茶会を開いたらお友達
翌日。
三成に教えられた、秀吉さんから与えられた部屋で目覚め、今日の予定を思い出す。まだ早い時間だが、日々の日課をこなすにはいい時間な夜明け前。少しでも夜目に慣れないといけない。この時代では合戦は昼夜関係ないのだから。
「…はっ!…せい!」
持ってきておいた木刀で素振り。剣道なんて随分前にやったくらいだと思う。確か二段を取って止めたんだっけ。
小姓だからと安心しきっていると、側に誰かの気配がした。俺はただの小姓ですよ!殺しても何の価値もないよ!
「お主、ここで何をしておる」
「うわぁっ!び、びっくりした…!」
「…そんなことで大丈夫なのか?」
マジでヒビッた…。集中し過ぎっていうのも考え物ですね。これが又五郎とかだったら大丈夫なんだろうけど。俺なんてまだまだ。
で、急に話しかけてきたその人。髪型からして小姓のようだが。
筋肉隆々!
「ひ、日々の日課をこなしておりました…」
「そうだったのか。わしも今からするつもりだ。もう一人、後から来ると思うぞ」
「はい。ああ、申し遅れました。私は長尾景勝様が小姓、樋口与六と申します」
「わしも小姓だ。秀吉様が小姓、市松という。敬語はいらん」
「ああ。では遠慮なく」
わあ!いい人!市松って後の福島正則だったよな。こんな人に忠誠を誓って貰えてるのに、関ヶ原では東軍かよ!
三成っていつもはあまり笑わない仏頂面らしい。そこらの上に媚びへつらう作り笑いよりかは良いらしいけど。それがよく笑うようになったって。やっぱり石田三成として生きるのはツライか。
「お主、今日の茶会で茶を淹れるんだろう?」
「ああ。昨日利休殿にみっちり叩き込まれたからな。期待しておけ」
「ははは!あの人は厳しいだろう!」
ええ、本当に。鍋奉行ならぬ茶奉行だったね!頑張ったらちゃんと褒めてくれたけど。
しばらく話し込んでいたら、もう一人の小姓らしき人がきた。もしかしてあれが。
「おお、夜叉丸!こっちじゃ!」
「ああ、市松。ここにいたのか…?こちらは?」
「長尾景勝様が小姓、樋口与六と申します」
「お主がか。三成から話は聞いておる。俺は市松と同じ秀吉様の小姓、夜叉丸じゃ。」
と、いうことは。後の加藤清正!
本当にここは有名人の集合場所だな!三成、お前この二人に何を言っているんだ?
二人共、手に持っているのは一本の棒。前世の薙刀部がよく使っていた、先の丸くしたところに布が巻かれたもの。槍の練習かな。
「お主は槍は持たないのか?」
「馴染まなくてな。お前みたいな体があれば良かったが、自分に合った戦い方をするよ」
「…三成みたいなことを言うのだな」
おやあ?
「三成は力は俺たちの遥か下だからな。槍を振るうには力が足りない」
「代わりに刀を振るっているがな。それじゃあ戦で足手まといになると分かって、秀吉様の軍師になると言っている」
「秀吉様に役立つため、俺たちが生きて帰って来られるようにって。いつも勉学ばかりだな」
ワァオ。あいつも頑張っているんだなー。この調子だと他の小姓とも仲良くしているみたい。
で、しばらくしたらお日様が顔を見せていました。日課を再開しようとしたら二人が手合わせを要求してきた。
「槍はあまり得意じゃない」
そう言ったらどこから持ってきたのか、木刀を携えてきた。もうね、やれと!?
はい、やりました。まずは市松とです。
ギリッギリセーフだよ!
剣道って本番じゃ役に立たないね。槍で鍛えた筋力は想像以上だった。ゴリ押しだった上に、攻撃は動体視力の良さ、そして構えから予想して避けられるし。木刀を合気みたいに捌いて、どうにか勝った。
…俺、この調子で生きてられるのかな。
で、夜叉丸には茶会が終わった後にしてもらった。今の疲労しきった俺とじゃつまらないって。あれか、全力疾走でフルマラソンを終えた人を相手に喧嘩する感じか。それは確かにつまらないだろう。
その後は水浴びをして終わり。小姓としての仕事をしに行った。
で、茶会の時間ですよ。本多正信はいらっしゃいませんでした。三成から聞いたけど、どうやら一向一揆に参加しているらしい。戦いたくないね!
参加したのは主催側の俺と三成、市松、夜叉丸、本多忠勝、後の井伊直政こと万千代。うん、少ない。
で、茶ですがね。そこまで濃くならないように頑張ったよ。苦くても茶菓子があるしいいやって感じで。和尚様にも利休殿にも褒められた背筋はピンと伸ばしている。意外にも体に染み付いているみたい。
「…おお…」
「…うまい…!」
「…ほう、なかなかじゃな。茶菓子と丁度合う味じゃ」
「ああ、渋味も少ない上に香りも程よい」
良かった!マジで良かった!
