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春愁

作者: 空見鳥

 私は夢に見たことがある。

 私は到来した穏やかな日差しに雪解けの土から芽吹く新たな生命の隙間を縫うようにもぞりと身体を捻る。

 鶯のまだ下手なさえずりが密集した梢枝の向こうから木霊するように聞こえてくる。それの出所を探すように仰げば澄んだ青とそれにかかる霜のような雲が見受けられた。

 とはいえ、私にはそれは届かぬことを知っているために、またもぞりと身体を捻り前へと進む。


 何かをしなければならない。

 そのことを本能的に知っている私はもぞりと身体を捻る。

 本能の赴くままに私は生きている。腹が空けば近くの新芽を遊びに食べ、喉を潤すべく葉に浮いた滴を口に湿らせ、覆い被さるような睡魔に従い沈むように眠る。

 そうやって生きてきた。私はもぞりと身体を捻ると、とても小さな小石が私の腹に当たった。気にもしない。


 私は私の気の向くままに腹這う。

 水分を多く含んだ土というのはヘドロ状となる。それは私の足を縺れさせ、ふつふつと苛立ちを起こす。

 ヘドロ状の土を避けるように、少しでも濡れないように私はもぞりと身体を捻る。

 小川にも満たない即席の沢が見えた。これはしめたもの。私は迷いなくその沢へ向けもぞりと身体を捻る。

 私は沢の水で身が清められていくことを意識して感じとり、爽快感に浸る。喉を潤すには多い沢には、沢なりの利用方法というものがあるものだ。

 私は満足感と共にもぞりと身体を捻る。


 私は初めて他者と出会う。

 夜というものは私にとって部が悪い。何故なら、ただでさえ光の差し込みの弱いこの世界に月の光は入ってこないのだ。光のない世界は闇に包まれる。私は闇の中を見渡すことができないのだ。

 だからこそ、私は夜には岩に身を寄せ静かに時が経つことを待つ。いつもこのやり過ごし方だ。変わりはない。

 しかし、今回はそのいつもに変化があった。見たことのないモノがそこにいた。柔らかな土から顔を出した新芽や梢枝の隙間から落ちる光とは違ったそのモノ。見るからに柔らかな楕円形の醜い姿をしている。

 初めは警戒した。それはそのモノも同じであった。ところが、幾ら経ってもそのモノは何かをすることはなく、また、私もこれといって接触を図ることもない。

 いつの間にか私は睡魔に身を任せていたらしく、目が覚めた時には光差す朝がいた。あのモノはいなかった。後に考えれば、あれは初めて私が見た他者だったわけだ。

 それを知らぬ私はもぞりと身体を捻る。


 私は運というものを振るう。

 目の前に他者がいる。あの時見たモノとはまた違ったモノが私と相対していた。

 二本の細長い触角に鋭さを思わせる切れ長の複眼、ガチガチと左右に開閉する顎は前に見たモノの身体くらいなら噛み切るだろう。黒と黄色の縞模様は警戒の鐘を私の本能に鳴らさせ、身体の半分はあろう太く大きな尾の先には鋭い針がある。

 そのモノは空を飛んでいた。私の届かぬと諦めた空を。それが私に嫉妬をさせたのは言うまでもないことだろう。だからと言って、それを選ぶことはやはり愚行だっただろう。

 そのモノと私は今、喧嘩という言葉の範疇を超えた死合いというに値する状況となっている。

 そのモノが先に動いた。空を飛ぶというのは地を這うよりも幾分も速く、滑るようにこちらへ迫り来る。私は見るだけで精一杯であり、回避など不可能だということを悟ってしまった。

 よもや助からぬ。そう考え至った私を置いて、現実は思いも寄らぬ方へと転がる。鳥がやって来たのだ。そして、そのモノはその鳥に食われて行った。

 私は安堵とともにもぞりと身体を捻る。


 私は這って行かねばならない。

 私は坂の恐怖を知らずに嫌っていた。坂は登ることが多く、それは私とってとても面倒な行為だ。

 坂というのを登るにはコツがいる。上手く登らねば無駄に体力を使い、なるだけ短い道を考えると坂はキツくなり、時には上から物が落ちてくることがある。それらを踏まえた上で、最も良い登りをする必要があるのだ。

 私は焦っていたのだろうか。何故、焦っていたのだろうか。私には先が見えぬ故に時間を少しでもかけたくないという気持ちがあったに違いない。だが、それが仇となったのは明白だ。愚かな、先が見えぬなら時間は幾らでもあるのと同義であろうに。

 結論を語るに、私は足を滑らせた。私は転げた。坂はどこまでも私を拒むようで、私の転がりを押すように勢いを増し、落ちていく。

 上も下もなく、右が左に、左が右になっては変わる。混乱と焦燥は私に抵抗することを鬩ぎ立てるが、意識とは反対に全身は見えない万力に抑え込まれて動かない。


 私は痛みを知った。

 転がり落ちる間に私の身体を傷つける物がいた。それは若葉を失い枯れた尖った新芽であり、どこまでもあるような小石であり、ヘドロと化した土であった。

 私は今だ揺れる世界に酔い、責め立てるような鈍痛を逃がすように体の中の内容物を吐き出した。

 全身から力と熱が抜けていく感覚を覚えながら、私はもぞりと身体を捻る。


 私はもぞりと身体を捻る。

 春は曙。ようよう白くなり行く山際。少し明かりて紫立ちたる雲の細く棚引きたる。

 鳥のさえずりも、梢枝の隙間から見える太陽も、空を滑る虫も、地を這う虫も全てが全て弱い私を嗤っている。

 私はもぞりと身体を捻る。


 私は目を覚ます。

 消灯した部屋にカーテンの隙間から見える太陽は沈み行く折。四畳半の狭い空間には消し忘れたらしいテレビからバライティー番組のざわめきが広がっていて、絶対とは言わないまでも鶯の鳴き声は聞こえてきそうにない。

 電源の入っていないコタツの中、私はもぞりと身体を捻る。

読んでくださり、ありがとうございますm(_ _)m


ここからは私事になりますので、興味ないという方はお飛ばしください。

別作『Re:KobodSaga』を読んでくれている方々へ。

何故か割烹が投稿できないという事態に陥ったために、こちらで報告させていただきます。

今回の作品は件のものでは無いので、まだReの再更新はできません。また何ヶ月かして割烹ができない時はこのように短編を投稿しますので、そちらでおいおいの報告をします。

最後に、一週間に一度はアクセスが伸びることが私のガソリンになってます。ありがとうございますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 生まれてきて、他者と出会い、運の良いことがあったと思ったら、今度は坂道から転げ落ちてしまい。世界が自分のことを弱いと嗤っているような気がする。 という話でしたけど、なにかメッセージ性が隠れ…
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