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死後の世界と能力使い  作者: ナイキ
一章【崩れ行く塔と固まる結束篇】
3/4

「1-2 各々の個性」

――2050年.1月4日.三の塔~寝室~

先日の敵による急襲をレインが退け、塔から離れることを危険と感じ、一同はサードバイオリンについてのある程度の説明を受け、その日は睡眠を取ることになった。幸い、厨房や寝室が荒らされていることは無く、簡単な食べ物や、ある程度の睡眠は取ることができていた。

しかし、襲ってきた敵がアメルダの実の兄であるかもしれないという仮説に、アメルダはかなり心を病んでいた。


クローズ・アメルダ・ワイン・ガンドレッドとガーネット・シェザル・ワイン・オリオンハート。

通称『ワインを授かる者』。ワインの名を授かった者は皆赤い瞳であり、特徴として個性の強さが桁違いであることだ。

基本的に、個性を使える人間には魔力とは別に、『ゲート』と『エナジー』が、存在する。エナジーの基本的数値が100だとする場合、ワインの名を授かる者達はそれの十数倍のエナジーを持つと言われている。そして、それに見合うゲートの強さを持つ。

が、しかし。そんな、ワインの家の人間の中でも稀にしか存在しないとされているシェザル。そして、そんな兄をもつアメルダは迫害を受けていた。強すぎる力は周りの家族に嫉妬され、恐れられていた。生まれた頃から迫害を受けていたアメルダとシェザル。幼いアメルダを守ってきたのはシェザルだった。そんな兄は成人と共にサードバイオリンの最上級剣士に出世した。その頃、15のアメルダはただひたすら兄を尊敬し、追いかけていた。

もちろん、助っ人の巧未と華憐を探しに行く日も、優しく送ってくれていた。


――が、兄は敵対していた。


「だったら、なんでだろうな。可愛い妹を捨ててまで敵になるなんてよ」

「さあな。しかし、今のアメルダは戦闘に使えないだろう。申し訳ないが、姫様の捜索もできそうにない」

「なにいってんのよアンタ。一国の姫が消えたのになんでそんなに冷静なのよ」

「ん?あぁ。あの姫様。ジア・ストレア・ベリー・ランゲージ様は、傷を負わない。負えない能力をお持ちなんだ」

「なんだそりゃ、無敵ってことかよ!」


興味が湧いたのか、寝室にある客用の割には豪華な椅子から立ち上がり、食いぎみに巧未は聞く。


「そんな楽なもんじゃないぞ。受けた傷は心を蝕むんだ。彼女ほど精神の清らかで屈強な者は居ないだろう」

「へぇ。それで、これからどうするつもりだよ。アメルダは別の寝室で寝たきり。俺と夜桜は戦い方も習っちゃいねえし、個性の使い方も知らねえぞ」

「そうよ。それに、個性には種類があるとか言ってたわねよね。私、どんな個性なのか気になるんですけど」


困ったな。と、溜め息をついたのはレインだ。他室に寝たきりのアメルダは完全に戦えない。ストレア姫の心配もそうだが、塔に遣える者も誰一人として姿を消している。探したいが、巧未と華憐は戦い方を知らない。完全に八方塞がりである。

そんな状況を考えると、溜め息をつくことしかできないレインは自分に腹が立っていた。


「わかった。ストレア姫は後だ。アメルダもだな。貴様達に個性の使い方を教えてやる」

「よし、待ってたぜ。俺は確か敵の能力を下げるだの自身の能力の向上だの言ってたからな。チッ、バフデバフなんかいらねえっての」

「わ、私も教えなさいよ!せっかく死んで楽しそうなことにたどり着けそうなんだからね」

「...確かに、死ぬなんて概念はここには無いが。もう一度心臓を貫かれた時には、貴様達が今まで味わった痛みの何百倍も辛いものが何日間も襲うんだぞ。酷ければ、目を覚ますこともないままその痛みに耐えながら脳の停止を待つしかなくなる。それでもいいのか?」

