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暁闇の月  作者: 平 和泉
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第37話「闇」

都を見下ろす高台に生える一本杉の枝に一羽の烏が舞い降りた。

じっと都を見つめるその瞳は漆黒。

ばさりと翼を広げ、何かを告げるようにひと鳴きし…再び空へと飛び立った――――。






「どうしたんだ?」


維将が空を見上げたのに気づいた博雅が問いかけ、同じように空を見上げた。

空には烏が一羽、西の方角へ飛んでゆくのが見えただけだ。

他にはなにもない。


「いえ……誰かに見られていたような気がして……でも空から何てありませんよね」

「だよな」


二人は顔を合わせて笑う。

そうして再び歩き出した。


「お師様、忠行様の邸に戻っていらっしゃるでしょうか?」

「とっくの昔に戻ってて、もしかすると遅いからって…………」


と前方に視線をやれば、噂の本人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「やっぱりな」

「え?」


維将はその言葉に前方を見、すぐに駆け出した。


「お師様!」


そのまま良源の腕の中に飛び込んだ。


「お~お~……」


伊吹は生ぬるい笑みを浮かべる。

彼は今まで二人とは少し離れて歩いていたが、博雅の隣に並んで立つ。


「やはりまだ甘えたがりな小童だのう」

「でも…まあ、良源殿もまんざらじゃなさそうだからいいんじゃないか?」


良源といえば、腕の中に飛び込んできた維将の頭を撫でている。

その顔には安堵の笑みがこぼれているのが見て取れた。

維将を追って二人も良源の元へとゆく。


「おお、二人とも」

「良源殿のことだから、維将が心配で出てくるだろうって言ってたとこだったが、本当に出てくるとは驚いた」


ははは、と笑いながら博雅が言う。


「これは私の愛弟子だからな。心配はするだろう」

「だが、その心配性も相当なものだのう」


こちらは伊吹。


「それよりもお師様」


これ以上放っておくと二人が何を言い出すかわからないと思ったのか、維将が話を変えようと口を開いた。


「今回の顛末、邸に戻ってからお話ししますので……」

「ああ、そうだな」


良源もそれに気付いた。

維将に促され、三人は歩き出した―――――




が。




その周囲の景色が突然、歪み始めた。

景色の歪みとともに襲ってきたのは体を押しつぶされるような圧迫感。


「しまった」


いち早くその異変に気付いた伊吹が呟きを漏らすのが聞こえた。


「結界を張られたか」


その言葉を最後に維将の意識は闇に塗りつぶされた………。






ゆさゆさと体を揺さぶられているのに気づき、重い瞼をゆっくりとこじ開ける。

一番最初に目に飛び込んできたのは良源の顔だった。

周囲は闇が覆っていて、良源の肩越しに小さく月が浮かんでいるのが見えた。


「………お師…様……?」

「体はどこもおかしいところはないな?」


維将をゆっくりと起こし、問う。


「はい……なんとか」

「そうか」


良源は辺りを見回した。


「どうやらあの二人とは引き離されたようだ」

「え……?」


そこでようやく傍らにいた博雅と伊吹の姿がないことに気付いた。


「恐らくは結界が張られた直後に空間ごと切り分けられたようだな」

「………空間ごと……」


今までに相手をしてきた妖たちはこのような結界を張る能力を有していなかった。

ということは……。


「……今までとは格が違う妖ですね」

「そのようだ」


傍らに置いていた錫杖を手に、良源は立ち上がる。


「立てそうか?」

「大丈夫です」


そう答え、ゆっくりと立ち上がった。

先ほどまでの体の重さはなくなっていたが、代わりに妙な妖気が体にまとわりついていた。

それを気にしながらも、懐に忍ばせていた符を一枚抜き払った。


「とりあえずあの二人を捜しに行くか?」


真の闇ではなく、月明かりがある薄暗い闇の中。

それに歩いていればあの二人のことだ。

勝手に向こうからやってくるに違いないだろう、と良源は言った。


「行くぞ」


そう言って維将の前を歩きだした。

それにしたがって維将も歩き出す。


「それにしてもお師様」


辺りを警戒しながら、問う。


「どうして相手は俺たちを結界に閉じ込めたり、離したりするんでしょうか?」

「そうだな……。結界を張るのは、都への被害を出さないためか…? いや、妖にそのような感情など持ち合わせてはいないだろうが」


ふむ、と歩きながら考え込む。


「結界は己の能力を最大限に発揮できる領域だ、ということは教えたな。それに能力によっては結界を張ることによって相手の能力を封じることもできることも」

「はい。………あ、もしかして俺たちを離したのも……」

「恐らくはそうだろう」


維将の言葉に頷く。


「相手は私たちを離したのも、個々の能力が高すぎるからだろう」

「……頭がいい妖ですね」

「感心している場合ではないぞ」


良源はそのまま錫杖を振るう。

すると維将の傍らで何かが崩れ落ちたような音がした。


「気をつけろ。既に周りを取り囲まれている」


なぜ今まで気付かなかったのだろうか。

自分たちの周囲にはいくつもの気配があった。

その気配を探った維将は流れ出た汗を袖で拭いながら呟きを漏らした。


「狼……? いや…………これは……」


闇と同化しているが、これは。






狐だと瞬時に悟った。

直後、闇と同化した狐の大群が一斉に二人へと襲い掛かった―――――

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