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無人島でエルフと共同生活  作者: わんた
エルフと始める無人島生活
31/111

交渉2

 他国に先駆けて魔石を研究を行うには、周辺に魔力があり、産出場所が近く、人の管理がしやすい場所が望ましい。無人島であれば全ての要望を満たす理想的な場所だった。


「確かに見慣れない人物がいればすぐに分かりますね。前向きに検討したいと思いますが、その前に1つ条件があります。新宿のダンジョンとともに出現した異世界人も、ここに呼び、私たちと異世界人が同意すればここに住むことを許可してもらえないでしょうか?」


 梅澤秘書からは異世界人がいることがバレているかもしれないと報告を受けていたが、この場で言い切るほどの確証を得ているとは思わず、名波議員は再び言葉に詰まっていた。


「……異世界人がいること……ご存じだったんですね」


 もちろん健人は異世界人がいるだろうとは思っていたが、あくまで想像であり裏付けが欲しかったための一言であった。だが、堂々とした姿勢、声に名波議員は騙されてしまい、エリーゼの他にも異世界人がいると、うかつにも発言してしまったが、そんな失敗に気づくことなく話は続く。


「異世界人を招きたい理由を聞いてもよいでしょうか?」

「エリーゼの知り合いである可能性が高いからです。見ず知らずの世界で知り合いに出会える可能性がある。これは非常に魅力的な話だと思いませんか?」


 地方から都市に移り住んだだけでも、強い望郷の念にかられる人もいる。国どころか住んでいる世界さえ変わってしまったエリーゼが知り合いに出会える可能性があれば、会いたくなるのも当然だろうと名波議員は考えた。


 実際、名波議員の瞳に映るエリーゼの表情は、知り合いに会えるかもしれないという期待に満ち溢れた表情をしていた。


 もちろん、エリーゼは元にいた世界に未練はないので演技でしかないだが、彼女の事を知らない名波議員は知る由もなく、同情に近い感情を抱いていた。


「そうですね……お気持ちは理解できますが、難しいですね。彼らの知識は政府も頼りにしていますから」


 新宿にダンジョンが出現してから今まで、異世界人の知識は非常に役に立ち、そのおかげで混乱も最小限に抑えることができていた。政府には圧倒的に知識が不足しているため、無条件で経験豊富な異世界人を手放すことはできなかった。


「話は変わりますが、政府はいつから魔物を繁殖するようになったんのでしょうか?」

「なんのことでしょうか?」


 急に話が変わったことに嫌な予感が湧き上がってくる。


 だが、そのようなことは心の奥底に押し込み、首を傾けて微笑むと、きれいに切りそろえられた髪がさらりと波立つ。女性らしさを強調した見事な仕草だった。


 普通の男性であれば手心を加えたくなるようなしぐさだったが、普段から見た目は美少女のエリーゼと接している健人には意味がなかった。名波議員の渾身のしぐさを無視して本題に入る。


「実はですね。例の議員が私の無人島にゴブリンを放ったんですよ。先に言っておきますが、私たちが管理しているダンジョンは、ゴーレムダンジョンと呼んでいて、名前の通りゴーレムらしき無生物だけが出てくるダンジョンです。ですから、ゴブリンのような生き物は出てきません」


