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買うとこない

 私はまだ予想スタイルが確立していない。ここに三年もいろいろと試行錯誤をしている。

 発表されているデータの信頼性を検証してみていたり、自分で表計算ソフトに点数計算をしてみたり。フェブラリーステークスは、その点数計算で予想してみた。レースに関するデータ上の条件に当てはまるかどうかを点数に直し、加算していくのである。

 すると、どんな条件をプラスしてみても、ヴァーミリアンとフィールドルージュは抜けた存在である。どちらかといえば、フィールドルージュのほうが上なのである。そして三番手はブルーコンコルド。この三頭で決まりだ、と思い、六歳馬のワンツーはないとのデータから、ブルーコンコルドを二着につけて、一三着が先の二頭という馬券を厚くかった。クワイエットデイやメイショウトウコンにも流した。もちろん今回は『武豊つぶし』の単複は買わなかった。そして結果はご存知のとおり。私のフェブラリーはスタート後数秒で終わったのである。

 たまに本命を買うと来ない、となげく輩は多いことだろう。私もどちらかといえばそうである。ぐりぐりの一番人気、なんていうのは、偏屈な私にとって、その馬を買い目からはずし万馬券を狙うまたとない機会だ。

「競馬に絶対はない!」という信念で、はずす。そしてその馬が勝てば、

「やはり強かったか」と、悔しいながらも賞賛を送る。

 サイレンスズカの最期のレースに関する逸話を持っている輩は多い。私の実弟も、スズカをはずして馬券を買ったが、あんな結末でのゲットは後味が悪く、すぐに使ってしまったといっていた。

「いや、骨折する」と周囲に言って、スズカをはずした知り合いも馬券は取ったし、骨折の予想までも当たっていたが、まさかそれが最期になるなんて思わず、それからしばらく競馬はできなかったという。

 はじめて好きになった騎手を追いかけていたら、落馬事故で亡くなってしまったという逸話を持つ馬友もいる。そのトラウマで冬の障害レースは今でも見るのがつらいという。

 都立入試の国語の問題に、徒然草の第四十一段が採用されていた。神事の見物に来ていた僧が、人だかりのため見えないからと木の上に登っているが、そこで居眠りをしてしまい、落ちそうになっては目をさますといういことを繰り返している。それを見ていた見物人が、

「あんな危ないところで眠るなんてばかじゃないの?」とあざ笑うが、兼好は、

「私たちだって、いつ死ぬかわからないのに、こんな見物に大切な時間をつかっている。ばかというなら私たちのほうが上をいくんじゃないの?」と言った。すると、

「そのとおりだよね」と賛同する人が出て、前にいた人たちが場所をあけ、

「ここどうぞ」とよい席を空けてくれるという話である。

 数年前に、曾祖母がなくなった。もう何年も寝たきりで、意志の疎通もままならない状態だった。風邪を引いたのが原因となった。お見舞いに行っていた妹も、娘も、看病をしていた祖母も風邪気味だった。みんな自分がうつしたのではないかと思う、と打ち明けた。

 しかし、全国的に風邪がはやっていた。ほんの少しも調子が悪くない人は国民の何パーセントを占めていたのだろうか。市民の何パーセントを。百四歳でこの世を去った曾祖母は大往生であったし、最期までみんなから愛されていた。

 競走馬の死も、騎手の死もないに越したことはないが、競馬を愛しているからこそ、遭遇してしまうことである。それはあなたが死神なわけでも、あなたが応援した、または応援しなかったせいでも何でもない。

 ちなみに、兼好が見物しに行った神事は上賀茂神社の競馬会神事である。人生の大切な時間を同じだけ競馬に浪費するのなら、より深く愛せばいいではないか。時にはターフから去ってしまった雄姿を思い出したりして。


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