政宗と蒲生
実季達の日本の、とある大きな建物の、とある大きな会議室で。政宗と慶次は行方不明の人員が出たこと等について、査問にかけられていた。査問委員は厳しい目つきで彼らを見つめる。
「戦闘の様子を記録したビデオは?」
慶次は銀縁眼鏡をくいっと上げて答える。
「戦闘中に壊れました。」
「行方不明の人物は?」
今度は政宗が答える。
「岩に頭をぶつけて死んじまったので、置いて来ました。回収する余裕がなかったんで。九州チームはぬるい奴らだから、葬ってくれると思います。兜も眠りについちゃったんで悪用もないんじゃないですかね。」
「なぜ、そのような事態に……。」
政宗は同じ質問を繰り返されてため息を吐いた。
「あなた達は失敗しないんですか?」
委員達は少し間をあけて答える。
「最善を尽くしていますが、残念ながら……。」
「両目が見えてるあなた達でもそうなんだから、政…私のような片目のものは尚更、最善を尽くしても0にするのは難しいです。今後は気を付けますよ。」
「しかし……。」
慶次が口を開く。
「私達は心から反省しています。見て下さい。この地味なスーツを。」
二人はくるっとターンして、地味でシンプルなスーツを査問委員に見せつける。
委員達は唸った。少しして、もういいんじゃない? 見たいな空気が部屋に生まれた。普段、派手で自己主張の激しい二人が、毎日が歩くファッションショーの二人が、アルティメット地味な服装をしているのだ。おまけに、いつも傾いている慶次が、今日は真っ直ぐ立っている。
……しかし反省しているとしても、行方不明者が出ている以上、無罪放免とはいかない。委員達がどうしたものか……とひそひそ話を始めた時。誰かが部屋をノックした。
「失礼します。」
入ってきた男は、査問委員長に耳打ちする。それを聞いた委員長は処分を言い渡した。
「作戦の責任者の伊達大佐は一週間の謹慎、前田中佐は、謹慎三日間とします。また、これからの改善策他の書類を一週間以内にご提出下さい。……今回の処分が軽いのは、地味なスーツが云々ではなく、徳川少将のおはからいによるものです。お二方は充分に反省なさって下さい。」
政宗と慶次は神妙な顔を作って頭を下げると、部屋を出た。
「慶次さん、うちにこいよ。景勝のどこがいいんだ?」
慶次は無口な青年を頭に浮かべ、辛口の日本酒のように凛と微笑む。
「無口で威厳が有る所が素晴らしいと思うのだ。それに私は景勝様を笑わせる会の副会長でもある。お気持ちはありがたいが、辞退させていただく。」
「……そうか。今回はありがとうな。」
「こちらも体が鈍っていたから丁度良かった。楽しかったし、礼には及ばぬ。……政宗殿。」
寂しそうな背中を見せる政宗に、慶次は語りかけた。
「……そのうち、片倉殿達も帰ってくるだろう。元気を出してくれ。」
政宗は振り向いて軽く会釈すると、考え事をしながら歩き出した。
……その時、反対側から、これまた考え事をしている青年が近づいてくる。蒲生氏郷。こないだ春彦達と戦った男だ。
蒲生は眉間にシワを寄せて深いため息を吐いた。彼は行方不明の岡が心配なのだ。彼の脳裏には在りし日の岡が浮かぶ。常に戦闘の準備を怠らない武士の鑑の岡、お財布の中のお金を生き生きと数える岡、札を敷き詰めた部屋で、海パンのみを身に纏い、嬉しそうに寝転がる岡。そして、それほどお金好きなのにも関わらず、自分の遺産は蒲生家と国に寄付するという遺言書を残した岡。
蒲生は諜報部門の責任者、滝川に捜索を頼み込んでいたが、なかなか見つからないという。
「はぁ…。」
前方不注意の二人は当然ぶつかった。
「おっとすまねぇ!」
「失礼しまし…伊達!」
二人は睨みあうと、お互いに俳句で罵りあった。それを遠くで温かく見守る慶次。
「夏は若者の心まで熱くするのだな。ふむ。」
彼はまた、傾きながら歩き始めた。