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一足先に、猫の走馬灯(1)




どのくらい生きただろうか。




俺はねぐらにしているボロボロの建物の軒下で体を丸めながらひっそりと思った。


木枯らしの吹く、一際寒い冬の夜。


己の体が徐々に冷たくなっていくのを、俺は遠のく意識の中ひしひしと感じた。

胸のあたりのトクトクと言う音が頼りなく今にも消えてしまいそうだ。


俺はなんとなくわかっていた。

自分がもうすぐ死んでしまうであろう事を。


寿命。それ以外に考えられない程、俺は十分生きたと自覚していた。

目を閉じてつらつらと考える。


生まれてからこれまで色々あった。

母は優しかった。よく俺の体を舐めてくれた。

兄弟は俺の他に4匹おり、よく共にじゃれて遊んだ。


しかし、突然母が死んだ。


そのせいで、兄弟は皆バラバラになった。

まぁ、一人立ちの時期も近かった為、母の死が兄弟をバラバラにしたとは一概に言えないのだが。


母が何故死んだのか、俺は当時よくわかっていなかった。

しかし、母はよく言っていた。

人間のたくさんいる道へは飛び出してはいけない、と。


そのせいでたくさんの猫がこれまで死んだという。


ただ、俺が最後に母を見たのは、たくさんの大きな動くモノが通る真ん中に倒れている姿だった為、母は自分で「してはいけない」と言っていた事を自らが行ってしまって死んでしまったのだろう。


行きたい場所を見定めたらまっしぐらに走ってしまう、それは猫の性である。

そう考えると、母の死は仕方のない事だ。


ともかく、俺は兄弟とバラバラになってから自らの縄張りというヤツを作るために、今居るこの土地へと辿りついた。


たくさんの猫と闘った。

闘いはオス猫にとって縄張りを広げる為に、とても重要だ。

縄張りを確保すれば良い餌場も、メス猫も取り放題なのだ。


たび重なる闘いの結果。

俺はここら一帯を仕切る猫にのし上がった。

その頃からだろうか、俺がこのボロボロの建物の軒下に寝どこを構え始めたのは。


ここは俺のお気に入りの場所だった。


何故なら、この建物にはよく人間がやってくる。

何かを箱のようなものに投げ入れ、ヒモを揺らし、カランカランと音を鳴らす。

そして、手を合せて目を閉じてブツブツと何かを言うのだ。

その様子を見ているのが何とも面白い。


俺も真似をして、落ちている石を口に加えて箱に投げ入れた事があった。


だが、ヒモを揺らそうとヒモに向かって飛びかかった拍子に、地面に背中から落ちてしまうという猫らしからぬ失態をしてから、俺はヒモを揺らす事は諦めた。

しかし、定期的に箱に石を入れる事はたまにやった。目を瞑ってぶつぶつ言うのも忘れない。


それに、此処は近所の人間の子供らの遊び場でもあった。


故に、俺もよく子供と混じって遊んでいた。


子供らの遊びで俺が最も好きだったのが、隠れている者を探してまわる遊びだ。その遊びを知った時、本当に人間と言うものは面白い事を思いつくものだと俺は感心した。

それは、俺達猫の単純明快なじゃれ遊びとは違う、とても高度な遊びだ。


故に、俺もよく子供に交じり一緒に人間の子供を探すのだが、隠れる子供を見つけるのは造作もなかった。

そのため、探す子供に鳴き声で隠れる子供の場所を教えてやったりもした。


俺はなかなかに人間が好きだった。


母は人間のせいで死んだというが、それでも俺は人間が嫌いではない。

人間はよく俺達に食べ物をくれる。

昔は俺もネズミや鳥を取って食べたりもしていたが、やはり一番美味いのは人間の食べ物だ。


狩りをするよりゴミを漁った方が遥かに美味いものが食べられるし、ゴミを漁るより人間に近づいた方が遥かに美味しいものが貰える。


故に、俺の暮らす寝どこから餌場からは遠かったが、俺は他の猫達とは違うルートで人間から飯を拝借していた為、気にならなかった。



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