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無人島でエルフと共同生活  作者: わんた
エルフと始める無人島生活
25/111

交渉と脅し

 翌日、写真に記載されていた電話番号に連絡をする。ワンコールでと、梅澤と名乗る国会議員の秘書が出ると、健人が恐縮してしまうほどの低姿勢で応対し、数日後に健人の住む無人島に来ることとなった。


 上陸メンバーは、近年になって話題に上がることが多くなった烏山議員と、その秘書の梅澤、。さらに魔法が使える護衛の3名。総人数は3名。


 大人数で来ると予想していた健人は、その人数の少なさに驚き、何か裏があると考えると、見つかると交渉が不利になりそうなダンジョンで手に入れた剣や魔石などを隠し、準備を進めて当日を迎えた。


 コテージの前で烏山議員を待っていた健人達だったが、彼らが姿を現したのは予定の時間から1時間も遅れてのことだった。


「出迎えご苦労」


 最初に声を上げたのは、テレビで何度見かけた髪は薄く中年太りした50代前後のスーツ姿の烏山議員だった。一歩後ろにはスーツ姿の30代前後の男性が2人歩いている。


 片方は眼鏡をかけた優しそうな色白な男性。もう一人は坊主頭でスーツの上からでもわかるほど筋肉のついた色黒の男性だった。


「遅れたくせに態度がでかいわね」

「気持ちは分かるけど我慢して……」


 1時間も遅れたことに謝罪するわけでもなく、堂々と話しかけてきた烏山議員に、激しい嫌悪感を抱いていた。


「ほほう。それが異世界人のエルフか。向こうでも珍しい存在らしいな」


 そんな空気に気づかないのか、それとも気づく必要がないと考えているのか分からないが、烏山議員は立ち止まることなくエリーゼの目の前にまで近づく。


 パーソナルスペースにまで踏み込み、好色そうな視線を向けられてしまい、エリーゼは思わず半歩後退してしまった。


「お待ちしていました。どうぞ中へお入りください」


 素早くエリーゼの前に割り込むと、先ほどのセリフを聞かなかったかのように右手をコテージの方に向けてる。


「おま――」

「議員。時間が足りませんので……」


 健人の行動に腹を立てた烏山議員が声を荒げようとした瞬間に、後ろに控えていた眼鏡の男性が小声で耳打ちする。烏山議員は短い舌打ちをした後に、健人に案内されるままコテージへと向かった。


 先ほどのやり取りが気に入らなかったのか、烏山議員はつまらなさそうに健人の跡をついていくが、スーツ姿の2人が周囲を見渡し、中の様子を確認していた。


「私共のためにご足労いただきありがとうございます。私が清水健人で、隣に座っている女性がエリーゼです」


 ダイニングに到着し、エリーゼが用意したペットボトルを受け取り、のどを潤すとようやく話し合いが始まった。


「ご丁寧にありがとうございます。私は秘書の梅澤です。ご存知だと思いますがの隣に座っている方が烏山議員で、背後に立っているのが烏山議員のプライベートを護衛する黒柳です」


 メガネをかけた梅澤が自己紹介をすると、2人の後ろに立っている護衛の黒柳は軽く頭を下げたが、烏山議員は特に気にすることなくエリーゼだけを見ていた。


「本日は隣の彼女――エリーゼについて話が聞きたいとか?」


 コテージ前と今のやりとりで、烏山議員が自由に話し出すとエリーゼへのセクハラが止まらないと感じた健人は、やや性急だが秘書からは事前に伝えられていた「エリーゼの扱いについて」といった、本題に入ることにした。


「ふん。無駄な挨拶は終わったか。お前たちに時間をかけるのも惜しい。とりあえず、そこの女とこの島をワシに渡せ。むろんタダとは言わん。この島を購入した金額程度は、ワシの懐から出してやろう」


