転生したら戦国(佐吉視点)
感想にあったので書いてみました
交通事故で死んでしまった俺は今、佐吉という名前になって、とある寺にいる。俺の知識が確かならば、この時代は戦国時代なのだろう。ついこの間、どこかで下剋上があったと聞いた。まあ、寺にいる俺には無縁な話であるが。いや、俺の名前が佐吉だから警戒したほうがいいだろう。もしかしたら石田三成かもしれない。違っていたらいいんだけどな。
授業は前世から慣れているし、戦いは寺だから無いし。でもここって一向宗の系列だからマズイかもしれない。どうやって俗世に戻るか。
そんな俺のもとに、猿が来ました。
猿は猿でも温泉や山にいる猿ではなく、顔が猿な人間です。
「これはこれは…藤吉郎様、よくぞ来てくださいました」
「ああ、茶ぁ一杯くれ」
「かしこまりました。佐吉、こちらに茶を」
「はい」
これはチャンスじゃないのか?
ここで気に入れられれば俗世に戻れるし、出世も早いかもしれない。
住職様が以前旅人に出したやり方で茶を作る。とにかくぬるめに、お椀に一杯にした。
おかわり!と言ってくる藤吉郎様に徐々に熱くした茶を出す。よく飲むなこの人。
しばらく経って、俺の顔をジロジロ見てきた。なんだこの人。
「おい」
「はい、なんでございましょうか」
「この小僧をわしにくれ。此奴は大物になるぞ!」
え、俺は猿に拾われるのか?
え、じゃあ俺って…
「よろしゅうのぅ、佐吉よ。今日からおみゃーはわしの家臣じゃ!」
あ、やっぱり。
俺はどうやら、マジで後の石田治部少輔三成のようだ。これ死んだ。
史実での石田三成の間違いは三つだろう。
一、福島正則や他の小姓と仲が悪かったこと。そのせいで関ヶ原では東軍についていたり、傍観していたりする。
一、忍城に攻め入ったやり方。堤防を作って水攻めをするのは馬鹿だった。地形を考えろ。
一、他の者より出しゃばり過ぎた。仲が悪い上に、子飼いの者より気に入れられたら感じが悪い。
これらを踏まえて直していけば、関ヶ原が起きなかったりするかもしれない。
家康はどうしようか。小牧・長久手の戦いをなんとかして勝てばいいのかもしれない。だがどうやって?
…時間はたっぷりある。じっくり考えよう。
考えるのを止めてすぐ、後の福島正則となる小姓に呼ばれた。
「佐吉、殿が茶を望んでおられる」
「ああ、分かりました」
「お主よりも上手く入れられる者は千利休くらいだろうな」
「大袈裟ですよ」
福島正則や加藤清正ら他の小姓とは、なんとか上手くやっている。俺の茶も捨てたもんじゃない。皆にも会ったばかりの時に振る舞った。前世で茶道部の幽霊部員をしていたが、それでも茶道の魂は腐っていなかったようだ。
俺からすれば上手くいっているのだが、彼らに俺は積極的に話しかけられない。流石にそれは無理です。だって怖いだろう。
「殿、佐吉でございます。茶をお持ちしました」
「ああ、入れ」
「失礼します」
こうして今日も藤吉郎様のお茶係で終わっていく。この平穏が続けばいいのに。俺は死にたくない。
で、ふと思ったんだが。
俺の幼馴染みである、直野暁はどうなったのか。二人で登校していたら交通事故にあったんだが。まさかあいつもこの時代に来ているのでは?
だとしたらマズイ。この時代は殺し殺されの世界。現代っ子で平和主義国家の国民である俺たちに、誰かを殺すというのは難しい。いつか慣れるかもしれないけど。
…来てないことを祈ろう。こんな辛い目に遭う必要はない。
この時の俺は、自分でフラグを建てていることに気がつかなかった。
あれから十年ほど経った。自分から話すことは滅多にないままで育ち、聞かれれば応えるを貫いてきた。おかげで御伽衆並みの聞き上手だ。
今年は1572年。つまり織田信長と上杉謙信との同盟・濃越同盟が締結される年だ。俺は他の小姓たちと共に行くことになった。
で、感想だが。
上杉謙信怖っ!
何だあの眼つき!義に厚い漢と謳われているせいか、その表情は凛として精悍ではあるが。眼は信長公と同じような鋭さ。唯一の違いはそれが冷たいか温かいか。
無闇な情報の漏洩を防ぐために、俺たちは隣室で待機していた。
無事に同盟が締結し、祝いとして宴を催すことになった。酒を飲んでいく人々の騒がしさは、現代も戦国も変わらない。信長公はあまり飲まないが、謙信公の量がとても多いからすぐに無くなりそうだ。追加を持って来ようと立ち、この場を他の人に任せた。
追加を持って廊下を歩いていた時、目の前に見覚えのある顔があった。
整った顔立ちが俺を見て眼を見開いている。
かくして、前世の幼馴染み兼親友と再会したのだった。
お前、酒強かったんだな……うぇッ……!
転生しても親友だったのは嬉しいが!お前、死ぬなよ!俺も絶対に死なんからな!
打倒!徳川家康!