元服したら初陣
がんばって兵糧ピンチを回避しなければ
皆さん、お久しぶりです。
吉報があります!俺、樋口与六はこの度元服して樋口与六兼続になりました!あれ?直江は?なんで苗字が変わったのかは分からないけど、いつか分かるよな。よし、この事はスルーで。
ついでだから与七も元服させてもらうように頼んだ。樋口与七実頼だって。『兼』は!?
小姓仲間だった久秀達にも祝われました。なんか大人の仲間入りしたって実感湧かない。前世では四国地方に少年式っていうのがあるらしいけど、大人っていうとやっぱり成人式っぽいんだよなあ。まあ、俺ももう数え十七ですし。
で、最近は本庄繁長さんとかに政務を教わっています。しんどい!何なのこれ…勘定奉行の方がまだマシだった。寺時代のおかげで文字は綺麗に書けるけど、まさか景勝様の補佐までするとは思わなかった。弾正少弼ってこんなに忙しいんだ…。
他の皆は出陣だの鍛錬だのでいないし、いても政務はそこまでじゃないし。あとどっかの一向一揆を収めに行っていたな。でも槍さばきは凄いよ。俺は槍はもう諦めたから。刀に生きる。
で、そんなある日ですよ。
「本願寺と和解する」
御身城様の決定です。一揆って面倒だしね。人死ぬし。
とある誰かさんが一向一揆を扇動しようと思って、米の生産量が減っていると誤魔化してくれてねえ。そんで農民にもっと働けと無理強いをして、一揆を起こさせようとしたそうです。まあ、それは何とかしたんだけど。越中一向一揆とか加賀一向一揆が一番痛かった。北条氏に手間取った時の傷跡はまだ癒えていない。武田氏を相手に何回も川中島合戦があったし。どれだけの兵糧を必要とされたのか。
で、問題発生です。
織田さんが敵だよ!ってことは秀吉さんも徳川さんもだよ!戦国の三英傑が敵か…。これが信長包囲網ってヤツかな。
これでは三成、市松、虎之介、忠勝さん、竹千代とも手紙を渡せそうにない。…和解をする時は仲介を頼むか。
問題は御舘の乱だ。景勝様につく武将はだいぶいると思いたい。景虎様は北条氏に援軍を要請するだろうけど、北条氏は動かないだろう。きっと面倒だと思うだろうし、小田原を出て勝てると思っていないだろう。動かせそうなのは伊達氏か武田氏。多分近い方の武田氏を送ってくる。ついでに潰れてほしそうだし。武田って長篠の合戦で有力武将が大勢死んで戦力はガタ落ちしているよな…。
まあ、これは全部二年後に考えよう。二年後には状況が変わっているかもしれないしな。
それよりも今は目の前の宿題だ。書類もあるけれど、兵法の方が若干多い。御身城様容赦ない!
その夜。
「うおっ!?」
凄えビビった…。目の前に矢が突き刺さりました。え、暗殺?俺を殺しても何にもならないよ?
よく見たら文が結ばれています。あ、なんだ矢文か。こえーよ!夜中は止めて!でも俺に当たらないようにしたってことはかなりの腕利き。何処かの忍びがいるのか。
「…え?忠勝さん?」
徳川さんのところの忠勝さんで合ってるよね?他に知らないし。
で、手紙を開けてみました。うわ、達筆!現代日本に生きた俺には少々読みづらいが、寺育ちって素晴らしいな。良かったよ、蛇みたいな文字が読めるんだよ!
「あー…味方の敵は敵ですか」
徳川家康って羽柴秀吉は嫌っているんだよな。織田信長に仕えているから、世間体を気にしてあんな感じだけど。でも家康の信長への忠信は凄い。なんか分からないけど、信長はカリスマ性は化け物級だ。本能寺の後に殉死するんじゃないか?
で、そんな徳川に対して上杉は信長と敵対しているわけで。文は出せないから忍びに頼んだとか。俺死にかけたよ?なんの恨みがあるの!?
