部屋に戻ったら酒盛り
終了!
何を話したかって?何も。
いや、マジで。考えたら誰かが聞いてるかもしれないし。俺たちの問題はともかく、武田勝頼はヤバイ。
とりあえずこの事は文で話し合うことにした。
で、部屋に戻ると。
「……うわぁ…」
「……ウプッ…吐きそ…!」
「佐吉ィイッ!早く厠へェエエ!」
厠へ走っていく佐吉を見送ってから、再び部屋の惨状を見る。
あちこちに酒瓶や杯は勿論、箸まで落ちている始末。人々は折り重なって寝ていて、部屋にこもった酒気がどんよりとしている。上座を見やると、猿顔の人が甘味を食べる信長公を仰いでいた。近くの襖は全開だ。対して、謙信公はまだ飲み足りない様子。
「与六!戻ったか!」
「御実城様は本当にお強いですね」
「そうでなければ酒を楽しめぬ。お前もどうだ?」
「いえ、もうお開きといきましょう。皆様の介抱をしなければなりません」
「…全く。皆の衆、だらしが無い!」
謙信公は大の酒好きだ。酒豪に一般人は勝てるわけない。決して皆の衆がだらしないんじゃない。御実城様が特別なんです。
なんて言えない。
「うぇ……っ」
「あ、おかえり。大丈夫か?」
「………ああ」
「うん。大丈夫じゃないな」
顔色が悪いのはもう仕方ないか。佐吉の背中をさすって呼吸を整えさせて、隣の部屋に待機していた小姓たちに片付けを頼んだ。この量だとしんどそうだから俺も手伝うことにした。佐吉もやろうとしたけど、顔色はまだ青い。小姓たちが怖がっているから辞めなさい。部屋に戻して寝させた。
食器も全部片付けて、襖全開の部屋に戻る。むさ苦しい男共の惨状は放っておこう。
謙信公がまだ呑む気でいたようだったので、先程の酒より弱い物を持ってきた。少し眉間に皺が寄ったが、アル中になられちゃ困る。
「おい、おみゃーさん」
「え、私ですか?」
「そうじゃ」
秀吉、今は木下藤吉郎。
史実通りの猿顔が俺を見据えていた。ちょ、信長公もなんか見てくる!何かしたっけ…。
「おみゃー、佐吉と何を話しておった」
「…佐吉殿と友になりたいと。先程知り合った仲ではございますが、主君に対する思いは同じだと感じました故」
「……そうか。佐吉にもやっと親しき友が…」
え、なにこの状況。
なんか藤吉郎さんが友達がいなくて心配する父親みたいだよ。
佐吉に失礼だよ!
…あれ?御実城様?
「与六、友が増えて良かったな」
「…はい」
俺も友達少ない系男子に思われてた!?
小姓仲間がいるし!…何だろう。佐吉が心配になってきた。
聞けば同じ小姓仲間とはあまり話していないとか。仲が悪いわけではないが、仲が良いというわけでもないらしい。それってマズイだろ。出しゃばってはいないとはいえ、ぼっちコースにならないか?
と思ったけど。よく考えたら前世もそんなんだった。でも何かあれば周りが率先して助けてくれる位だったし、大丈夫じゃないかな。
「おい、貴様」
「は、はっ」
え、信長公?いきなり何!?
「貴様は謙信公の弟子と聞く。将棋は出来るか」
「はい!」
「よし、猿!お主、此奴を相手してやれ!」
「え、ははっ!」
いきなり過ぎるだろ!ってか謙信公ただ笑って見てないで止めてください!
相手は猿。つまり秀吉なわけで、智略で勝てるかなんて分からない。碁でまだ良かったな…。
信長公の小姓がどこかから碁盤と駒を持ってきた。やばい、策なんて考えられない。
「では、お願いします」
「…お手柔らかにお願いいたします」
やっぱり強かったです。
強い駒を犠牲にしてきたと思ったら歩を進めて進めまくる。俺の駒は歩がほとんど取られている状態で、相手の歩を取らないように進めましたが無理でした。いきなり成りやがった歩に負けました。ちくせう。
「…参りました」
「ありがとうございました!」
流石は未来の天下人。智略で小田原を落とした頭脳には敵いませんでした。でもいつか勝つ。
信長公と謙信公はただ笑うばかり。猿さんは信長公に褒められてハッピーになっているようだけど。
で、これを締めにして宴は終わった。
「与六、まだいけるじゃろう」
「…もう、無理です」
御実城様、飲み過ぎです……ぐー。