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ファンファーレ

 昨日、さんざんカニを食べるテレビ番組を見てしまい、どうしてもカニが食べたくなった。しかも昨日は給料日の上、何気なく入ったパチンコ屋で三万円近く、勝った。母と娘を連れて、駅前のちょっとお高くて、座敷もある回転寿司屋へ行く。

 焼きタラバガニよりカニ汁の方がカニを満喫したような気になりながらの帰り道、ファンファーレの話になった。

「東京のGIのファンファーレって、絶対に途中からスターウォーズにつながっているよね」

 娘がいう。そういえばこやつ、パークウィンズでひたすら中京のファンファーレを口ずさんでいることがあった。五年ほど前だから、まだ小学校三、四年生の頃だ。

 そのファンファーレを思い出そうとするが、出てこない。家までの五分ほどの道のりで考えつくしたが、頭の中はスターウォーズで満たされてしまっている。結局思い出せず、携帯の着メロで探し出した。が、GIではない。重賞でもない。結局特別のファンファーレだと判明した。

 なぜ、中京小倉の特別ファンファーレを口ずさんでいたのか、全くわからない。そのときにはどちらでも開催はしていなかったはずだ。

 娘はブルーリッジリバーの大ファンだった。テレビで桜花賞のレースを見て、

「可愛い」と言った。可愛いか? オトコ馬みたいだぞ、と思いつつも、レースに出るたび、単勝馬券を買いに行った。今でも、小さな紙の引き出しの中に、時間がたって黄色くなった馬券がしまわれている。

「東京にきたら応援しに行こう」

 と約束していたが、古馬になってからは東京で走ることなく、引退が決まったことを告げたときには、今にも泣きそうな顔をしていたことが忘れられない。半分無理矢理、親の趣味で騎手学校を受けさせるときのくどき文句の中にも、

「今からなら、ブルーリッジリバーの子供に乗ることもできるかもよ」と、名前を挙げた。

「別に子供はどっちでもいい」と言っていたが、まんざらでもないようだった。

 残念ながら、初仔のグランマモーゼスは未勝利のまま引退してしまい、騎手学校も見事に落っこちた。今では競馬にあまり興味がないような顔をしているが、ファンファーレをもう一度聞かせろ、と言ってきた。

「これ、覚えてたらかっこよくない? 『これ? ああ、中京』みたいな?」

 などと言っている。ディープ人気と府中から近い土地柄か、学校でも競馬の話は結構でるらしい。

 実は娘の競馬歴は、私と同じである。競馬場デビューは、一歳一ヶ月の時の仁川。十一歳の誕生日にも仁川にいて、二人してパドックでベストアルバムにまたがる渡辺騎手の背中を見て、

「女の子みたいだね」と話していた。中学に上がってからは、あんまり付き合ってくれないが、それまではよく東京競馬場にやってきた。バスに乗ることとアイスクリームが目当てではあるが、私が馬券をはずし、苦悩していると、

「馬券はやっぱり複勝だよ」

 などと生意気なことをいう。『武豊』はなぜか呼び捨てだが『岡部幸雄』は『岡部さん』であり、『茶色い馬』より『黒い馬』というカテゴリーを持ち、東京競馬場内馬場にあるバイキンマンの石像をいつかは探し出す、という野望を持っている競馬ファンである。

 今度中山に行くお誘いも、最初は渋っていたが、

「中山行けば後は、京都で大きいところは制覇だね」というと、ちょっと考えて当日決めるとの返事が帰ってきた。馬券歴はまだないが、これだけ毎週末競馬にテレビを占拠されていれば、必ず買い始めるだろう。そしてそのうち、

「牧場、連れてけ」とか、

「フランス、連れてけ」とか言い出すのではないか。ちょっと、恐怖である。

 しかし、中山は遠い。私は神戸で二十二歳まで過ごしたので、淀や仁川のほうが近い気がする。一種の旅行である。いや、出不精の私にとっては東京駅より向こう側は冒険に値する。しかも過去四回の府中以外の競馬場での成績は、ひどいものだ。今回もうなだれて、長い道のりを帰ってくることになるのか……せめて帰り道の話し相手が欲しい。

 さて最後のガーネットステークス。パラダイスクリーク産駒のアンバージャック、もうすぐ中央ジョッキーの内田博幸騎手、『一皮向けたか、弟よ』馬券でいこうかな。現在、私の競馬史の中で、最高払戻を記録しているレースだ。現場で参加したいし、できれば有終を飾りたい。

 なんにせよ、今週のテーマは『欲はかかない』。先週の反省をふまえて、馬連勝負で……いや、でも百万馬券も、買わなきゃ当たんないんだよなぁ……あぁ

「なんで複勝にしなかったのよ!」

 って娘の声があのファンファーレとともに頭の中をまわっている……

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