表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/66

東京競馬場参戦

 天皇賞、惨敗。

 JRAにそそのかされ始めたブログにどこに消えたのかというような馬の名前を挙げてしまい、反省。もしもそれを参考に馬券を買ってしまった方がいたら……胸が痛む。スズカマンボのときの誕生日馬券の二の舞にならないように、必ず買うぞ、と心に決めていたが、そこまで馬番が届かなかった。

 前日の府中に参戦していた。出かけに霧雨だった雨は上がり、雲はどんよりと立ち込めていたものの、街中とは違う空気がある。ゴールデンウィークのため普段の天候の悪い土曜競馬よりもレジャーな雰囲気が漂っている。ほぼ初競馬の方を引き連れ、まずは電光掲示板の前で、単勝複勝馬連……からレクチャーを開始。あ、その前にたまたまパドックにいた武豊氏をこちら側からご紹介。

 馬券は購入せず、第六レースを観戦していた。

 直線で柴山ジョッキーが落馬。後続の馬の足元で転がるさまは痛ましい。

 落馬した場合、動いてはいけないという話をどこかで読んだ。馬は障害物をよける習性がある。下手に動くと逆に踏みつけられるはめになる。とはいえ、直線でフルスピードになっているときだったため、上手くよけ切れなかったのだろう。

 馬券を買っていなかったこともあり、柴山騎手の動向ばかりが気になっていたが、斜め後ろの甲高い女性の叫びが耳につく。

「差せ、差せ」

どうやらグループで来ていて、女性は彼女一人。そんなにすごい馬券になるのかな? と確かめると、一番人気と二番人気の叩き合い。

 競馬場で声をあげるのに一定のルールを持っている馬友がいる。

 明らかに脚が残っていないのに、差せといってはだめ。かっこいいのは人気薄がうまく上位に食い込むとき、しかも歌舞伎のごとく絶妙のタイミングで騎手の名前を叫ぶ、というものらしい。

 そこまで厳密にルールはないと思っているけれど、あのお嬢さんが二番人気からの馬単をあつく買っているのではない場合、あまり粋な叫びではなかった気がする。その後も薀蓄らしきことをお話になっていたが、同じグループの男性たちも少々引き気味だった。

 レースを見終えて、パドックのいつもの場所に行き、馬を眺める。

「どういう馬が調子いいの?」

返答に悩む。パドックの外側をゆったりと歩いているのがよいらしいというセオリーをお伝えする。首を下げてとか時折尻尾をふるとかいろいろ自分の好みをくっちゃべりたいが、ぐっとこらえる。今まで初心者に教えている人を見てきた自分が格好悪いなと思ったことを繰り返すのは嫌だ。

 騎乗したジョッキーを紹介する。

「あの人が、この前の皐月賞を勝った人。あの人は関西の所属だけれど今日の青葉賞のためにこっちに来ている人……」

武豊氏以外に名前がわからない人に説明するにはこういう説明のほうが親切に思われた。

 結局、馬券はほとんど買わず、いつもいくお蕎麦屋さんでそばを食べたり、直線の坂を見たり、競馬場の中をたらたら歩き回っていた。

 最終レース、私は戸崎ジョッキー騎乗の逃げ馬を本命に買っていた。いくつか前のレースでも上手に逃げて二着に残っている。それが発走直前に馬体検査で除外となった。場内からため息が出る。

「一番人気の馬なの?」

すっかり返し馬に楽しみを見出した同伴者が聞く。逃げ馬が除外になるとレース自体が大幅に変わってくる。ペースを作る馬がいなくなる――または変わる――と流れが変わり、せっかく立てた予想が全く変わってしまうからだと説明した。推測通り一番人気は馬群に沈んだ。

 いつもとは違う形で堪能した競馬場だった。初競馬を楽しんだ輩も満足していた。

「でもビギナーズラックで、十万円勝った! とかやりたかったなぁ」

いえいえ、あなたが買っていた馬券のほとんどが一番人気と二番人気でしたからそんな倍率にはなりません。

 でも新聞ももたず、なんの知識も持たず返し馬だけで買った馬券が図らずも一二番人気……末恐ろしいセンスの持ち主であるということは悔しいので今日のところは黙っておく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