プロローグ
「なぁ知ってるか?呪いの空き教室の噂」
「何だよいきなり。お前、学校の七不思議とか、そういうのが気になるのか?」
与河原市立第二高校二年三組の教室。俺、渡来浩太はクラスメートの荒瀬盤が聞いたという話を聞いていた。まさかいきなりオカルトじみた話になるとは思いもしなかったが。
「いやそうゆう訳じゃねえんだけどな?実際に体験した人がいるって話なんだよ」
「それで?その空き教室に行ったっていう奴はどうなったんだ?まさか、『呪われて死にました』とかいうお決まりなオチがついたりしないよな?」
「いやそれがな……、何も起こらなかったんだよ」
「はっ?」
『呪いの』とかついて当事者もいて、何も起こらなかった?何でそんなものが噂になったのか。
「聞いた話だと、そいつはある不自然な所に教室の扉を見つけたそうだ。そんでその扉の中に入ると椅子とテーブル、少しの本が入った教室があったんだ」
「……それ、只の空き教室じゃね?」
「そいつも最初はそう思ったらしい。しかし暫くすると、そいつはある事に気づいたらしい。『この教室は変だ』と」
「変?一体何が?」
「それはよく分からないんだが、更にその教室を見てみると他に複数の扉が、教室のあちこちに付いていたらしい。変だと言ったのはきっとこれだな」
それは確かに変だ。学校の教室の扉は基本的に廊下側、時折窓側の二方向、多くて扉は三つといったところか。盤の聞いた話からするに、その二方向以外にも扉はあったのだろう。その当事者の見間違いじゃなければだが。
「そいつはその扉の内一つに手をかけたんだ。しかし、扉は開かなかった。入ってきた扉から考えて鍵をかけるタイプじゃなかったのに、どんなに力を込めてもビクともしない。そいつは気味悪がって、自分の入ってきた扉から出て行ったそうだ」
「……それで終わりか?」
「ああ、これで終わりだ」
噂話を聞いてキョトンとしている俺に、盤は気にした様子もなく言った。
「呪いとかはどこ行ったんだよ?」
「だから扉が開かなかったことが呪いなんだよ。扉が開いたら実は地獄に繋がっているかもよ?」
「なんだよそれ。それ普通に建てつけが悪くなってたんじゃないか?」
「そうかもな。でもま、所詮噂話だ。面白半分で考えようぜ?」
盤はそのまま話を終えた。でもそうだよな。所詮噂話だ。大方、当事者がいるというのも噂のうちなのだろう。
「そんじゃお先に。お前も早く帰れよー」
「ああ、片付けたらすぐに帰る」
軽く挨拶をして、盤は教室から飛び出していった。俺も荷物の片付けにそう時間が掛からなかったので、少ししてから教室を出た。
教室のある三階から二階へ降りていく時、俺はふと壁際の小教室の扉が開いていることに気付いた。
「たくっ、誰か閉めてけよ……」
なんとなく閉めなきゃなぁと思った俺は、その開いてる扉に向かった。
その小教室の中を外から見てみると、中には少しの机と椅子ぐらいしかなかった。その時、何となく魔がさした。他には何かないのかと、その教室の中を覗いてみた。
「……マジか」
そして俺は、見つけてしまった。盤が言っていた噂話の不自然な所にある扉を。
その扉は隣の教室とは逆方向に付いていた。そっちには何もない。校舎の端だ。そっちには窓側通路からの道があるという訳でもなく、外から見た時も扉なんてなかった。ていうか危ないだろ。
「………………」
人間、珍しい・不思議に思ったものには触りたくなるものだ。触っちゃ駄目と言われると触りたくなるように。
横開きの様だ。大体の教室はそうだが一応の確認として。
「よし」
そして俺は、その扉を開けた。
そこには確かに、空き教室があった。盤が聞いた通りの物が置いてあった。しかし噂話の通りだとこの教室はどこかがおかしいのだろう。
俺がそのおかしいことに気付くのに、少しも時間はかからなかった。
この教室は五角形のようだ。それでそれぞれの壁に一つずつ扉が付いている。
「まぁ確かに変だよなぁ……」
俺がこの教室のおかしな部分に対して、若干の期待外れ感を感じていると、
ダン!
「!」
二つ左の扉から音がした。これには少し驚いた。
『実は地獄に繋がっているかもよ?』
ふと盤が言っていたことを思い出す。まさか……な?
するとその扉は、ゆっくりと開いていく。何かが出てくるかもしれないと、俺は息を呑んだ。
そして、その扉が完全に開くと、
「おや?こんな所に誰かいるとは。珍しいこともあるものだ」
知らない女子が、そこに立っていた。




