序章「0-1 少女と少年」
――2050年.12月25日.東三葉公園
日本中がクリスマスムード一色のこの中、東三葉公園の中にはソレらしいこともせずに2人の男女が見つめあっている。
男の方は黒髪に学生服。童顔で風貌もそれに見合うような感じである。
一方、女の方は白髪の白装束。こちらも童顔で、明らかに成人ではないことが伺える。
彼等は何故か、公園のど真ん中で真夜中に二人言葉を発することもなく見つめあっている。
男の方は唖然とした表情で、女方は真剣そのもの。ただ一点、彼の目を見つめていた。
「どうして、俺なんですか?」
長い沈黙を破ったのは男の方だった。とぼけた顔でそんな事を聞くも、女は顔色ひとつ変えず
「貴方だからですよ」
と答えた。男は今にも泣きそうな顔になる。それを見た女は未だに表情を変えない。
「俺は確かに漫画とかアニメとかゲームとか、そういうオタク文化には結構興味あるよ。けどでもそれじゃぁ――」
言葉を止める。男はこの女に出会っておよそ数十分で悟った。
彼女は本気だと。
きっと、彼女の言ってることは嘘ではないし、新手の逆ナンパでもないと。
「そうよ。その、まんがやあにめやげーむ?っていう文化には疎いのだけれど、それでも私が言ったことは本当よ」
ここで、女は顔を赤らめながら恥ずかしそうにそう言った。まるで、自分の知らない言葉を知っていたかのように隠したかのように。
「俺じゃないとダメな理由は聞いても無駄なんだろ。でも、もう一度聞いていいか?」
この質問はここに来てから三度目だ。疑いよりも、逃避に近い。なるべく、嘘であってほしかったから。そして、夢であってほしかったから。
「何度も言いたくは無いんだけれど、もう一度言うわ――」
男は生唾を飲む。三度目の質問。そして、三度目の回答ではあったが、やはりその回答には生唾を飲むしかなく。息を飲むくらいでしか、心を落ち着かせることはできないのだから。
「私達の為に死んでちょうだい」
平然と女は言うのだった。
――2050年.12月27日
司 巧未の葬式は慎ましく行われた。家族及び親族の数十名のみの葬式で、学校の関係者などは立ち入り禁止。もちろん、友人等も入ることは許されず静かに式は終わりを迎えた。
そして、巧未の17年という短い年月で、人生の幕を引いた。
「そんな感じでしたよ、貴方の葬儀は」
「そんな感じでしたよ。じゃねえよ!」
と場所を移し、あるアパート『やすらぎ荘』の一室で彼は自分の死後の事を淡々と聞かされていた。
今にも崩れ落ちそうな二階建てのアパート。部屋も、たった6帖で、軽く清掃されただけのこのアパートに、死んだ筈の司巧未は部屋で項垂れている最中である。
「いやぁ、まさかあんなにお友達が少ない方だとは思いませんでした」
「違う!それは友達が少ないだとか居ないだとかじゃなくて、ただ単に立ち入り禁止にされてただけだろう?」
「と言ってますが私の預かった書類にはお友達が二人のみと記載されておりますよ」
「おーいまてまてまて。お前の上司は何てやつだ。学校にもいるよ!あつしくんとか田中くんとかさぁ」
「誰ですか?書類上ではお二人と書いておりますので。あ、もしかしてあれですか?一方通行の友情ってやつですか?」
やめてー!と少し黒ずんだフローリングをゴロゴロと転がる巧未。女の軽い毒に早くも心を折られていた。
「大体なぁ、お前が助けて欲しいだの。仲間になってほしいだの言うから俺はこうして――」
「お前とは失礼ですよ巧未様。私の名前はクローズ・アメルダ・ワイン・ガンドレッドです。この世界ではアメルダとでもワインとでもお好きに御呼びください」
「まぁ、見た目的に外人なのも分かってたんだが。なんでそんなに日本語上手なの?」
「三日も時間を費やして勉学に励みました。努力の賜物ですよ」
「三日で日本語を覚えられる知能をお持ちですか。そうですか。感服しましたわ」
巧未は直ぐ様姿勢を正し、頭をたれる。
「さて、そろそろ本題に移らせて頂きます。いいでしょうか?」
