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帰還したら騒動



どうもー、景勝様の馬廻組でもある樋口与六兼続です。覚えてる?


前回潰した七尾城には上条政繁が当主に入りました。あの人って実は畠山氏からの人質だったんだって。俺の政務の師匠が去ってしまった…。

え?親父に教わればって…親父は政務じゃなくて外交って感じだし。なんか商業向きなんだよ。文系の俺には難しいな。


手取川の戦いは圧倒的だったそうです。

話によれば、松任城に入って待ってみると、あら大変!柴田勝家だけでなく滝川一益や前田利家、羽柴秀吉などの有名人が押し寄せてきたようです。なにそれ見たかった。

でも相手は川を渡った後で、帰るためにはまた川を渡らなければならない状態。ってか扇状地だし。しかも豪雨が降ってきて鉄砲はダメになり、川は増水して溺死者多数。織田軍の運の悪いこと。

でも不幸中の幸いか、有名人達はみんな無事です。ちくせう。








冬です。確か霜月だったはず。現代でいうところの12月に当たる。


御身城様は一旦春日山城に戻られた。政務やら何やらが残っているし。俺も景勝様のお手伝いをしています。そろそろ家督を相続してもいい頃だからか?いや、何歳かは知らないけどさ。

そして最近、景虎様がおかしい。俺が景勝様に幼い頃から仕えているのは知っているはずなのに、


「私の方につけ」

「私ならばその知識を活かすことが出来る」


とか言ってくる。何があった。



話を戻そう。帰ってきた理由は、越後にいたほうが安全でもある。織田信長は松永久秀の裏切りとか、手取川の戦いの影響で動きはない。雪に囲まれた越後に攻め入ろうなんて考えないだろう。


それにしても今日は家臣団の方々が騒がしい。何かあったのか?

丁度いいところに、甘粕景持殿がおられたので訊いてみるか。


「甘粕殿!」

「…ん?ああ、与六か」


あ、いまだに未熟者扱いですか。いや、確かに未熟者ではあるが。

ま、いっか。


「この騒ぎは一体何なのでございますか?」

「…裏切りだ。織田と内通しておったそうだ」

「え!?…ど、どなたが?」

「…柿崎晴景殿だ」


まさかのォ!ってか上杉四天王の柿崎景家殿の息子さんかい!

道理でテンションが低いわけだ。そのテンションのままで、甘粕殿は去っていった。もしかしたら景家殿の墓参りでもするのかな。


甘粕景持殿からすれば、長尾上田衆の先代である長尾政景様への恩返しは、上杉に貢献するということなのだろう。彼から見れば、敵対する織田と繋がりを持つなど言語道断というわけか。


………俺はどうなるんだろう。あいつらに手紙を出すのはしばらく不可能だ。この雪だし。

でも御館の乱の間だけは協力してほしい。食糧難が一番困る。


…にしても、景虎様が北条を乗っ取るというのは無理なのかな。もし景虎様が北条氏の殿になれば、上杉と同盟が成立して強力になる。

外側から乗っ取るのは無理だろうな。いや、秀吉がやった一夜城作戦だったら……ん〜…駄目だな。あれって北条氏が油断していたからこそ出来たことだ。今の北条氏は織田信長とかで警戒が解かれていない。

いっその事、景虎様を北条に返すというのは?…無理か。それは異例すぎるかもしれない。北条氏の家臣達の大多数、それも家老などに近い人達が景虎様を支持すればいけるけど。そうするには今の景虎様の能力や武功を伝えて、北条氏直よりも優れていると解らせないといけない。


…あ、めんどくさい。

景虎様には外交関係で頑張っていただきたい。北条氏直はそういうのが苦手だし。親の言いなりだし。



でもこれって、ただの妄想なんだよなあ。






夜。戌の刻くらいか。

本当に冬は空気が澄んでいる。真っ白になった景色を見ていると、戦での記憶が洗われる気がする。

いつもとは違って、久しぶりに強めの諸白を持って行くことにした。先の戦が終わったことで、御身城様の体調も安定しているだろうし。ここのところ寝ておられなかったようだった。


酒を手にして部屋に向かうと、向こうから焦りを隠さずに走っている小姓を見つけた。他にも有力家臣の方々が慌ただしく行き交っている。

その中に直江景綱殿を見つけたので、話を聞いてみた。


「直江殿!この騒ぎは一体、」

「与六!景勝様をこちらに!」

「え、何かございましたか…?」

「…御身城様が床に伏せなさったのじゃ」


はあっ!!?

まさか、また発作?いや、まさか…!?


