序
霞んだ視界に映るのは中空にかかる真円の月。
月はその表情を変えず、地上の凄惨たる光景を照らし出す。
一族の長たる女はこの日が来ることを少なからず予感していた。
そのため数日前に産まれた子を侍女に預け、ひそかに里を離れさせていたのだ。
襲撃はそれからちょうど五日後のことだった。
女は一族の者たちとともに手に得物を持ち、襲撃者たちを迎え撃ったが、数に勝る襲撃者たちの前に、一族の者たちはなすすべなく散っていった。
最後に残った女は邸の庭に引きずり出され、尋問を受けた。
子をどこに隠した、と。
やはり子が目的だったようだと悟り、女は笑んだ。
吾子は我が宝。他の一族を虫けら同然に扱う貴様(うぬ)らに渡すいわれはない。
どうしても口を割らぬ女を襲撃者たちは文字通り血祭りに上げた。
手足をもぎ、その場に打ち捨てたのだった。
襲撃者たちが立ち去ったあと、女はかすかに瞼を上げる。
霞んだ視界には真円の月が映っていた。
手足をもがれたというのに、まだ自分は生きている。
だが命が尽きるのも時間の問題だろう。
女は息も絶え絶えに言葉を紡ぎだした。
それは子を預けた侍女への言葉だった。
「……伊吹…、………吾子を…頼むぞ」
咳き込むたびに零れるのは朱の霧。
「…………生きろ……吾子…」
そう呟くと静かに息を引き取った。
そうしてその夜、ひとつの一族が滅んだ。
リハビリ中の身なので文章が拙いです。