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秋競馬

 夏の間、なかなか競馬に触れることができないため、エッセイのネタにしようと借りておいた「ORAION」すら見ることなく、九月の開催も終わっていた。

 以前も書いたし、前回でも証明済みのように、「中山土曜の第八レース」は得意中の得意だ。前回は見事的中させたものの、先週今週は予想すらできなかった。中山開催が終わってしまう……

 先週はローズステークスを的中させ、来月に迫った自らの誕生日のお祝いのお返しに夢をはせ、今週こそちゃんと予想してうはうはするぞ、と心に決めるも、大人って嫌ね、仕事の忙しさにかまけて土曜を見送った。しかし秋競馬も真っ盛りに突入。新聞を買うことだけは忘れない。

 今週はとりあえず参加しなくてはと、日曜の東西のメインを予想。どちらも掲示板に載っている馬番の二着だけないという一番いけない結果に終わる。

 しかし。

 久しぶりにレースを見た。というか、どうしても練習しておきたい歌があったので真昼間からスタジオに入り、急いで帰ってきたら、

「寒い」

とパーカーの中に足の先まで突っ込んだ娘が、競馬中継を見ていた。おいおい、まだフランスには連れて行けないぞと思いながらもちょっとうれしくなる。レースが始まって、

「二着武はいやー」

と絶叫している私に知らん振りしながらもちらちらと画面を見る。ううん、ここでも何かしら親子制覇の予感、などと親ばかっぷりを発揮しながら東のレースにうつり、

「豊! 豊!」

と吉田豊騎手騎乗のトウショウシロッコの追い込みを信じ、

「やったー!」

というものの最後に迷って買わなかったキングストレイルが二着であることを確認し、ぐったりする。しかし東西とも硬い決着だったので穴党の私にはとれる馬券ではないとすっきりした気分で勝利ジョッキーインタビューを見る。

 四位君のインタビューの下に、彼の偉業が流れている。三十五歳。六十四年ぶりの牝馬のダービー制覇。アサクサキングスで別の馬でのクラシック二冠を達成。ディープスカイでダービー二連覇。

「同じ年なのに……」

見た目は絶対に私のほうが若いが、そんなところで勝負している自分がいやになる。いつもながらに甲高い声で関西なまりの標準語。なぜか胸が熱くなる。ディープスカイは強かった。

 東では蛯名ジョッキーのインタビュー。こちらもやはり甲高い声で、

「グランプリホースですから、恥ずかしいレースはできません」

とマツリダゴッホをほめる。彼も強かった。中山巧者とはいえ五十九キロを背負って直線でも持ったままだった。さすが昨年の有馬記念の覇者である。胸が熱くなる。

 競馬には他のギャンブルにはないほどの人間が携わっている。馬を中心に、馬主、生産者、管理する調教師。レースに行けばジョッキーがおり、レースを運営する人たちがいる。そこまでがパドックのあちら側であろう。そしてこちら側にはレースを見る人、馬券を買う人、親に連れられて仕方なくそこにいる人……なんにせよせつないほど美しいたった一頭のサラブレットを中心にたくさんの人がかかわっている。他のギャンブルに食指が伸びないのは、結局私は人間が好きなのだろうなという結論に至る。

 『東京競馬場参戦』の回で登場していただいた方が最近このエッセイを読んでくださっているそうだ。

「詳しい競馬のことが書いてあるとわからない」

といわれてしまった。なるべく平たく書いてあるつもりではいるのだが。私も競馬暦が長くなったということか。

「競馬の魅力は現場に行くのが一番だと思う」

との助言もいただいた。その通りだと思う。

 最近知り合った方が、私が競馬好きだと知り、

「今度Kさんに会うから、どの馬がいいか聞いとくね! 二十頭くらい持っているはずだから!」

と意気揚々と宣言された――が、たぶんそのお名前は馬主さんではなく調教師さん。

 まだまだ競馬を広める余地はたくさんありそうだ――しかし娘とも話したけれど、JRAのCMで佐藤浩一氏が『げんかつぎ』と称して踏んでいるツーステップ。げんかつぎであるということはあの歩き方をしているときになにかしらの大きな馬券を取ったに違いないのだが、一番最初にそうやって歩いた理由が知りたいと思うのは私たち親子だけだろうか――

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