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暁闇の月  作者: 平 和泉
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第47話「混ざりものの死」

「……………完全に力に飲まれたか」


現れた維将の姿を見、篁は眉根を寄せる。


「このままではあれとの約束を果たせなくなりそうだ」


ポツリと呟き、小野邸の方角の空をちらりと見上げた。

その背後で強大な力と力がぶつかり合う衝撃がした。

振り返ると、既にそこでは興陵王と維将が刀を交えていた。

いや、刀ではない。

己の爪を長く鋭く伸ばし、それを振るっているのだ。

維将も難なく使いこなしているのは、彼が力に飲まれたからだろう。


「……う……っ」


博雅の口から呻き声が漏れた。

ついで瞼がゆっくりと持ち上がる。


「ようやく目が覚めたか」

「…………冥府の…。晴明は……っ?!」


がばりと起き上がり、背中の痛みに顔を顰める。


「無事だ」


言って顎をしゃくってみせた。


「それよりもここから脱する隙を見つけるのが先だ」

「………脱する…?」


そういえばさっきから…と視線を巡らせると、興陵王と見覚えのある誰かに似た者が戦っているのが見えた。


「…………維将……?」


だが、彼にしては少しだけ違和感がある。


「あれは今、力に飲まれた状態だ。恐らくは目の前全ての者が敵に見えているのだろう。この結界にいる限り攻撃されることはないだろうが……」


篁が告げる。


「戦いが大きくなれば今張られているこの結界すらも破壊されるだろう」

「…………その前に逃げないと俺たちの命はない、てことか」

「その通りだ」


既に死んでいる篁以外は、という限定的なものだが。


「晴明は大丈夫か?」


未だに目を覚まさない晴明を気遣い、その近くへ寄る。


「妖との力の差で押し負けただけだ。放っておけばそのうち目を覚ます」

「放っておけば……て、おいおい」


何て言い草だ…とぼやきながら晴明の傍らで結界の外にいる二人の戦いを見つめた。

維将は晴明と同じ半妖だが、生粋の妖である興陵王との力の差などないように思えた。

それよりも、興陵王の方が力負けしているようにも見える。


「なあ、このままいけば維将が勝つんじゃ―――」

「それはないな」


篁はきっぱりと博雅の言葉を斬って捨てる。


「先ほども言っただろう。あれは今、力に飲まれた状態だと。妖だといってもあれは半妖だ。生粋の妖と比べて力に限りがある。力に飲まれていればなおそれが著明に表れる。お前も経験があるはずだ」

「…………ええと……酒に飲まれて暴れていた奴が酔いがさめれば青くなるってやつか??」

「…………お前に理解しろと言った私が馬鹿だった」


忘れろ。


「はあ??」

「お前は晴明が目を覚ますまでここにいろ」


篁はそう言い置き、太刀を抜き構えた。

そして結界を切り裂く。

結界はその衝撃で弾け飛んだように見えたが、一瞬ののちに修復される。

と、維将がそれに気付いたようだった。

興陵王の攻撃をかわし間合いの外に離れると、こちらの方へと視線を向けた。

その瞳が月明かりを受けて金色に輝くのを、博雅は見た。

遠目でもよくわかる獣の瞳だった。

結界の外に出た篁は維将と興陵王の注意をひきつけるように結界から離れる。

ちらりと空を見上げると、満月がようやく昇ってきたのが見えた。


「…………っっ」


その一瞬の隙を突いて維将が攻撃を仕掛けてきた。

咄嗟に太刀でそれを横に受け流す。


「オ前ハ……敵、カ……?」


維将が問う。

その問いかけに、眉根を寄せる。

と、維将の背後から興陵王が攻撃を仕掛けてきた。

それをまさに獣の本能としか思えない身のこなしで維将はよけ、すぐさま興陵王へと攻撃をし返す。


「維将!」


篁ではない、別の誰かの声が響く。

その声に維将の手が止まった。


「もらった!!!」


興陵王の右手が維将の胸元へと伸びる――――――






最初に感じたのは貫かれる痛みだった。

そのあとすぐに血の気が引くような寒さを覚え……。

維将はその時、ようやく力から解放されたことを知った。






どさりと地面に崩れ落ちる維将。

ぴくりとも動かぬその体を、興陵王は肩で呼吸を繰り返しながら見下ろした。


「姉上の子とはいえ半妖風情が、生粋の妖である私に刃向うなどするからこうなるのだ」


そうしてこちらを見据える篁、結界の中でこちらを見つめる博雅へと視線を向ける。


「我らに刃向えばこのようになることを覚えておくといい」


言い放ち、身を翻すと姿を消した。

気配が完全に消えるのを確認した篁はゆっくりと維将へと近づく。


「維将っ」


さきほど維将を呼んだ声の主が名を呼びながら駆け寄ってくるのが篁の視界に入った。

その声の主は良源だった。

良源は維将の傍らに膝をつくと、ゆっくりと抱き起こす。

だが、いくら声をかけても揺さぶっても維将は反応を示すことはなかった。


「維将!!!」

「無駄だ」


肩に手を置いて制す篁。

その言葉の意味はただひとつだけだった。


「…………認めん…」


維将の胸元には細い錐のようなもので穿った痕があった。

鋭い得物が胸を貫いたのだろう。

痛みは一瞬だったに違いない。


「私は認めん」

「お前が認めなくとも既にそれは人としての死を迎えている」


離してやれ。


「…………」

「お前は僧侶だろう。人の死は幾度も見てきているはずだが?」

「…………見てきたさ」


維将を離すまいと抱きしめたまま良源が答えた。


「見てきたが……」

「仕方ないな」


このままでは埒が明かん、と溜息をついた篁が言う。

「力を持つ者の抜け殻はそのまま置いておくと妖の恰好の餌食になる。賀茂の邸へ一旦引き揚げるぞ」


その時、背後の結界が音を立てて霧散した。

どうやら晴明が目を覚ましたようだ。

篁がちらりと視線をやると、やるせない表情の晴明が同じような表情の博雅と共に佇んでいるのが見えた。


「お前たちも来い」


言って身を翻す。

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