 健人が椅子から立ち上がると後ろに置いてあった人が1人入れるサイズのクーラーボックスを開ける。


「……!」


 そこには先日倒したゴブリンの死体が保冷剤とともに入っていた。

 人間に似た動物の死体を出されても、悲鳴を上げなかったことをほめるべきだろう。

 だが、余りにも大きな衝撃を受けた名波議員は、頭の中か完全に吹き飛んで真っ白になっていた。


「5匹倒したんですが1匹だけ死体が残ってたんですよ。ご存知だと思いますが、ダンジョンから出現した魔物は生命活動を終えると黒い霧となって消えてなくなります」

「そうですね……」


 その程度の知識は持ち合わせていたが、なぜ、存在しないはずの死体があるのか。この疑問に回答できる知識は持ち合わせていなかった。


「その例外が、ダンジョンの外に出た魔物が別の生き物と交配してできた子どもですね」

「…………」

「ご存じなかったようですね。では、ゴブリンが交配できる動物は人間しかいません。これはご存知ですか?」

「い、いえ……初めて聞きました…………本当でしょうか?」


 言っている意味は分かるが理解が追いつかない。手にしている情報の格差から健人のペースに飲み込まれた名波議員は、交渉の事も忘れてしまい、話を聞くことしかできないでいた。


「それは向こうにいる異世界人に聞けばすぐに分かりますよ。ゴブリンが人を攫って子どもを増やす話は有名ですから。もちろん、悪い意味です」

「そうなんですね……」

「それで、このゴブリンは誰が産んだのでしょうか?」


 ようやく必要な知識がそろった名波議員にトドメとなる一言を放った。


「そ、それ――」

「魔物は政府が万全の態勢を整えて管理しているんですよね? そんな魔物が人間と交配して子ども作るなんておかしいですねぇ。事故が起こったのでしょうか、それとも……人体実験とか? もちろん善良な一市民として政府に協力して、この死体をお渡ししたい気持ちはありますが、こちらも多大な被害を受けていますので……」


「……」


 ようやく世論がダンジョンの管理に理解を示してもらえたところで、このような醜聞が表面に出てしまえば支持率が下がるどころか、ダンジョンの管理方法を1から見直さなければならなくなる。外国からの圧力も強くなる一方で、これ以上時間はかけられない。


 なんとか頭の中を再起動させた名波議員は、今置かれた状況を整理して結論を出した。


「確かにタダで譲ってほしいというのはあまりに傲慢ですね。この死体に関連するものをすべて譲っていただけるのでしたら、異世界人の滞在を許可するように働きかけてみます」

「ありがとうございます。ただこの死体は生ものなので、2~3日中には結論を出してください。それができなければ、私の方で適切に処理させていただきます」

「分かりました。すぐに連絡を取って結論を出したいと思います」


 結論を出すのを先延ばしにするのであれば、公表すると遠回しに脅された名波議員は、勢いよく椅子から立ち上がると、梅澤秘書を引き連れてコテージから出ようとする。


「それと、この無人島も新宿の一部地域と同じように、剣などの武装ができるようにダンジョン特区として指定してくださいね」

「ど、努力します」


 声を賭けられて振り返った名波議員は、最後に要求を追加した健人に顔をひくつかせながらもうなずき、逃げるようにしてコテージから出て行った。


「烏山の置き土産のせいで散々な結果! 初めて聞いた話ばかりで、まともな交渉ができるわけないじゃない! もう、交渉役なんてしたくなーい!」

「そんなこと言わずに頑張ってください」

「梅澤は、黙って私のことを監視すればいいのだから気楽でうらやましいわね! そうだ、立場を交換しましょう!」

「無茶言わないでください……」


 健人たちが住むコテージが見えなくなったことで安心したのだろう、見送るために外に出ていたエリーゼには、坂を下りビーチへ向かう2人の声が、耳の良いエルフにはしっかりと届いていた。


「なんだか可哀想になってきたけど、私たちのために頑張ってね」


 体が冷え切る前に急いでコテージに戻り先ほど聞いた会話を健人に話すと、2人して罪悪感にかられるのであった。



 急いで戻った名波議員の努力が実ったのか、翌日、梅澤秘書からの電話で異世界人の来訪と研究所の設立が決まり、先にゴブリンの死体を政府に引き取ることになった。


 またその後も何度か交渉を続け、いくつかの条件と引き換えに、ダンジョン特区として無人島とその周辺10km以内の海域についてのみ銃器を除く武器の所有と魔法の使用が認められた。

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