scene:6 【挿絵あり】
天使は『ノーリスクハイリターン』『命を落とすことはけしてない』と言い切った。
そもそもこれは夢の中だという。
「目が覚めてしまえば記憶が消える」と言うからには、夢の中に閉じ込められて出られないという事はなさそうだ。制作したアニメが女神の目に留まらず落選しても、ただこの夢を見なくなるだけだし、戦闘不能のリスクも夢から覚める程度なら、それ程恐れることもない。
それなのに、優勝すれば1つだけ願いを叶えてくれるという。
命に関わることは駄目だと言っていたが、恐らく「誰かを殺してほしい」とか、逆に「病気を治してほしい」とか、そういうことは叶えられないと言っているのだろう。
喧騒の中で、アルは腕を組みステージの天使をじっと見つめながら考えていた。
「どうしよう」と隣で涙目になっているお姫様姿の女性には申し訳なかったが、面白そうだとすら思ってしまった。
天使の言葉を信用しても良いのなら、むしろ「どうしよう」なんて悲観する要素は全く見当たらない気さえする。
『では皆様、素晴らしい作品を期待しております!』
その言葉と共にステージの照明は落とされ、今度は観客席の方に明かりがついた。
どうしていいかわからず右往左往する人、まだ状況を掴みきれずにただ立ち尽くす人。
「だれか、俺と組みませんか! イラスト描けます!」
「小説家と漫画家の女2人組です! 女子だけでチーム組みましょう!」
そんな中、早速チーム作りを呼びかける者達が現れた。
「うっちーさん! このなかにうっちーさんはいませんか? 僕はKazです! 一緒に組みましょう! うっちーさーん!」
更には日頃交流のあるユーザーの名を呼び、探す者まで現れて、会場はあっという間にパニック状態となっていった。大勢のユーザーでごった返し、もみくちゃにされたアルは、盛り上がるユーザー達から逃れるように会場の隅に移動し、壁に背をもたれてその様子を観察する。
先程まで観客席は暗く、隣の女性のドレスにしか気づけなかったが、よく見れば他の人たちもなかなか奇抜な格好をしていた。
緑やピンクの髪。動物の耳がついている者もいる。服装は、メイドやら中世ファンタジーに出てきそうな鎧やらと、様々だった。まるでハロウィンみたいだとため息をついたが、そう言う自分の姿はどうなのだろうと、改めて視線を下に向け、その「衣装」を確認してみる。
大きなフードのついた、膝下まで丈のある黒いマント。
そのマントの留め具は、アンティークシルバーで出来たチェーンで、少し黒ずんで年季の入った風合いが、上質な生地に良く似合っていた。マントの下は、中世の貴族が着るような、襟がボウタイのクラシックなドレスシャツに、黒のベスト、黒いパンツ。そしてベルトのたくさんついた革のロングブーツを履いている。『魔法使い』と言う言葉がピッタリ当てはまりそうな格好だ。
そしてその服装に見覚えのあったアルは、首から上を確認しなくてもだいたいの想像がついた。
きっと黒髪で眼鏡をかけているに違いない。
それは、アルが書いていた小説の主人公の容姿だった。