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無人島でエルフと共同生活  作者: わんた
ダンジョン運営、始めました
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ダンジョン探索士 豊田の末路

痕跡が残っていた地点にまで戻り、手がかりがないか地面や草木をじっくりと調べるが、転移してしまったのではないかと疑ってしまうほど、痕跡は一切見つからない。成果が出ないまま時間が過ぎ去り、すでにお昼時になっている。


「ダメね……」


 わずかな希望にすがるように、膝を地面につけて足跡が残っていないか調べていたが、見つかることはなかった。


「飲み水や食料のことを考えると、今日か明日までには見つけないとマズイな」


 エリーゼから少し離れた場所で、しゃがんで足跡を調べていた健人が、立ち上がりながらつぶやく。

 行方不明になってから時間が経過するほど生存率が下がるのは間違いない。都心ではなく、ゴーレム島のような水や食料の確保が難しい場所であればなおさらだろう。


「午後は、玲子さん達も捜索に参加してもらうべきか……後は名波議員に事情を説明して、もう一度、増員を検討してもらう必要もありそうだな……」


 決断を迫られていた健人は、土で汚れた手を顎に当てながら今後の予定を組み立てる。


 想像していた以上に探索は難航している。早期解決を目指すのであれば、人海戦術か警察犬などに頼るほかない。


「ねぇ健人、上を見てもらえないかしら」


 名前を呼ばれたことで、思考の海に沈んでいた意識が浮上する。

 エリーゼの声に従って上を見上げると、もうすぐ秋が訪れることを教えるかのように、色が変わりつつある葉があった。


「違うわよ。こっち」


 見当違いの場所を見つめていた健人の頬を両手で押さえると、少し離れた場所にある太い枝の方に動かす。


「よく見てね。木の枝に土が付いているわ」


 無意識のうちに魔力を使って視力を向上させ、木の枝を一身に見つめる。すると枝には不自然な量の土と、擦ったような傷があった。


「ここからジャンプして、木に登った? まさか、さっきの冗談が真実だった……?」


 周囲には日が当たらないため湿った土があり、痕跡を残さずにエリーゼが見つけた枝まで移動するのは難しい。魔力で身体能力を向上させて、ジャンプしたと考えられる。実際、健人がやろうと思えば難なく届く距離であった。


「体調が悪かったという証言は勘違いだ。そう思うとあり得るわね」


 狩をするときは、木から木へと移動したこともあるエリーゼも健人と同じ考えだった。


「ようやく手がかりらしきものを見つけたんだ。この後を追っていこう」


 エリーゼが飛び上がって木の枝を掴み、鉄棒をするように半回転して上に乗る。痕跡から向かった方角を調べると、その先には健人達が住むコテージがあった。


「コテージに向かった?」


 理由が推測できずに首を傾げる。

 ようやく見つけた手がかりが、自分が住むコテージへと向いていることに嫌な予感を覚えながらも、行動をトレースするように地面に降りることなく移動する。


「何かあったのかな?」


 勢いよく垂直跳びを射てキレイに枝に乗ったかと思うと、行き先を告げすに動き出したエリーゼの行動に疑問を抱く。だが、このまま立ち止まっていても見失うだけであり、止まることなく移動し続けるエリーゼを追うように、健人は上を見ながら小走りで追いかける。


 何度かつまずき転びそうになったが、コテージの裏側にたどり着き、2人も少し離れた位置で立ち止まった。


「何かがいる……?」


 数時間ぶりに戻ってきたコテージ。いつもは煩いと感じるほど騒がしい、鳥の鳴き声が聞こえず、ダンジョン内のような重苦しい空気に満ちていた。


「ここに近づくにつれて、猛獣が近くにいるような雰囲気があったわ。健人、気を抜かず身体能力を高めて。良くないものがいるはずよ」


 声のボリュームを落として健人に指示を出すとともに、限界まで身体能力を向上させる。さらに、いつもより時間をかけてゆっくりと赤い斧を創り出すと、アイアンドールと戦った時のような臨戦態勢に入った。


 エリーゼの態度で危険を察した健人も同様に身体能力を向上させ、いつでも動けるように、ゆっくりと腰を落とす。


「今回は私が先頭で歩くから、健人は後ろから付いてきて。フォロー任せたわよ」

「分かった」


 短い返事を聞くと、エリーゼはゆっくりと音を立てずに歩き出す。

 コテージの裏側にある薪風呂釜を通り過ぎ、回り込むように入り口のある正面へと向かう。正面に近づくにつれて、健人が丹精込めて作った家庭菜園が見える。トマトにナスといった野菜が実っており、視線の先にいる人間がいなければ、明日にでも収穫できたはずだった。