「…やっぱり本願寺はギリギリか」
上杉が同盟を組んだ事を知って警告してきたんだろうな。負ける側についているんだし。本願寺はいつか上杉に軍を要請するかもだけど、出さない方がいいと思うんだよな。まあ、これは全部御身城様や景勝様の仕事だから俺は口出し出来ない。
「…なるほど」
『三成より話は聞いた。後継者がどちらに決まろうと、争いは起きるであろう。春日城下町の行商人として下人を送る。その者に文を預け、わしに届けさせてほしい』
内容はざっくりこんな感じ。やっぱり俺と同じ見立てのようだ。
景虎様が後継者に選ばれれば俺たちが、景勝様が選ばれれば奴等が。どちらとも決められなければ双方が。上杉で後継者争いは避けられないだろう。家臣次第では起きないかもしれないが、多分北条氏を恐れる奴等が多々いるはずだ。そいつらは皆景虎様につくはず。そうなれば、
「御舘の乱、か…」
どちらにせよ、北条氏が動き出すという可能性は捨てきれない。動かないんじゃなくて『動かせない』ようにしないとダメだ。
伊達氏はどうしよう。徳川から借りようか。だいぶ楽になるはずだ。輝政さんはともかく、政宗とは仲良くしたいしな。
「…文を書きますか」
それから数ヶ月間。俺は実頼と一緒にそこら中歩き回った。山ガールっていうのあったよな。男だったら山ボーイ?…いや、山男だな。
武田さんの領地って思っていたほど荒れていなかった。小田原は凄い栄えてた。何か買おうかと思うくらいには。
ついでだし伊達氏のところも行ってきたよ。細作と間違われたくないなあって思ってたけど、城下に下りていた小十郎さんに会いました。ってかカマをかけられて上杉ってバレた。
伊達政宗と上杉景勝。親からの愛情に差があるが、どちらも兄弟のせいで肩身が狭いのは同じ。そんなことを漏らしたら意気投合しました。伊達政宗って小田原遅参の前に戦いがあったよな。ぜひ協力したい。
帰ったら突然のお知らせだよ。
御身城様が上洛するって。手紙が来たらしい。でも謙信って信長と戦っていたっけ。あれ?謙信の実力からして、信長は全勢力を投下してくるはずだ。それは教科書に残る戦いになるはず。あれ?知らないよ?
え、まさか、この途中で御身城様がお空に逝っちゃうんですかね?
……ンな訳ないよなー!
で、七尾城の戦いに参戦。
俺にとってはこれが初陣です。折角だから実頼も景勝様に頼んで参加している。実頼にも初陣になった。三成からは『直江兼続の初陣はいつか不明』って聞いてたけど。活躍はどうでもいいから生き残ろうと意気込んだ。でも、ね。
「ひっ…!」
皆さんは想像したことがありますか?いや、ゲームとか妄想で中二病なことは何度も想像しただろう。敵を殺し、味方に勝利を収める。今となっては黒歴史だろう。…でもこれは現実。血なんて怪我をすれば何度も見たことがあるはずなのに、この血には慣れそうもない。
俺は景勝様のお側に控えていた。もしもの時は壁にならなければならない。
「景勝様!」
「…っ、与六!ここは任せて早く行け!」
「久秀!?」
「いいから早く!」
でも俺に人を殺せるのか?景勝様を守ることは俺の役目だけど、その為には敵を殺さないといけない。現代日本で殺人なんてしたこともない。今まで鍛錬はしてきたけど、あれは部活の延長戦のつもりだったのかもしれない。
今、敵を前にして俺はどこか冷静になって、どこかにいる【俺】に問いかけている。俺のせいでどこかに消えてしまった【俺】に、答えを求める。
ーーーーーどうする?
戦うしかないだろう。
ーーーーー犯罪だろう?
この世界に警察裁判所弁護士はいない。
ーーーーー同じ人間だぞ?
それがどうした。
敵は景勝様に近づこうとしている。早く着かなければ。だがどうやって倒す?俺の腕では槍は上手く当たらないかもしれない。俺は元剣道部なんだぞ。
立ちはだかる目の前の敵を槍で刺した後、その腰に差している刀を見た。これしかない。
ーーーーー答えは簡単だ。
「殺らなきゃ殺られるだけだ!」
俺の体も刀も真っ赤になった。赤備えってわけじゃないけど、役目は果たした。
この後はあんまり覚えていない。ただ夢中に刀を振るっていただけだった。あの刀は最後の敵を倒した時に、ポッキリと折れてしまった。
もう今日は疲れた。三成も同じようにやったんだろうか。この時代の人達は初陣はワクワクするだろうけど、俺たち二人はただ憂鬱なだけだ。ますます戦いを起こしたくない。だが跡目争いは避けられないだろう。
「兄上、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。…なあ、実頼」
「はい」
あんな血生臭い中を潜り抜けた後なのに、実頼はちっとも変わらない。やっぱりこの時代の人だからかな。子供の頃の教育次第で人は何にでもなれる、と倫理の授業で習った。実頼は幼い頃から戦人として教育されている。俺も前世の人格がなかったらこうなっていたのかな?
「…すまんが、一緒に寝ないか?」
「え?兄上?」
「…初陣とはいえ戦。同じ人間を初めて殺して、ちょっと気分がな…」
ウチの弟はとってもいい子です。
兄の情けない姿を軽蔑も罵倒もせずに、一緒に添い寝してくれました。本当にすまん。情けないとは思うが今だけ与六、いや『暁』に戻らせてくれ。『春人』はどうしてるんだろうな…。母上に会いたいわ。
「「…ぐー……」」
なんか安眠できた。実頼の寝顔は幼い頃とすっかり変わっていて、お兄ちゃんはちょっと寂しいです。
また模試です。




