囲み終わったら調略
遅れました
追記・いくつかの箇所を訂正しました
はーい!皆さんお久しぶりです。
樋口与六兼続、刀を新調して只今参上。貰えたよ。
この間の熊木城の城主は国分家の人たちだそうです。顔も知らないな。で、俺がやったのはその親族。実頼と久秀も同様。城主さんは他の誰かが倒してしまったらしい。やられた……!
貰ったのは兼光です。景勝様、そんなに俺を評価して頂けるのはとても嬉しゅうございます。ですが報酬がデカすぎやしませんかね?
あ、ちなみに実頼は赤備えの槍でした。見た目は俺とお揃いだけど、重さは圧倒的に上。そんなに力持ちになっていたのか…!
あ、違う。速報はこっちだった。
御身城様、帰るってよ。
いきなり!?って思うけれど、景勝様曰く北条氏政が北関東に出兵してきたからです。まあ、今だったら越後はガラ空きだしな。好機を逃さないその野心、俺は嫌いじゃない。
そんな訳で急いで帰ることになりました。攻め落とした城にはそれぞれに武将を配置することになっている。
熊木城に三宝寺平四郎と斉藤帯刀・内藤久弥・七杉古伝次。
黒滝城に長景連を、穴水城に長沢光国と白小田善兵衛。
甲山城に轡田肥後と平子和泉を、富来城に相浦長門。
石動山に上条織部と畠山将監。
ただ心配なのは。
「七尾城の武士共が攻めてくるのでは?」
そうです。だってこの機を逃すはずがないだろう。俺だったら一気に攻める。
「その可能性は考えたが、病が流行っておる七尾城が多くの兵を送ることは無かろう」
「それはそうかもしれませぬが…」
「死兵としてならば来るだろうが、わしの家臣共が簡単に敗れはせん」
そう。元から死ぬつもりで来たならば、病に侵された身体で立ち向かうだろう。そこまで忠義に厚い奴らがいるかは知らないが。
石動山は周りに城が沢山あるが、上杉に降伏するだろう。危ないのは熊木城、富来城、穴水城だろうか。
熊木城は近くに海があるから、援軍に水軍でも持って来られたらアウトなんだが。あとは調略が心配な家臣がいるのが不安。いや、国人が皆そんな感じじゃないけどね。
富来城は交通の要地に建てられている。援軍が来たり、どこかに援軍を出すには丁度良い位置だ。何気に道もある程度は舗装されているし。
穴木城は一人しか武将を配置していない。いや、一人で十分という信頼かもしれないが。富来城から行くとあまり馬も兵も疲れない所にあるんだよな。
多分、畠山氏はこれを機に上杉家臣団を減らしに来る。まさか今回の北条氏政もグルなんじゃないか?
まあ、どちらも蹴散らせばいい訳で。
「…それにしても、与六。お主最近わしに普段より弱い酒を呑ませるな」
「御身城様は呑みすぎです。酒は万病の霊薬とも呼ばれますが、薬は毒にもなり得るのです。それに、弱くても越後の酒はみな良酒にございます」
「確かに、民が丹精込めて作った米から出来ておるからの」
この時代の酒は諸白という甘くてアルコールが低いものだが、謙信公が好んで呑むのは上諸白、つまりは極上の清酒だ。普通のよりアルコールが高い。そんなの毎日呑んでいたら肝臓が壊れる。
「だからこそ、民の生活を守らねばならん」
「北条氏政を退いてからだと、七尾城攻めは夏頃になると思われますが」
「その頃には、流行り病が悪化している頃か」
冷蔵庫なんて存在しない戦国時代。水も腐る夏頃には、病気は喜んで人々を攻撃する。七尾城では一人二人と、病人が増えているらしい。
そして籠城戦に向かない時期。食べ物は腐り、暑さで士気が落ちる時期だ。調略を持ち込めば、誰かさんはあっさりと来るだろう。
「…ふむ。兼続、お主ならば畠山はどう出ると考える?」
七尾城サイドから考えるのか…。
「…私ならば、病に侵されていない兵を集めて、それぞれの城の奪還に向かいます。そちらに行けば病から逃れられますから。そして籠城戦の準備の為に、農民達を城に入れます。彼らには敷地内で畑を耕して貰いますね」
「調略か。甲斐親家が企てておるというな。それに対し、お主はどう出る?」
軒猿インフォか。本当に情報は武器だな。
「親上杉派である遊佐続光殿に調略を持ち込み、富来城に攻め入るふりをして入城して頂きます。そうすればあの方と兵達が病に罹る可能性は低いですから」
「富来城か…」
「ついでに深夜に見計らって、畠山氏の民衆を逃がしたいのですが…。どこへ逃がすのかは全く思い付きませんから、民を入城させる前に戦を終わらせるべきかと」
「…ふむ……」
