「1-3 二つの才能の芽」
「体内に存在するオーラをゆっくりと全身に纏わせるイメージだ」
レインによる修行が三時間を経過しようとしていた頃、目を張らしたアメルダが廊下へと歩いてきていた。
両目は充血していて、彼女の独特な目にヒビが入ってるようにも見えた。
「お、おいお前動いて大丈夫なのかよ」
「そうよ、まだ寝てても良い筈よ」
首を横に振るアメルダ。レインはそれを見て、アメルダに一言
「姫が先だ。お前の判断は正解だ」
そう伝えた。
「それで、巧未様と華憐様の能力はどのような感じだったのでしょうか」
「あぁ、黒炎の力と魅了の力だよ。二つとも珍しいだろ」
「そうですね。私は見たことがありません」
数時間前のアメルダとはうってかわり、平常心を保っていた。その隣で、少しずつオーラを見に纏う感覚を身に付けていた二人。
「お前たち、本当に逸材だな」
「そうか?ならよかったぜ」
「私がこの貧弱な男と同程度ですって?笑わせないで」
サードバイオリンの姫、ストレアの安否が心配なアメルダとレインは少し焦っていた。彼女の能力は世界中を探しても見つかることの無いような異質なもので、受けた傷を精神的な傷として変換させることで、身を守ると言うものだった。
それは無敵にもなり得るがしかし、裏を返せば拷問等にはめっぽう弱い能力のため、敵に知られてしまうと拷問は免れない。
「奴等の目的はなんなんだ。侵略目的ではないだろこれ」
「ええそのとおり。ここまで塔を破壊する理由が見つかりませんからね。しかし、私達が見たのは私の兄だけ。妖魔でないとすると魔術師でしょう。」
「魔術師か。領土侵略以外にもこの世界で重要視される悪行ってなにかあるのか?」
「それは、私が説明しよう」
レインは三人の中心に立つ。
「私達の住むこのアストロには七つの領土がある。【ワンスゲイル】、【トゥーリア】、【サードバイオリン】、【フォースリエル】、【アグナファイブ】、【ルナシックス】、【イナセブンス】。そして、その領土の中心に【星十蓋】。その星十蓋には、この七つの領土を修める王達がいるんだ。もしかすると奴等は星十蓋を狙ってるかもしれない」
「それって、こちら側もあちら側もリスクが高いんじゃねーの?実際、こちら側の戦力と相手の戦力はどれ程の差があるんだよ」
「戦力の差か。そうだな、今まで得た少ない情報でも奴等は格段と強い。防戦一方てのは言うまでもない」
レインとアメルダは拳を強く握りしめる、そして同時に目線を下へ反らす。
「で、そんな状況を少しでも良くできるかもしれない希望ってことかしら?それは流石に買い被りすぎですわよ。私達にはそこまで特殊な才能はありませんもの」
「いや、お前達の潜在オーラも、能力も私達とは桁違いだ。買い被りなんてことはない」
「そうですよ。やっと見つけた助っ人ですからね。巧未様にも華憐様にも、選択肢は与えなかったにしても期待をしています」
「選択肢は確かに与えられなかったな。無理矢理つれてこられたもんな」
「ええ、確かにその通りね」
巧未と華憐は少し間を開けてこう良い放った。
――――けど
「「後悔は無い」」
「ふっ。見込んだ通りだな」「はい。良かったです」
一人一人、不安や希望の間に立ちながらも修行は進んでいった。
―――――3ヵ月が経った。
「おいレイン!また氷の壁出してくれよ!」
「アメルダ!私の修行に付き合いなさい!」
二人の才能の芽はすぐに開いていた。最初は巧未。対象を燃やし尽くすまで解除のできない黒炎の能力は、特殊な働きを見せた。
自身の発火による、身体能力の向上である。体の不可は、オーラによる疲労のみで、対象に触れることで爆発と多大なる熱量で対象を燃やせるようになっていた。
一方、華憐の魅了の力。そして重力の二つの性質は少しずつ変化していった。対象への命令による強制的な抑止力と数百キロまでに及ぶ重力による拘束力を手に入れていた。
「おいおいいい加減にしとけよ巧未。作戦は明日だぞ。能力を使いすぎてオーラのガス欠何か止めとけよ」
「するわけねえだろうが!その辺りもなんとなく身に付けたからな」
「お前達化け物だな」
「お待ち下さい華憐様!今からご飯をと」
「はぁ。いいから『来なさい』」
「は、はい」
数日前。
四人の話し合いによって決まった作戦は、星十蓋に一番近い【イナセブンス】を目指すことだった。
七つの領土に囲まれている星十蓋。現地の【サードバイオリン】からは割りと近い場所に位置してあり、北東を飛行船で2日程で着ける場所のためだ。
敵の目的を、星十蓋の壊滅と読み取った四人は、情報を先に手にすることを優先にさせた作戦を立てていた。
その作戦にいくつかの制約があった。
・妖魔に遭遇した場合、巧未とレイン。魔術師に遭遇した場合、華憐とアメルダが先頭に立つこと。
・レインによる命令は絶対。敵う相手でない事に気づけば即脱が先決。
・巧未と華憐が負傷した場合、即座にサードバイオリンに帰還。レインとアメルダのどちらかが負傷した場合は一人を近くの町へ置いていく。二人の場合は全力で帰還。
この制約に誰も反対する者は居なかった。
そして次の日の今。
彼らは能力の修行と共に、一つ先の段階。オーラによる敵の抑止を身に付けつついた。
オーラで対象を怖じ気づかせることだ。これは魅了の力とは別で、人間以外の妖魔にも聞く。
少しずつ才能の種は開花を始めようとしていた。
「明日が本番だからな。いいか、お前達は少しでも実践経験を積んでもらいたい。なるべく弱い敵にはお前達を宛がうつもりだから。心してかかれよ」
「おう!」「任せなさい!」
アメルダは少し離れた所で唇を震わせていた。
「兄さん...」
作戦決行まであと12時間。