とにかく急いで景勝様の許へ戻った。酒はそこらにポイした。

景勝様が焦っておられた。突然のことだし、これは織田軍に反撃の機会を与えたもの。身近な人をまた失いかけている。身支度もそこそこに、急いで向かった。


御身城様の部屋の前には様々な方々がいらっしゃった。途中で合流した景虎様と共に部屋に通される。

中には、見たこともないくらいの苦悶の表情を浮かべて寝ている御身城様が、真っ白な布団に守られていた。側には仙桃院様が付き添っていらっしゃった。


「父上!」


景虎様が側に駆け寄って、御身城様の右手を握った。握られた手はだらんとしていて、全く力が入っていないのが分かった。だが指は微かに動いている。


「どうか目をお覚まし下さい!まだ始まったばかりではございませんか!また舞を披露しとうございます!」


それが演技かどうか、俺には判断出来ないけど。ずっと人質生活を送ってきた景虎様からすれば、この上杉はそこまで言わせるくらい良かったのかもしれない。それは偏に御身城様がいてこそだったと思う。

景勝様は仙桃院様のお隣に座って、額に浮かぶ汗を拭っていた。いつもより表情が堅い。

御身城様がここまで苦しむなんて…。今まで平気だったのが不思議なくらいだ。側まで近づくと、昼間に見た顔が遠い昔のようだ。


「御身城様、お二方がいらしてますよ!どうか目をお覚まし下さい!…毘沙門天の、その義を天下に轟かせましょう!…皆様ご心配しております。御身城様が我々上杉の義の象徴なのです……病など、毘沙門天の御加護で薙ぎ払いください!

どうか目をお覚まし下さい…!」


…俺が言えるのはここまで。俺はある意味場違いだ。それに、一人の家臣の声よりも、家族の声のほうが力になるだろう。

外の家臣達もハラハラしていることだろう。とりあえず外の混乱を何とかするために立ち上がる。景勝様が気づいた。


「…与六?」

「…皆様は御身城様にお声を掛け続けてください。それはきっと、毘沙門天への祈りとなって、御身城様に届くはずです」

「お主はどうするつもりだ?」

「私は外の混乱を収めてきます」


それでまだ外が騒がしいのに気がついたようだ。先ほどすれ違った直江殿によって有力家臣達は静まったが、その下はまだ混乱したままだ。先ほどから部屋の前をウロチョロしている気配がする。


「…任せたぞ」

「はっ。…御身城様、病に負けてはなりませぬ。我々があなたと上杉をお守りします。…存分に戦いなされ」


そう言い残して廊下に出る。予想通りに小姓達がそこに屯っていた。縁側の方には夜警の者も見られる。

その向こうに、甘糟景持殿がいらっしゃっていたことに驚いた。手には槍を持っていて、まるで夜警だ。


「甘糟殿…夜警でございますか?」

「このような状態の者共に御身城様は任せられんからな」


あー…確かにいまだに混乱している奴らだしなあ。上杉四天王が夜警とか、鉄壁じゃねーか。


闘病いくさに出ておられる御身城様のお帰りまで、上杉をお守りする。それが我々家臣の務めだ」

「流石、上杉四天王でございます」


本当、見習いたいし見習わせたい。

その言葉に共感していると、他の所の混乱を収めてきた本庄繁長殿がやってきた。

あ、これは俺の仕事無いな。

甘糟殿が一歩前に出る。まだ混乱している奴らは騒がしい。


「静まれいっ!」


おお…!

重低音で大きな声は、一気に波を退かせた。


「御身城様はご無事だ。我等が成すべきことは、御身城様がお戻りになるまで上杉を護ること!」

「左様。この機を逃すまいと織田や北条が意気込んでおるであろう。だが我等は敗けぬ!」

「我等には義の旗を魂に掲げておる。上杉の義がある限り、我等が倒れることなどない!」


そこまで長い文でもない。互いに息が合っているように、スラスラと、だが明確な威厳を含んで発せられる声は、その場にいた者共の混乱を鎮圧した。

この二人が並ぶと何もすることが出来なくなると思う。


皆がそれぞれの持ち場に戻り、俺も何か手伝いに行こうとしたら。


「兼続」

「?…お二人共、何かございましたか?」


本庄さんと直江さん、甘糟さんの三人に止められました。え?何?

着いて来いと言われて、ただいま別室に居ります。何気に途中で忍に周囲の警戒をさせていたから、それだけ重要な話だということになる。それをただの馬廻組である俺に言っていいのか?


「この後、どうなると思うのじゃ?」


直江さん、直球勝負ですか!?


「この後の良い事と悪い事を考えるのも家臣の務めぞ」


本庄さん、ごもっともですが!