作法しか知らなかったから急ピッチで叩き込まれた技術だったけど。意外と好評価で安心。苦いだけのお茶って嫌だもんね。
「良かったな」
「ああ…涙が出そう…」
「そんなんじゃ変人に思われるぞ」
いいじゃねーか。思われたって。
と言いたいけれど、それは上杉家の評価に関わるから言わない。必死に隠す。
「与六殿」
「はい、なんでしょうか」
「無粋な真似だが、我々をお招きした理由をお聞きしたい」
本多忠勝。徳川家康に絶対の信頼を寄せられている男。槍の腕は確かなもので、「徳川家康ある所に本多忠勝あり」とまで言われている…らしい。…うん、この情報は全て三成からです。だって資料集で名前しか無かった人だよ!大学に行ったら習ったのかな。
すっごい怪しまれている。徳川家康は人質の立場から解放してくれた織田信長にはすごい友好的だけど、それ以外の大名には殆ど好意とか0だもんな。上杉とか絶対に嫌いだろ。あと豊臣と豊臣恩顧。そのせいかな…ってか顔怖い。折角の癒しの席が台無しになる。
「ただ皆さまと茶を飲みたかっただけです」
「我々と?」
「皆さまは私が知る限り、主君への忠誠は誰よりも強い方々です。他の武将をお招きするより、主君に近い所にある皆さまのほうが主君のことをご存知のはず」
「わしらは秀吉様に育てられたようなものだしな」
市松の言う通り。信長の話はもう周りが話し回っている。特に羽柴秀吉。他にも前田利家とかが教えてくれるし。最近では小姓さんが自慢してくる。はいはい、ウチの主君達も素晴らしいよ。
「私は若輩者にございます。故に、皆さまの主君である羽柴秀吉様、徳川家康様のことを知りたいのです。特に武功をぜひ!」
「…与六、目が輝いているのはいいが…引かれているぞ」
おっと。つい身を乗り出してしまった。茶と茶菓子はセーフ。三成、フォローさんきゅ!
居住まいを正して周りを見渡すと、皆唖然としていた。あ、そんなにドン引きしないで!心が痛い!
ほんの数秒、だけど俺には3分くらいに感じた沈黙を破ったのは夜叉丸だった。
「…ぶっは!っ、ふふ…つまり我らから見てお二方はどんなお方か知りたいと…ははっ」
「武功って…あっははは!お主は御伽衆か!」
「確かに、あの雪山ではあまり噂はすぐに届かないだろうな…」
「緊張して損しました…ふふ、ぷっ!あははは!」
え、何で笑われたの?ってか夜叉丸と市松は笑いすぎ。忠勝さん冷静すぎ。万千代さん、そんなに面白いか?
え、三成さん?何で呆れ顔?
「あ、あともう一つ理由がございます」
「「「「「え?」」」」」
「三成の友を増やそうかと思いまして。主君に小姓の頃から仕えていた皆さまならと…」
「与六ぅぅううううう!!俺の友が少ないのはもういいから!」
呆然とした顔から一転。恥ずかしさからか怒りからか。顔を真っ赤にした三成が俺の口を塞いだ。自分で止め刺しているけど。必死に弁解しているが、皆さんの目は温かいものになっている。
要らぬお節介?これが後で役に立つかもしれないだろ。忍城とか関ヶ原とか関ヶ原とかで。
「…よし!良かろう!」
「へ?」
「我らの殿、徳川家康公の御武功を教えてやろうではないか!」
「ええ。家康様の素晴らしさを東北まで知らしめられますし」
「秀吉様のご出世の過程、よく覚えて帰れよ!」
「わしらがとことん話してやろう!」
「「「「あと、三成の友の件もな」」」」
「与六ぅぅうううううう!!」
うるさいなあ。三成、そんなに叫んでいたら喉枯れるし、ハゲちまうし、血圧が上がるぞ。親友の俺に心配かけないでくれよ。
でもまあ、なんとかなった。やっぱりいい人達じゃん。全員の共通点、「主君大好き!」を議題にしたら凄いね。自慢話ばかりだよ。全部面白いし、ついでに忠勝さんの武功もちょっと聞かせてもらった。
で、話込んで暫くして。
話し合いが終わったらしい其々の主君達が帰る頃になった。予想以上に時間が経つのが早い。急いで片付けて、それぞれ帰って行った。
いやー、皆さん主君ラブですね!俺もいつか景勝様を自慢するんだろうね。
で、笑われた理由を三成から言われた。
「理由が御伽衆みたいだったこともある。だがな、先に言っておく。お前は自分が思っているよりも有名人だ。
なんたってあの軍神の一番弟子だぞ?軍神の智慧を授かった頭脳を欲しがる奴はごまんといる。特に秀吉様なんか明らかだな。信長公も狙っているぞ。
で、そんな有名人がいきなり呼び出したんだ。何か企んでいると思われるのは当たり前だな。まあ、お前ってある意味純粋というか、真っ直ぐというか…。裏表ない輝かしい笑顔で、あんな拍子抜けする理由を言ったんだ。イメージは崩れたな」
…御身城様の評価に関わってないといいなあ。
色々な小説と繋げてみました