だがそれとは別に、この機会を逃せばエリーゼさんと話す機会は失われてしまう。それを見逃すわけにはいかないんだ!」


 健人の言葉で、本来の目的を思い出したかと思われたが、すぐに話が元に戻る。健人の後ろでは藤二を睨みつけているエリーゼ、前には意味のわからないことばかりを発言する藤二。もう、どうしようもないと諦めかけた時に、藤二と同じパーティメンバーの我妻が近寄ってきた。


「藤二。そこまでだ。お前がエリーゼさんにこだわるのもわかるが、今はなすべきことでもないだろう」

「でも!」

「時と場所をわきまえるんだ。見てみろ。この場にいる全員が、お前の発言に困っているぞ」


 藤二の行動に腹を立てていた我妻は、言い訳などを一切聞くつもりもなく、一方的に話を遮る。


「健人さん。藤二が迷惑をおかけしました」


 体を反転させて健人とエリーゼの方を向き、深く頭を下げる。パーティメンバーである我妻が代わりに謝ったことで、少しは冷静になった藤二は、文句を言おうと開きかけていた口を閉じることしかできなかった。


「こいつ、ネットに上がったエリーゼさんの写真を見てから一目惚れして、ずっと会いたがっていたんです。昔から思い込みの激しい奴でしたが、ここまでひどくなっているとは思いませんでした……少なくとも討伐が終わるまでは私が手綱を握りますので、この場は一旦、納めてもらえないでしょうか」


 ゴーレムダンジョンが発覚する原因ともなった、SNSに流出したエリーゼの写真。藤二はその写真を見た時からエリーゼのことが頭から離れず、毎日のように眺めては、写真に話しかけていた。


 一時は存在しない人間だとあきらめていたエリーゼが目の前にいることで、今まで抑えていた反動もありこの場で暴走しいてしまったのだった。


「一目惚れ……要は、私の外見に惹かれたってことかしら?」

「ええ。そうです!」


 質問に元気よく答える藤二だったが、エリーゼは不機嫌になるばかりだった。


「私、外見で人を好きになる人は嫌いなの。残念だけど諦めてもらえる?」


 エルフだから、美人だから、女だから、見た目だけで判断されることが、あまりにも多かった。その反動で、最初に見た目だけで好意を示す人間に対して嫌悪感を抱くようになってしまった。もちろん、目の前にいる藤二も例外ではない。


 エリーゼは、健人の背に隠れるようにして、汚物を見るような視線を向けていた。


「それなら! そこの男だって同じじゃないですか!?」

「健人は違うわ。仮に私が男でも、醜い姿だったとしても同じように接してくれたと思うわよ」

「う、嘘だ! 信じられるものか!」

「あなたに信じてもらう必要はないのよ。私がそう思う、そう感じたというのが重要なの」


 エリーゼが別の姿で倒れていても健人は同じ行動をとったかどうかは、そうなってみないと分からないだろう。仮に健人が「同じ行動を取るよ」と言ったとしても、実際その場に居たら行動が変わる可能性は十分ある。結局のところエリーゼが言う通り、見た目で判断しないと思えることが重要であり、それがすべてだった。


「でも……ぐっ――」


 さらに何かを言いかけようとしたが、胸元をつかまれて声は出せなかった。


「いい加減にしろ。これ以上、何も喋るな」


 我妻の気迫に押されて引きつった表情をして頷くと、我妻が手を離して開放するが、その視線は藤二を捉えたままだった。


「健人さんに討伐に行きましょう。藤二が後ろにいると不安だと思うので、私達は先頭を歩きます」


 硬直したままの藤二の手を取り、引き摺るようにゴーレムダンジョンの中へと入っていく。シェイプシフターの討伐初日から険悪さがにじみ出る、前途多難なチームだった。

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