「景勝様のお側に常に控えておるのはお主だ。景勝様を支えるためにしっかりせい」


甘糟さん、無茶ぶり嫌!


ああ、だから人払いと警戒させているのか…。これから話すことがバレたら、それは御家騒動で強力な武器になりかねないからな。


「…御身城様のご回復が鍵となるでしょう。ご回復すれば、織田との戦も上手くいきましょう。

ですが…もし、の場合は覚悟せねばなりませぬ」


回復すれば御身城様ご健在、として織田にプレッシャーを与えられる。

そして北条にもだ。今は豪雪のおかげで攻めてこないが、雪解けの時期が来た時に牙を剥くだろう。その時に御身城様が生きていると知れば、氏政さんと氏直さんがどんなに慌てるか。


だが、もしもの場合は最悪だ。織田は機を逃すまいと攻めて来るだろう。七尾城が危ないかもしれない。

北条はどこを狙うだろうか。恐らく春日山城や魚津城を狙うだろうか。武田を捨て駒にして襲ってくるかもしれないし、二手に分かれて同時に来るかもしれない。


「それだけではないじゃろう?」


直江さん…あまり言いたくないんだけどなあ。


「…最悪の場合ですと、家督争いが勃発致しますな。これは我々家臣次第かと思われます。通常であれば血縁関係のある景勝様でありましょうが、相手は北条の景虎様。北条の力を恐れて、向こうにつく者共も少なくはないでしょう。そして景虎様が上杉当主となれば、北条と結びつく強力な縁となるのも、また事実」


ただ問題はここにある。本庄さんがすぐに気がついた。


「対等ではないな、それは」

「ええ、この場合ですと上杉は北条の支配下に置かれます」


景虎様は七男だったはず。対等は望めないだろう。


「一番理想的なのは景勝様が上杉当主に、景虎様が北条当主になられることですが」

「景虎様が?人質を返すと?」


甘糟さんが何言ってんだコイツ的な顔をしている。前例は無いはず無いと思うんだけどなあ。知らないけど。


「ええ。そうすれば対等な同盟を築くことが出来ます」

「だが北条氏直殿がいらっしゃるぞ」

「甘糟殿の仰る通り、このままではただの同盟破棄となりかねませぬ。景虎様が当主となる可能性は、浅井長政殿と同じようになることです」


浅井久政は浅井家の前当主だ。長政の方が優れていたのは、織田信長がお市の方を嫁に出しているところからも予想出来る。なんたって家臣達が久政殿を無理矢理隠居させて、長政を当主にしたっていうんだからな。人望も凄まじいこと。


「氏直殿より景虎様の方が優れていると知れば…」

「景虎様が当主になれるやもしれぬ…そういうことか」

「じゃが可能性は低い」

「直江殿の言う通りだ。兼続、理想を語るのは良いが、それが不可能である事もあると憶えておけ」

「はっ!」


ですよねー。まあ、期待はしていなかったし。ってか北条征伐の時が大変だしな。

そういえば、一番気になっていたことがある。


「…ところで、皆様はどちらにつくおつもりで?」


どちらについてもいいけどな。まとめて潰すだけだ。

国人衆はどうしようか。新発田重家の乱っていうの教科書にあったような…。なんで乱を起こしたんだろう。

でもこの三人には景勝様についてほしい。腕っ節もそうだけど、頭脳も欲しいし。


「…それは言えんのじゃ」

「我等は重臣だぞ。我等の意見で争いを起こす訳にはいかぬ」

「それは兼続、お主も同じだ」


は、いぃ?本庄さん…何を仰って?


「お主は景勝様のお側に控えておる。景勝様はお主に絶大な信頼を寄せておるのは、誰が見ても明らかだ。……幼い頃から兄弟のように育っているからやもしれぬがの。お主の言葉は景勝様に多大な影響を及ぼすであろう」


え?


「加えて、お主は御身城様の唯一の弟子だ。それは御身城様から信頼され、これからの上杉を任されているも同然。その知識を他の武将も欲していることはお主も知っておろう?」


三成に言われた事だ。確かに俺は御身城様に日々兵法を学んではいるが、それは御身城様に遥か及ばない平凡な知識となっていると思うが。信長公に誘われた事は言わないでおこう…。


「お主は確か織田や徳川に友がいるだろう。景虎様はお主を使えば同盟が組め、支配下に置けると考えているかもしれぬ」


ああ、だからやたらと口説いてきたのか。

なんか憂鬱になってきた。相続権についての争いは現代も面倒だけど、戦国だともっと面倒だ。







もう、明日から頑張ればいいや。

ねえ?



今度は休み明けのテストです

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