 相手の話を聞くつもりはないようで、一方的に要求を突き付けた。


「なぜこの島が欲しいのでしょうか。どこにでもある無人島です。烏山議員が手に入れるほど、価値のある島とは思えませんが?」

「お前はワシをバカにしているのか? 昨日までは半信半疑だったが、ここにきて確信した。この島に魔力がある。それはダンジョンがあるということだろ?」


 魔力を扱えるようになった人間は魔力の存在に敏感になる。この無人島に近づけば魔力、そしてその発生源であるダンジョンの存在に気づくのも自然な流れだった。


「確かにその通りですが、この島を売るつもりはありません」


 魔力の存在があるため言い逃れはできないと判断すると、ダンジョンの存在は認めるものの、烏山議員の提案をはっきりとした口調で断った。


「ほぅ……」


 烏山議員の眉がピクリと動く。

 健人はその変化に気づきつつも無視してエリーゼに話しかける。


「エリーゼがここから出たいというのであれば無理に引き留めるつもりはありませんが……」

「ここから出ていくつもりはないわ」

「ということですので」


 独りよがりの意見ではないことを証明するかのように、息の合ったやりとりだった。


「ワシの提案を断ると?」

「結果的にそうなってしまいます」


 強気な烏山議員に気圧されることなく、確固たる意志をもってすべての提案を否定する。


「ほぅ……金は不要とは豪胆だな。手元にある資金で死ぬまで生活できるわけもあるまい。それとも、将来など考えない短絡的な人間かね?」


 出来るだけ高値で売りたい強欲ものか、それとも現状を正しく理解できない大バカ者か、烏山議員は目の前にいる健人がどちらに属する人間が判断に迷っていた。

 だが、どちらにしろこれからとる手段は変わらないと判断し、早々に平和的に解決する方法を破棄した。


「将来を考えるからこそ、今回の提案はお断りいたします」

「……欲張ると後悔するぞ」


 健人を脅すように目を細めてにらみつける。


「後悔するとはどういうことでしょうか?」


 ダンジョンに潜ってから精神的にも鍛えられた健人にとって、烏山議員程度の脅しは気にするものではなく、表情を変えることなく淡々と会話を続ける。


「手に入れる方法は、何も金だけではないということだ」


 金では動かないと判断した烏山議員は、アプローチを変えて脅すことにした。


「そこの女。お前、国籍は持っているか?」

「…………」

「黙っても意味はないぞ。異世界人がこの世界の国籍を持っているはずなどないのだからな」

「…………」

「先に言っておくが、ごまかしても無駄だ。そこの女が異世界人だと証明できる人間がそろっているからな」


 健人たちが黙っていることで優位にたったと勘違いした烏山議員が、機密情報の一部である異世界人の存在を口にした。


「金で解決してやろうというワシの温情が、少しは理解できたかね?」

「言いたいことは分かりました。確かに国籍は必要でしょう。ですが、日本にこだわる必要はない。もっと合理的な判断ができる国の国籍を取得する選択肢だってあります」


 ゴーレムダンジョンを手土産に国籍を取得できる可能性はあり、一方的に脅してくる烏山議員に対するけん制として、その可能性を示唆した。


「お前にそんな高度な交渉ができるのかね?」

「少し前だったら難しかったでしょう。ですが、新宿にダンジョンが出現したおかげでだいぶやりやすくなりました。繰り返しになりますが、エリーゼは国籍が必要なのであって、日本の国籍にこだわる必要はありません」


 日本がダンジョンの存在を公にしたことで、世界中から注目を浴びている。そのダンジョンの土地を抑えている健人の依頼であれば、取引に応じて国籍を発行する国があっても不思議ではないだろう。


「ほう。このワシを脅すか? 黙らす方法などいくらでもある」

「強引な手段を取ると、人権団体が黙っていないのでは?」


 さらに強引な手を使うと脅してくる烏山議員に、続けてけん制する。


「人権とは人間が誰しもが持つ権利だな。だが、異世界から来たエルフは人間に含まれるのかね? 彼女は耳の長さが違うだけではなく、寿命が我々の数倍はある。DNAだって同じではないだろう。そんな生物を人間として定義してよいのだろうか?」

 これは国籍に続くもう一つの問題だった。


「彼女は、自分で考えることができ、感情もあります。耳と寿命がちょっと長い人間だと思っています」

「お前の中ではそうかもしれんが、他の連中はどう思うかな? 寿命の長さを研究したい人間は山のようにいるだろう。ワシの知り合いにも人権を認めんほうが、研究が早く進むと考える奴もおる。彼らにその女の身柄を渡したら、さぞ面白いことになるだろうな」


 口元を釣り上げて、健人を嘲笑する。


「その発言は日本政府としての発言でしょうか?」


 先ほどの発言に我を忘れそうになったが、エリーゼが無言で手を重ね合わせてくれたことで、落ち着きを取り戻していた。


「そうなら最初から言っているわ」

「……なおさら彼女を渡すわけにはいきませんね」


 個人としてきているのであれば、悩む必要はなかった。


「ワシの提案を断るか」

「利害が一致しません。お断りいたします」


 もうこれ以上の会話は必要ないとはっきりと拒否をするすると、後ろに立って会話を見守っていた護衛の黒柳が全身に魔力を巡らして身体能力の強化をはじめる。


 相手の魔力の動きを察知した健人は、後ろに立つ黒柳を威嚇するように、身体能力を強化しながらゆっくりと立ち上がり、にらみ合うことになった。


「そいつは、荒事専門の人間でなぁ。元々強い上に最近になって、魔法まで使えるようになった。お前みたいな小僧では絶対に勝てんぞ」

「それは楽しみですね」


 先ほどからの会話でストレスが溜まっていた健人は、先ほどのお返しだと言わんばかりに烏山議員たちを嘲笑する。


「……手加減は不要だ」


 格下だと思っていた人間にバカにされ我慢できなくなり、ついに実力行使を選択した。


 黒柳は常人では出せないほどのスピードでテーブルを飛び越え近づき、健人の顔に向けて拳を繰り出すが、片手で受け止めると腕をひねって床に組み伏せた。抜け出そうともがくが、力で完全に負けているため抜け出すことはできなかった。


「なっ!」


 予想外の事態に驚いた烏山議員は、事態を飲み込めず呆然としていた。

 にらみ合いが続くなか最初に動いたのは、この事態を仲裁するために動いたのは秘書の梅澤だった。


「黒柳さん。力の差は歴然ですので、無駄なことはやめてください」


 梅澤の指示に従ったのか、黒柳は力を抜いて抵抗をやめる。


「おとなしく帰ることにしますので、申し訳ないのですが、彼を解放してもらえませんか?」

「その言葉が嘘だとしても、同じ結果になりますからね」


 何度襲われても撃退できる自信があった健人は、おとなしく指示に従い床に押し付けている黒柳を解放した。


「ありがとうございます。黒柳さんは、そのまま外に出てください」


 立ち上がると全身に冷や汗をかいている黒柳の肩を叩いて外に誘導する。


「烏山議員。時間も押しています。ここは一旦引きましょう」


 声をかけられたことで、事態の推移に理解が追いつかず、止まっていた頭が再び動き出す。


「まだ、何も終わってないぞ!」

「ですが、飛行機に乗り遅れてしまいます」


 言い終わると、同時に頭をさげる。


「ちっ。このワシの提案を断ったことを後悔させてやる」


 次の予定は遅刻できない予定だと思いだした烏山議員は、しぶしぶといった様子で立ち上がり、不機嫌そうな足音を立てて無人島から出て行った。

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