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スクリーンが真っ暗になると、ステージ上に再びスポットライトを浴びた天使が登場した。彼は女神の提案を絶賛するように、スクリーンに向けて大きな拍手を送る。
今日の夢は、可笑しな夢だな……
誰もが自分が当事者だとは思えずに、どこか他人事のような気持ちでその場に立っていた。
改めてマイクを握り直した天使が、観客席に向き直る。
『いかがでしたか? 女神様は、皆様に大変期待しておられます。これはやり甲斐がありますね! さて、少し補足させて頂きましょう。まず、皆さまがDoors内で活動できるのは、睡眠中……つまり、夢の中だけでございます。目覚めてしまえば、チームメイトの事も女神様の事も、この世界で起きた全ての事、一切覚えておりません。このことから、現実世界で女神様のお題であるアニメの制作作業は不可能となります。ただし、またこの世界に戻った時に、記憶は復活しますのでご安心ください。アニメ制作は、夢の中だけで行う作業だと理解して頂ければ幸いです』
いつまでたっても夢から醒めないどころか、どんどんと現実感が増す会場。少しずつ事態を飲み込み、これがただの夢ではない事に気づき始めたユーザーたちが、ざわつき出す。
『予選を落ちたからと言って、ペナルティはありません。ただ、Doorsの夢を見なくなるだけです。しかし、優勝チームは願い事を叶えてもらえる上に、プロデビューという大きな見返りがあります。ノーリスクハイリターンです。どうですか? これは参加しない手はないですよね』
「ふざけるな! 死んだらどうなるんだ!」
観客席のユーザーから怒りの声が上がった。
先ほど「モンスター」や「ドロップ」と言う単語が出たので、それはアルも不安に感じていた点だった。
アニメを簡単に作るためのアイテムは、モンスターがドロップするという。と、言う事は、少なくともモンスターとの戦闘は避けられないのだろう。しかも、『強いヤツほどイイのを落とす』とまで言っていた。とてもノーリスクだとは思えない。
しかし天使はそんな怒号に怯むことなく、淡々と説明していく。
『モンスターとの戦闘や、その他の様々な要因で戦闘不能になった際は、夢から覚めて現実世界に戻ります。ただ、それだけです。ご本人様が傷つくことはありません。ましてや、命を落とす事などけしてありませんので、ご安心ください。そして、再び眠りに付きDoorsに戻られましたら、作業の続きを行ってください』
そう言いきった天使は、観客席のユーザーたちを見回して言葉を続けた。
『チームの最少人数は2名で、上限は4名です。最初に2名のチームでスタートし、後にメンバーを増やすことは可能です。チーム名が決定された瞬間に、そのチームにはクラブルームが与えられますので、そこで作業を進めてください。各クラブルームには、そのチームメンバーしか入れませんのでご注意ください。掛け持ちは不可となります。所属できるチームは、1人につき、1つだけです。チームからの脱退は自由ですが、加入にはチームリーダーの招待が必須になります。アニメ制作についての詳しい説明は、クラブルームにある案内書をご覧になって頂ければ幸いです』
会場はざわざわとして天使の声も聞きとりにくくなっていたが、怒号が飛んだのは先ほどの一度きりだった。