 健人達の視線の先には、野菜をなぎ倒して地面に座り、クチャクチャと音を立ててながら、何かを咀嚼している人間がいた。黒いトレーナーには、いたる所に土がついており、所々、濡れている。ジーンズにははっきりと赤い色の液体が付いていることから、濡れている部分も何かあの血だと考えられる。


「豊田さんよね? 何を食べているの?」


 不気味な光景に声が震えるのを我慢して問いかける。

 明らかに正常ではないと思われるが、行方不明となった豊田の可能性が高いため、無視することはできなかった。


 咀嚼するのを中断すると、エリーゼの声に反応するかのように顔を上げる。


「!!」


 感情がすっぽりと落ちてしまったような表情、そして顔色が悪いでは説明がつかないほど、肌が青白くなっていた。奇怪な行動、表情、肌の色。その全てが揃ってようやくエリーゼは、回答にたどり着いた。


「豊田さ……いいえ……」


 その姿につられて人間として接しようとしたが、首を横に振り言い直す。


「お前、人間を食べたわね」


 健人のように親しい人物に向ける優しい声ではなく、敵対するものに発する、冷たく低い声だった。


 エリーゼのまとう空気が変わったことを察したのか、豊田だった男性はゆっくりと立ち上がる。口に含んでいた肉を飲み込むと、睨みつけるように右手を前に出した。


 急激に変わる状況に理解が追いつかない健人だったが、相手が何をしようとしているのか即座に察した。魔力を練り、エリーゼの前に氷壁を作り出す。


 数秒遅れて豊田だった男性の手から火の玉飛び出して氷壁に衝突した。コテージ周辺にドンと、重く低い音が鳴り響く。


「エリーゼ! 豊田さんが、なんで攻撃をしてくるんだ!」


 魔力を込める時間が無かったとはいえ、自身が作った氷壁にヒビが入ったことに危機感を覚えた健人は、焦った声で問い詰める。


「見た目に騙されないで! あれは人間ではないわ!」


 肌が青白く、言動がおかしい。さらに殺意のこもった攻撃をしてきた。だが健人にとって、目の前に立ちはだかる敵を、なぜ人間ではないと言い切るのか理解できなかった。


「時間がないわ! 後で説明するから今はサポートに徹して!」


 話している間にも、先ほどよりかは小さいが複数の火の玉を作りだしている。

 これ以上、問答する時間がないと判断すると、片手で持っていた赤い斧を振り上げて走り出した。


「もちろん!」


 話しながらも複数の氷槍を作り出していた健人は、エリーゼが飛び出すと同時に放たれた火の玉に向けて射出する。コントロール力に優れた健人の魔法は外すことなく、すべて衝突させ、小規模な爆発とともに魔法を相殺した。


「やっぱり、健人はすごいわね!」


 戦闘中だというのに笑顔になったエリーゼが、走った勢いを落とさず、斧を振り振り下ろす。

 それを避けようとして後ろに飛ぶが間に合わず、左腕が宙に舞い、回転してからボトっと地面に落ちる。しかし、いくら待っても、普通の人間であれば出てくるはずの、血が噴き出すことはなかった。


 離れた位置からエリーゼと豊田だった者が数秒の間にらみ合っていると、切り落とされた左腕が黒い霧に包まれ、幻だったかのように消え去った。


「やっぱり……」


 黒い霧に覆われて消える。魔物しか持たない特徴を見て、確信した顔に変わる。


「食べた生物の姿に変わる……シェイプシフターが出現したのね」


 エリーゼの世界で「タンジョン内で気づかないうちに姿を消した人間は、魔物になって戻って来る」そう噂が流れる元凶となり、目撃数が少ないため噂だけが一人歩きした魔物であった。


 シェイプシフターは、長く生きれば生きるほど多彩な能力と高度な擬態能力を身につける。エリーゼの世界では、見つけたら必ず消滅させるようにと厳命されるほど厄介な魔物であった。


「魔物だったのか……」


 消えた左腕を見つめていた健人がつぶやく。


「まだ、この世に出てきたばかりね。この場で倒すわよ!」


 斧を構えると再び、シェイプシフターに向けて勢いよく走り出した。

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