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雪が降ったら陥落

今度は数ヶ月経ちました。

曜日感覚?カレンダーがないこの時代では分かりません。空を見るしかないね!


「与六!水を汲んできてくれ!」

「はーい」


入門して来た時よりだいぶ皆と打ち解けてきた。皆と協力して朝の清掃なう。

雑巾を洗う桶の水が汚れてきた。水汲みに行く途中に、ちらっと喜平次様の様子も見る。皆と打ち解けた様子は、まだ見当たらない。こればっかりは仕方ない。喜平次様の問題だ。



で、水汲みですが。


「冷てぇ!ってか痛ぇ!」


皆さんは体験したことがないでしょう。水汲みって意外としんどい!

水だから重たいのは勿論、今は真冬だから手に掛かると冷たいを通り越して痛い。前世でよく霜焼けになってたから慣れているとはいえ、これは五歳児にはキツイ。

運ぶ際にいくらか散ってきて、足まで凍えそうだ。


「おい、与六。手を貸すぞ」


又五郎さん優しい!ぜひ!


「ありがとう!引き上げるの手伝ってくれ!」

「ああ、運べるのか?」

「それは大丈夫だが、井戸は…」

「……あっ」


又五郎は何かを察したように井戸を見ている。

俺の身長で胸くらいの高さの井戸は、紐に全体重を載せたところでビクともしない。水の量に俺の体重が負けているということだ。

で、又五郎に手伝ってもらいながら汲みました。まだ一杯にならない。


「「…よいしょっ!」」

「ふう!もう一回!」

「っ、待て!与六!その足どうした!」

「へ?…うわあっ!」


又五郎も今気がついたようだ。

俺の足は赤く腫れてるどころか、どこかで切ったのだろう。血がダラダラと。

痛みを自覚したら、いくら中身が二十代とはいえ、身体は五歳。とにかく痛い。もしかしたら身体に中身も引きつけられているのか?


「ぅ、ああああああ!」

「ああ!泣くな泣くな!ほら、和尚様の所で手当てしてもらおう!」

「うわあああああ!」

「あ、歩くのも痛いのか!…よいしょっと!」

「うわぁ!」


又五郎に抱っこされた。

皆さん大袈裟なとか思ってるでしょうが。この時代の越後の寒さは尋常じゃない。現代と違って防寒なんて少ししかないのだ。着ている服もコートとかじゃないし。

足から血が出て痛いし、そこに冷たい風が吹き付けて更に痛い。歩くのも痛いのは、五歳児の柔肌だからか。


和尚様に苦笑いされながら手当てされました。涙ずっと拭ってくれるけど、まだまだ出てくる。これが子ども。


「うわあああああ!」

「これ!いつまで泣いておる!」

「あああああ!ははうえぇええええええ!」

「ああ…もう、ほれ!泣きやめ!」


法衣がグシャグシャですね。すんません。

なんかつい母上って言ってしまったけど、子どもだからかな。母上がここにいないのは俺が誰よりも知っているのに、何故か呼んでしまう。


「う、うあっ、ひっく…うぇ…」

「よしよし、良い子じゃ」

「ひっく…ははうえ…」

「……母が恋しいか」


あ、やっぱり言われた。これってほぼ無意識なんすよ。子供になって分かったけど、助けを求める時って今まで味方でいてくれた人を呼ぶんだよね。それが父上よりも母上だったわけで。


「…恋しくはありません。恋しがったら、母上が悲しみますから」

「ならば何故、母を呼ぶ?」

「…無意識、です。母上にはもう頼れないとは分かってますが、まだ甘えてるんですね。早く、喜平次様の小姓の『与六』にならないと…」

「…我慢は良いが、し過ぎるのは禁物じゃ」


そう言って和尚様は立ち去った。

我慢、ねえ。子供だからあまりするなってことか?

分からないから持ち場に戻った。そしたら皿を拭いたり、並べたりするのを任された。あれ?水汲みは?









夜。

皆さん寝静まっています。冬って静かだわ。全く音がない。寂しい。


「……」


俺は寝付けないでいる。こんなに静かなのは初めてだ。

実家では母上がいつも子守唄を歌ってくれたし、与七が夜泣きしていたし。

でも今は静かで。外はしんしんと雪が降り積もっている。


「…よっこいしょ」


爺臭いとか言うな。音がないなら音を出すしかないだろう。

とりあえず歩こう。そしたら疲れて眠れるかもしれない。






…一つ学んだ。


「ここ、どこ?」


昼と違って何も見えない夜。灯りも持たずに歩いた結果がこれだよ。

とりあえず門まで来てみた。

月明かりが雪で反射してキラキラ光ってる。外と中は大違いだな。

で、やっぱり都会っ子ですから。


「ひゃっほい!」


雪なんて滅多に見ないんですよ。見た所で積もらないし。あ、靴みたいなのは履いてるよ!

せっかくだから雪だるま作ろう。

一番小さいのが俺。で、皆のも作って。真ん中は喜平次様にして。和尚様も作っておこうか。

…つい両親と弟まで作ってしまった。


「ふっ…うっ…うえっ」


ヤバい。泣きそう。自分で作った雪だるまで泣くとかねぇわ。

皆が起き出さないように、なるべく声を殺して泣いていたら。


「与六」

「!!」


ビビった!雪女!?


「き、へいじっ…さま」

「また泣いておったのか」

「うあっ、ふっ、うええぇ!」

「泣くな泣くな」


喜平次様がぎゅーって抱き締めてきた。暖かい。俺ってどんくらい外にいたんだろう。結構冷たくなってるようだな。


「雪だるま、作っておったのか」

「ぅ、…はい」

「…上手だな」


わーい!褒められたよ!

でも涙が止まらねー!情けない。


「和尚様に聞いた。お前が我慢しておるって」

「……」

「我慢させているわしが言うのも何じゃが、お前には俺の下にいて欲しい」


前にも言われた。そういや返事してなかったね。


「わしには涙が出せん」

「え?」

「上に立つ者だからじゃ。上に立つ者は、涙を流せんのじゃ。じゃから、わしの代わりに泣いてくれ」

「え?」

「わしに仕えてくれんか?」


うわあ、すっごい口説き文句!

ドラマも小説も観てないから分かんないけど、これは流石に落ちるわ。うん。

喜平次様って真面目過ぎるのかもしれないな。俺なんて小さいからずっと居れば何とかなるって普通思うだろうに。こうやって口説きにくるんだから。


「喜平次様」

「ん?」

「わしにはまだ『仕える』ということが分かりません。ですが、わしは喜平次様と共にいます!」


主従関係とかゲームとか漫画の王族の人達しか知らないけど。

前世じゃ、誰かにお仕えするとか遠い世界だったし。


「そうか…。与六、泣くとすっきりしただろう。ほら、帰るぞ」

「はい…ってあれ?」

「え?どうした?」

「…立てません」

「……よいしょっ!」


結局喜平次様に背負ってもらった。ただ門の前から部屋までの距離なのに!


「喜平次様」

「何じゃ?」

「今はこんなに小さい与六ですが、大きくなったら喜平次様を支えて、越後を支える家臣になります!」

「…与六」

「それが…俺の新しい…」

「…与六?」

「…ぐー」

「…眠ってしまったか」



朝起きたら風邪引いてた。

うん。自業自得だわ!

次は三成さんと再会します

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