提案したら準備
さて、天正3年です。つまり1575年ですね!今は現代でいうなら五月だな。まだ入ったばかりだけど。
二年前、つまり濃越同盟の翌年に武田信玄が亡くなった。跡を継いだのは武田勝頼。好敵手の突然の訃報は御実城様も愕然としていた。
で、今年の今月、五月の下旬にはあの『長篠の合戦』がある。歴史上の大イベントだ。
で、俺たちはどうするべき?
上杉は武田、北条、織田とそれぞれ同盟を組んでいる。佐吉から聞いたが、どの同盟もほとんど上杉から破る形で解消されるとか。おい、義はどうした。
北条はいいや。長年碌に戦っていないというし、あの鉄壁を壊す気にはならない。天下人がやってくれるしね。ああ、でも景勝様と同じように後継者候補となっている景虎様がいらっしゃったね。
あ、言い忘れてたけど顕景様はまた名前が変わりました。長尾顕景改め、長尾景勝です。いつか後継者争いが起きそうだね!
で、何の話だっけ?
あ、長篠の戦いか。多分だけど、上杉家は傍観かもしれない。戦いに行きたくても、同盟があるし、北には伊達氏がいるし。でも伊達政宗とは仲良くしたいんだよなー。現代っ子としては。
織田の方はどうなるんだろう。ちょっと聞いてみるか。手紙だけど。
越後から美濃ってどれくらい掛かるんだろう。調べなきゃいけないことは色々ある。ああ、教科書よ!資料集よ!なぜこの手にないんだ!
分かっているのは、織田軍と徳川軍が鉄砲部隊を用いて勝ったこと。それ以外は知らない。
あ、でも武将は分かる。ってか友達になりたい。
徳川軍の本多忠勝、本多正信、井伊直政。後のことを考えて、彼らとは仲良くしておきたい。
あ、佐吉に頼めば本多正信くらいなら会えるかな。家康の小姓って聞くし。
最近、御身城様が思案することが多くなった。景勝様と何かを話すことも増えた。所詮小姓の俺には分からないことだ。
って、軽〜く考えていたせいですかね。
「…真にございますか?」
「この文の通りならば、な。向こうには友がいるだろう。景勝もお主ならばと推しておる」
「…承知つかまつりました」
ま さ か の。
俺は今から尾張・美濃へ行かなくてはならなくなった。理由は前の手紙の返事。なんとなく、で書いた「本多正信や忠勝、井伊直政とかに会いたい」という願いを、佐吉は秀吉に頼んだらしい。お前マジで七本槍で刺されるぞ。
で、俺と佐吉は千利休に茶道を習うから、早めに来いとのこと。茶道は寺や仙桃院様にお教えいただいた。やっぱり地方によって茶も変わるのかな?それは分からないが。
そういうわけで俺は今旅支度をしている。景勝様は伊達政宗の抑えとして残られるらしい。御身城様は後から行くと。よって今回は俺一人だ。
俺、茶道なんてちょっとしか齧ってないのに…。
「どうぞこちらに」
「ありがとうございます」
堺についたら謎のジイさんが現れた。え、なにこの人。
織田信長に挨拶したら、その後ろに控えていたジイさんに付いていくように言われた。歳は五十に届きそうなほど。この服装、どっかで見たことがあるような…ないような。
で、行き着いた先の家は思っていたよりも質素な感じ。あの信長公が側に控えさせていたにしては、趣味は真逆のようだ。
中に入ると親友は見覚えのある服装で座っていた。
「佐吉!?」
「今は三成だぞ」
懐かしい部活の正装をした佐吉こと三成。そういや幽霊部員だったね。
ジイさんは準備をしに他の部屋に行った。それを見送ってから三成に近づく。
「お前…とうとう三成になっちゃったんだな」
「お前はまだまだ先だな。ああ、あと…今日は信長様も参加なさる」
「マジか。ってことは、俺たちは後でおさらばしないとな」
「ああ、さっさと終わらせて逃げよう」
謙信公が参加なさることは三成も知っているようだ。話すことはもう分かりきっている。
もしそこに俺たちが参加したら、周りの小姓とかが妬む。お二人とも衆道をしているからな。あ、衆道ってのは信長と蘭丸みたいなことだよ!
で、話を戻すと。参加したら俺たちは二人から信頼されていると見なされる。重要なことを漏らさないってな。
「俺も着替えてくるべき?」
「お前は止めとけ。武士じゃなくて公家の者みたいになるぞ」
「え?」
何故でしょう。時々よく分からんことを言う奴だ。公家の者って、俺はお歯黒なんてしないぞ。
「あ、あとさっきの人」
「ん?あのジイさんか?」
「あの人、千利休さん」
「…マジか!」
そんな馬鹿話をしていたら、ジイさんが信長公と御身城様を連れて現れた。この二人が並んだら目の前に鬼神が現れたかと思った。
天魔王と現人神は混ぜるな危険。
「なんだ、与六は着替えんのか?」
「私は小袖のほうが性に合っていますから」
「そのままでも大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。利休殿」
御身城様は俺を本当に武士にしたいのだろうか。このままだと上杉家の茶人にされそう。
千利休のお言葉に甘えてそのままでいることにする。
俺たちは端に寄って、千利休が茶を淹れるところを観察した。湯加減とかも気にしているのか…。俺には難しいかも。
信長公たちが茶でゆっくりしている中、そこに現れたのは茶菓子を持った男。
「皆様、こちらもお召し上がりください」
「おお、謙信公。この京菓子は利休の茶によう合うぞ」
「それはそれは。では、戴こうか」
あら美味しそう。俺たちの前にまで置かれた茶菓子。美味しそうだけど早くここから出ないと。
いつ話を持ち出すのか気が気でない状態だったが、結局最後まで茶を楽しむだけだった。二人は揃って他の部屋に移動した。
「「…ほっ…」」
「ほほほ…お二方、随分と気を張っておられる。茶道は人に安らぎを与えるもの。気を楽になされ」
「…と、言われましても」
三成の言う通り。そんなこと言われてもだ。結局骨折り損だったけど。
よくよく考えてみたら当たり前だった。千利休は名のある茶人。そんな人の目の前で血生臭い話を持ち出すことは、あの風流を解する二人がするはずがない。
でも怖かった…!
その後、俺たちはみっちり茶道を叩き込まれました。足がしびれビレ…!
次回、お前ら誰だ!になっています。
そして主人公はミーハーになりつつあります。