「死ぬなんて概念が無いだと?それなら、ここの住民は不死身ってことか?」

「いいや、こちらでの死っていうのは脳の停止だ。要は、頭を持ってかれる以外は意識ってものが存在するんだ」

「っていうことは、心臓が止まったとしても、意識があるから動くともできないまま。言わば逆植物人間になるってことなの?」

「まぁ、そう言うことだ。悪いが巧未、華憐。貴様達脳の中では未経験に心ざわつかせてるんだろうがな。これは遊びじゃない。後悔することになるぞ」

「関係ないよ。俺はここで、生きていくって決めてるんだ。痛かろうが、辛かろうが曲げないよ。アメルダと約束したからな」

「私もそうよ。前みたいな掃き溜めのような人生は飽き飽きなの。もう一度痛い目見ようがなにしようが後悔だけはないわ」


二人の純粋な瞳を見て、レインはもう一度だけ溜め息をついた。

きっとそれは、嬉しさからでたものだった。


「よし、それでは今からだ。昨日のあの廊下で訓練だ。ここまで崩壊しきってるからな。今さら、多少壊しても文句は言われんだろう」

「よし、やってやるよ」

「楽しみだわ。私は変わるのよ」


レインは二人が寝室を出ていく背中を眺めていた。


――ありがとう


そう呟いたレインもまた、静かに寝室を後にした。


――三の塔~中間層・廊下~

下層の方にあった寝室を出た三人は長い螺旋階段を上り、先日の攻防の後が残っている廊下へと戻ってきていた。黒い靄による弾痕があちこちに残ってあり、レインによる氷の攻撃で受けた痕も残っていた。


「ほれ、華憐。これがスキルカードだ。これに手をかざすと自分のスキルが分かる。やってみろ」


巧未の時と同じ、真っ白な紙切れをレインは華憐へと渡す。すると、スキルカードはゆっくりと黒に染まった。


「お前もかよっ!」

「え?え?黒ってダメなの?」

「ダメとか言ってんじゃえねよ!マジかよ、フォーマンセルで二人がバフ・デバフ特化だなんて」

「いいや、違うな。これはそんなもんじゃないぞ。巧未、貴様が触れたときはどんな風に黒に染まった」

「え、えーっと」


巧未は拳を顎に付け思い出す。


「そういや、あのときは四方から真っ黒になっていったな」

「そうか。しかし、華憐は真ん中からゆっくりと黒に染まっていた。これは、王の素質を持つ能力だ」

「なんだと?おいおい。俺だけ仲間外れかよ」

「あら、ごめんなさいね。庶民と同じ能力を持つわけがなかったわね」

「んだと、ロリ女」

「なんですって、死んだ魚のような目をしてるくせに!」


今にも火花が散りそうなくらいに額を合わせ、喧嘩を始める。

そんな二人にレインは額へと氷の粒をぶつけた。

「った!」「痛いわね!」

「ほら、遊んでる暇はないぞ。次だ、どんな能力が使えるか見てやる。華憐こっちへこい」

「もう、なんなのよ」


不機嫌そうにレインへと近づく華憐の胸元へ手を添える。


「え、な、なによ」

「・・・」


目を瞑ったままレインは静かに立っていた。そして、数秒後、


「よし、分かった。次は巧未だ」

「あ、あぁ」


そして、次は自分の番だと心踊らせる巧未にゆっくりと手をかざすレインは一瞬だけ触れた後に手を離した。まるで、恐れるかのように。


「...巧未、貴様。何者だ」

「は?」

「貴様の個性は相手の能力低下とかそう言った類いじゃない」


レインはそっと、巧未に触れた手を見る。

彼女自身、氷の個性を持つことで火傷なんてした事は一度足りともなかったのだが。

しっかりと、手のひらは軽く火傷を負っていた。


「うわ、レインそれ大丈夫かよ」

「あ、あぁ。華憐。貴様のは人に命ずる力だ。重力や人の心を掴んだりする『魅了』の力だ。そして巧未、貴様は」

「お、なんだ」

「貴様は――」


「対象を燃やし尽くすまで消すことのできない炎の力。『黒炎』だ」

「まさかの、バフ・デバフ回避かよ!カッコいいなそれ」

「巧未、あまりそれは使うんじゃない。それは自分の力で消すことなんてできない。どちらかというと魔力寄りの力だ。貴様はその黒炎を使いこなせるようになるまで戦闘は厳禁だ」

「マジかよ。そんなヤバイ能力なのか」

「それに、華憐。貴様もだ。それは、決して人の持っていい能力ではない。王というよりも神に近い能力だ。簡単に人には使うな」

「へ、へえ。まさかそんな大層な能力を使えるとは思わなかったわ」


レインは思った。


――この二人、何者だ。


と。

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