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川崎へ遠征・後編

 二千百メートルとなると、コーナーを六回回ることになる。ある程度前にいっていないとだめだろう。そんなことを話しながらスタートを待った。初めて動画を撮ってみようと格闘しているとライトがついたままになっていたらしく、警備員さんに注意をされてしまった。消したつもりでした、ごめんなさい。

 スタートを告げる音楽が流れると拍手が起こった。

 ゲートが開く。馬友の本命馬は出遅れる。ユキチャンはいいスタートを切った。二番手あたりでレースを進める。一周目のスタンド前からコーナーで先頭に変わる。それでもまだペースを上げることなく流れが落ち着いて、後続馬がぐっと前に詰める。向こう正面ですでに鞭が入っている馬も何頭もいる。そんな他馬をよそに、白い馬体はもったままで伸びやかに走っていく。二度目の三コーナーからぐっと加速して、後ろを突き放す。四コーナーを曲がったときには勝利を確信したスタンドから拍手が沸き起こっていた。差は広がるばかりだった。八馬身の差をつけてゴールした後もしばらく拍手の余韻が残っていた。

 私は結局記念馬券のユキチャンの馬券しか当たらなかったが、馬友は三連単を持っていた。また当たらなかったけれど、それはどうでもよかった。鳥肌が立つようなレースを見た。

 スタンドはお祝いムードに包まれていた。ユキチャンは一周回って帰ってきていた。

「ここまでくるかなぁ」

「あそこで止まっちゃってるよ、こないんじゃないの?」

そんな声が聞こえる。私は目の前に来ることを確信していた。だって乗っているのは武豊騎手なのだ。そのサービスを怠るわけがない。思った通り、しばらくユキチャンをなだめてスタンド前までやってきてくれた。また大きな拍手に包まれた。

 「可愛いだけでなくて、実力があることもお見せしたかった」

払戻をしている馬友を待つ間、私はやっとありつけたフランクフルトを頬張りながら画面でインタビューを見ていた。そういえばずっとお腹がすいていたのだ。武豊騎手はさわやかな笑顔だった。王子様っていうけどもうすぐ四十だよなぁなんて考えていた。最近審議の被害馬になることが多かっただけに、なんとなくすっきりしているように思えた。

 その余韻を抱えたまま仕事に行き、一日あけてもう一度振り返ってみた。ワイドショーでも取り上げられている。白毛馬の重賞勝ちは史上初。それを現場で見たのだとひしひしと感動が湧き上がる。何度も起こった拍手が思い出される。競馬は勝つために走るものだ。勝てない馬を話題にしてでも入場を確保しなくてはならない地方競馬の現状を考えると、とてもすばらしい一日だったのではないだろうか。中央場所で、ではなく、あえて地方で重賞勝ちしたことに意義があるのではないか、とほのぼのとした気持ちになった。

 レース前に見ていくのを忘れた武豊騎手のコラムを覗いてみると、勝利ジョッキーインタビューで言っていたのとほとんど同じことが書かれていた。もしかして絶対に勝てると確信していたのではないか。これをみてからいけば、馬単買えたよな、とちょっと馬券的には悔しい気持ちもあるけれど、私はまたひとつ歴史の目撃者になった。

 競馬に出会っていてよかった。

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