あ、これ赤点だ。結構無責任な発言しちゃってるし。
このチェス盤を返すような視点は、俺にはあまり向いていないのかもしれない。
戦術は囲碁や将棋と同じ、なんて言う奴がいるけど、そんなことはない。棋道では戦術はほぼ全て本に書かれている。だが戦はその時々で全く違う。駒が変わっていく。状況も賭ける物と違う。
だからこそ、命懸けで考える。
でも、なんか嫌な予感がするな。
翌朝。評定では色々な意見があったようだ。やっぱり北条氏政は怪しいよな。このタイミングで掛かってくるんだからな。
評定が終わってから、急いで陣の中にいるであろう三宝寺平四郎、斉藤帯刀、内藤久弥、七杉古伝次を探した。
ああ、良かった。まだいた。
「斉藤殿、三宝寺殿、内藤殿、七杉殿!」
「…ん?お主は確か、景勝様の側使いの…」
「樋口与六兼続にございます。ご多忙でございましょうが、どうか話をさせていただきたく」
どうにかしてフラグを叩き折りたいからな。この人達も古強者。上杉家では無くすには惜しい。
「甲斐親家が調略を持ち込もうとしているのはご存知でしょうか?」
「ああ、先の評定でな」
あ、やっぱり話されてたんだ。
「恐らく、調略は熊木城に持ち込まれる可能性が高いと思われます」
「何故にそう思う?」
熊木城は半島の東側。落城させて援軍を待つにはあまり相応しくない。
「富来城を除き、他の城は熊木城と同じく半島の東側に存在しております。敵は富来城を狙うために、熊木城と穴水城を落とすかと」
「…兵の疲労を減らすためか」
七杉さん察しがいい!この三つの城さえ開ければ、七尾城までスムーズに攻め入ることが出来る。それに海の近くだから塩も手に入る。疲れを癒すのに丁度いい。他の城はあまり意味がなくなる。まあ、途中に不利な地形もあるかもしれないが。
「儂等が調略されると?」
「いえ、皆様は上杉家の古株。調略されるのは家臣の、それも野心家で若い方かと。どうか兵達にお伝えください。織田軍は今、顕如により美濃付近から出られない状態。御身城様はそこのことも考え、皆様を信頼して熊木城を任せているのです。どうか不義をなさいませぬよう」
「…あいわかった。そのような家臣はいないと思いたいがな」
自分達だと織田軍を選ぶんでしょうね。俺が国人だったらどうなっていたんだろうか。
「…なんでしたら甲斐親家を討ってくだされば良いのですが」
「調略を利用するのか」
「はい。それに、能登を手に入れれば大量の城も手に入りますから、今回の戦は皆やる気でしょうし」
そうすれば御身城様から恩賞が増えるだろうし。能登って意外と城が多いんだよな。落とす必要がないって判断した所も数えれば、それなりの数になる。
だから恩賞は心配しなくていい。
とりあえずこんな感じの話を他の人達にも話しました。特に富来城には頑張ってもらわねば。
今の俺の心配は北条氏政です。
あれれ〜?おかしいぞ〜?
やっぱり北条氏政って上杉を舐めてんだろ。マジで。
家臣団の多くが能登に行っているからって、そこそこの兵しか来ていない。強かったけど!俺は右手に刀、左手に槍で戦いました。槍で棒高跳びとか初めてしたよ。
あと予想通りなことが起きました。
やっぱり調略しに来ましたよ。甲斐親家さんが。それも熊木城。斉藤帯刀さんが野心家で、最近あまり恩賞が手に入っていないと知ったんだろうな。
でもここからは予想外。
斉藤帯刀さん、甲斐親家を討ったってよ。
マジですか!?え、恩賞は結構入るよ!あの謀臣は邪魔だし。
でも他の家臣が甲斐親家の部下に調略されていたようです。まあ、すぐに斬り殺されたようだけど。
富来城にも畠山家臣が攻めてきたようです。杉原和泉だって。姓も名も現代で先輩にいた苗字だな。
でも杉原和泉さん。一緒にいる人に説得されたようです。遊佐続光さん。流石です!調略に乗ってくれてありがとう!
遊佐続光は富来城に一緒にいるとか。でも杉原和泉は穴水城に攻め入って、穴水城は落ちました。まさか遊佐続光の兵を何割か引き抜いているとは…。
あと、懸念していたことが起きた。籠城戦に農民共を引きずり込みやがった。
一万五千人くらいの人数が七尾城にいるようだ。それって食物が足りなくなるんじゃないか?ってか人口密度で夏が危ない。食中毒とか熱中症とか。
富来城は対織田の最初の砦みたいなものだな。攻めてきたら捨てて空にしておくのもいいかも。山から攻めちゃえばいい。
ああ、夏が楽しみ。夏休みはないけど。
明日からテストです!_(:3」∠)_




