表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Doors~女神様の暇つぶし~  作者: 雪華
Doorsの世界へようこそ!
3/75

scene:3

 事の発端は、何だったのだろう。

 夜、いつも通り眠りについたのは覚えている……


 アルはここに来た時のことを思い出そうと、眉間にしわを寄せ考え込んだ。


 気づいた時には、大規模ライブでも始まるのかと思うほどの、広いイベント会場にいた。正面には一番後ろからでもよく見えそうな、大型のスクリーン。ざわざわとした大勢の観客たち。


 夏フェスの夢でも見ているのだろうか。


 ぼんやりとそんなことを考えていると、辺りの照明が一斉に消え、それと同時にステージにスポットライトを浴びた人影が現れた。


Doors(ドアーズ)の世界へようこそ!』


 マイクを片手に華々しく登場したのは、背の高い眼鏡をかけたスーツ姿の男性だった。仕事の出来る、イケメンエリートサラリーマン。と、いった印象だが、音楽フェスのステージには酷く不釣り合いな格好に見える。


わたくし、このDoorsの創設者であり、運営を任されております、天使(あまつか)と申します。どうぞよろしくお願い致します』


 そう言って天使(あまつか)と名乗ったスーツの男は、舞台俳優がカーテンコールをするように、観客席に向かって大袈裟にお辞儀をした。



Doors(ドアーズ)


 それは3年ほど前に突如サービスの始まった、複合投稿サイトの名称だった。

 漫画、小説、イラスト、作曲、歌い手。

 五つの部門に分かれていて、誰でも無料で気軽に投稿できる。


  作家が絵師に挿絵を依頼したり、人工ヴォーカルの曲を歌い手がカバーしたり、読み切り漫画を小説化したりと、部門を超えた交流も活発で、他者と協力することで創作活動の幅が広がることも魅力の一つだ。その上Doorsで注目され、プロに転向した者も現れると、より一層人気が高まり、あっという間にこのサイトは世の中に広まっていった。


 「投稿者ユーザー」たちはそれぞれの得意分野で自分の作品を世の中に発信し、日々、創作意欲や承認欲求を満たしている。

 その他に、Doorsには創作活動をしない「視聴者ユーザー」という登録者も数多くいた。

 文字通り、視聴専門のユーザー達だが、彼らは良いと思った作品に『いいね』を付けたり、お気に入り登録をしたり、感想を送ったりする。それが作品の人気のバロメーターになっているのだ。


 彼らの評価が、創作者たちの励みになり、支えとなり力となる。


「まぁ……諸刃の刃で、時に創作者の心を折る要因にもなるんだけどね」


 アルは、誰に言うでもなく一人で小さくつぶやくと、苦笑いを浮かべた。


 「アル」というのは、ユーザーネームだ。

 登録名はアルベロブルというのだが、長いのでアルと略されてしまう。イタリア語で「青い木」という意味を持つこの名前は、本名の『青木俊也(しゅんや)』から由来していた。


「こ、これって夢ですよね?」

「えっ?」


 突然、隣に立っていた女性に話しかけられ、アルはそちらに顔を向けて驚いた。まるで、絵本に出てくるお姫様のような、フリルが何段も重ねられたドレスを身にまとっている。


「あ、ええと、そうですね。夢だと思います」


 現実離れした彼女のドレス姿を見て、アルは自分に言い聞かせるように頷きながらそう答えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