雷雨のパドック
私は日曜日より土曜日の競馬のほうに参戦していることが多い。日曜日は人出が多く、G1なんていう誰もが知っているレースがあるから、土曜日のほうが好きなんだと思う。根っからのひねくれものなわけだ。ダービーの日でさえそんな感じで、ディープインパクトの二冠目、いやシックスセンスのクラシック挑戦二戦目は土曜日に馬券を購入し、テレビ観戦となった。
これも05年の土曜日、京王杯。突然の雷雨に見舞われ、ほとんどの人が傘を持っていなかったのか、一瞬にしてパドックから人がいなくなった。なぜか傘を持参していた私は一人で雷に撃たれるかもしれないという危険を冒しながらも、騎手が整列するあたりの上からパドックを眺めた。背が低いので、土曜日とはいえ混雑してくるメインレースのパドックなんて、ほとんどお目にかかれないのだ。
何頭かの馬はいななきあっていた。本当にバケツをひっくり返したような雨だった。たぶん私の買い目はテレグノシスとニシノシタン。でもなんとなく全体を眺めていた。
見事に誰もいないパドックなんてそうそうあることではない。大粒の雨が視界をさえぎり、ソフトフォーカスになったその場所は、動いている絵画のようだった。乾ききっていた地面が雨粒を蒸発させ、水と空気と土の混じった夏の匂いを立てている。時折光る雷光は、間髪いれずに雷鳴を轟かせ、すぐそばにある自分の存在を誇示している。なんて美しいんだろう。目に焼き付けておこうと軽く傘を持ち上げた。
「あいつ危なぇな」とばかりにこちらを見上げている騎手がいる。ちょうどパドックの反対側にいたのはピンクの勝負服。
しばらくその雰囲気に身を任せていたけれど、やはり雷に打たれたら――まずそんなことはないだろうけれど――迷惑がかかると思いスタンドの中に入った。馬たちはさぞ怖かっただろう。騎手もさぞ迷惑だっただろう。本当は後ろから飛んでくるテレグノシスが本命の私も迷惑なはずなのだが、台風が来たときほど窓を開けたがる子供のような高揚感がそんなことを忘れさせていた。
結局パドックにはいたが、馬の調子を見るのには役に立たず、前日予想の買い目のまま購入。最初にゴールしたのはピンクの勝負服であった。やっぱりレースが終わってその馬券が外れていると悔しいもので、すっかりパドックでの高揚感などを忘れ、心の中で激しく雨を呪った。
さてはて、今年。現地に行きたいけれど、全体的に準備不足と寝不足で参加できなさそう。そろそろこの春から上位に出てきていた馬たちが集まるので予想も難しい。崩れなそうな上位と左利きからいっておくか。
日曜日は不発弾処理とやらで京王線が止まる。ということは人出が少ない日曜日。正直日曜日のレースにそれほどの魅力は感じないけれど、そんなときに貢献したらJRA銀行も少しは引き出し上限をあげてくれるのではないかと、いやらしい算段。中山に行った馬友のお土産返しも残っているし、この前行ったときにはゆっくりユキノサンロイヤルにあえなかったし、G1焼きも食べていない。
最近は誰かしらと一緒にいっている。一応娘を誘ってみるがたぶん断られるであろう。しかたない。最近すっかり重くなった腰を上げて、久しぶりに一人競馬と行きますか。