「あ、あぁそうだったな。それとない理由は公園で聞いてたから理解はできたんだが、もう一度頼むぜ」
「かしこまり」
「なんで略した」
「いえ、この世界では真面目なときほどふざけることが大切だと習いましたので」
「至らん事を教えたそいつを殴りてえよ」
巧未は一つ溜め息を洩らす。悪い人間には見えていないが、掴みずらさを感じているようで、中々居心地が悪いのだ。
そんなこともいざ知らず、アメルダは話を始めた。
「私はこの世界で言う『死後の世界』という所から参りました。私、もとい私達にとってはそこが自分達のすむ世界で、名を『アストロ』と言います。この世界には特殊な能力というモノが存在してまして、それを使って悪いことをする奴等がいるのです。私達は奴等を『妖魔』あるいは『魔術師』と呼んでいます。奴等はアストロに存在する七つの領土を侵略しようとしてるんです。そして、特に酷いのが私の住む領土『サードバイオリン』なんですよ。で、その侵略を止めてもらうために貴方へ助けを求めに来たんです」
「――んーと。俺は別に特殊な能力なんて持ってないし、凄い人間でもないぜ?動体視力と勘が少し良いだけなんだが」
「御呼びしたのは貴方だけではないのですよ。各国二名ずつ、この世界の人間に勧誘へ来たのです」
「てことはつまり、俺以外に『サードバイオリン』って領土の助っ人を勧誘したってことか?」
「ええそうです。彼女もまた、私の上司から直属に選ばれた人間です故、今頃説明を受けてらっしゃると思いますが」
「ふーん。で、さっきの質問の答えはどうなんだ。俺には能力なんて無いぜ?」
ふっ、と鼻で嘲笑うアメルダは、スカートのポケットのなかから一枚の紙を取り出した。
真っ白で正方形の紙は折っていたのにも関わらず、折り目一つない。
「これに触れてみてください。貴方に眠る能力が花を開くはずです」
「なんだこれ」
「これは『スキルカード』。これに手をかざすと自分が生まれもった才能や能力を一瞬で開花させる優れものです。ただ、開花されるだけであって、能力が向上することは無いですし、能力が暴発するなんてこともありませんからご安心を」
「んー、なんだか分からんが触るだけでいいのか」
怪しみながらもゆっくりと巧未は真っ白な紙切れに手をかざす。すると、突然異変は起きた。
「なんだ、これ」
視界を遮断され、五感も完全に遮断され、何も見えず聞こえず感じずの状態にされ、戸惑う巧未。
目の前には真っ暗な世界しか広がっておらず、ただひたすら、自分の体が泥沼に沈んでいくように思った。
と、そう感じていた頃には目の前にはアメルダの姿があり、怪しい紙切れは無くなっていた。
「どうでした?自分の生まれもった特殊な能力がどんなものか分かりましたか?」
「いやなんだか、視界がシャットアウトされてさ、そして何も漢字ないような世界に移ったかとおもえば目の前にはアメルダがいた」
「真っ暗な世界ですか。それでは巧未様は、自信の身体能力の向上や、人の能力を下げたりするような特殊能力なのですね」
「そうなのか?それ、強いのか?」 「どうでしょう。能力向上等を低下を目的とする特殊能力は余り無いものですからね。例えば赤だと物理攻撃特化だったり、青で言えば魔法特化だったりと色々あるのですが。黒っていう人はあまりいないと思われますよ」
「なんだよそりゃあ。てっきり主人公的なことで、とてつもなくら強い力を秘めてるとかいうありきたり設定だと思ってたよ」
「私達はそれを『個性』と呼んでます。それで巧未様は戦えるようになりましたので」
不満気な巧未は、頭のなかで考える。
――まさかの弱い能力かよ
てっきり、最強主人公にでもなれると思ったのがバカだったぜ。
「御願いします。お礼はいくらでもしますので、私達を救ってください」
そんなことをアメルダは泣きそうになりながら巧未へ、懇願する。
「やってみなきゃわかんねえし、頼まれたからにはやるしかなえよなぁ」
6帖のボロアパートで決意を固める巧未であった。
そしてもちろん、このときは自分の能力の意味も。そして、自分が何者であるかなども知らないまま。