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〜熱いコーヒーと冷めた目〜

○とある静かな交差点


  交差点付近で椅子に座っている志賀ケンジ(25)とレン(22)。

  人通りも、車両も少ない交差点でたまに通る車を〝カチ、カチ〟と数取り器を押すケンジ。


レン「……」

ケンジ「……」

レン「今日ヤバいっすね。寝ちゃうかもしれません」

ケンジ「……」

レン「はぁー。あとー、6時間かぁー」

  〝カチ〟

レン「こんな所、交通調査して意味あるんで

 すかねー?」

ケンジ「あるんじゃない?」

レン「そうですかー?」

ケンジ「……」


  前方から携帯を見ながら自転車を漕いでいる人が居る。


レン「あの人―、危ないっすね」

ケンジ「あ」


  道路に出ると〝キ―ッ〟と車が急ブレーキする。


運転手「馬鹿野郎!死ぬ気か!」


  謝りながら去って行く自転車。


レン「……」

ケンジ「……」


  〝カチ〟


レン「こんなに交通量が少いのに死にかけるんですね」

ケンジ「どこでも人は死ぬよ」


数取り器のカチカチという音だけが響く。ほとんど車が通らない。


レン「ケンジさんって、生きてて楽しいことあります?」

ケンジ「……(少し間)……今この瞬間は、別に嫌いじゃない」

レン「え、それって結構すごいことじゃないですか?」

ケンジ「そうかな。俺はずっと、嫌いじゃなかった瞬間が思い出せないだけなんだけど」


(長い沈黙)


レン「……あの話、もっと詳しく聞かせてもらっていいですか? あの……出会った日のこと」

ケンジ「え?あー。どこから話そうか」



○ ファミリーレストラン


席で喋っている男・駄々(40)。

駄々「でさ、そこで俺言ったのよ、おい!テンプゥーラーじゃねぇよ、て・ん・ぷ・らだよ!ってな」


  駄々の前で無気力に座っているケンジ。


駄々「コーニーチーワーじゃねぇんだよ?こ・ん・に・ち・はだよ!相手も相手だよ、なんでそいつらに合わせてコーニーチーワーって言うんだよ。それじゃあ永遠にスシーーのまんまだぞ?なぁお前もそう思うだろ?」


店員「お待たせ致しました、プレミアムブレンドコーヒーです」

駄々「あ、オレオレ、ありがとー。あっ、アリガトゴザマースッイタダキマァース」

店員「……、こちら普通のコーヒーになります」


  二つ目のコーヒーをケンジの前に置く若い女性店員。

ケンジ「……」

駄々「熱っ、なぁ、今の子の顔見たか?めっっっちゃ引いてたな?熱っ!おいむちゃくちゃ熱いなコレ」


  黙ってコーヒーを見ているケンジ。


店員「お待たせ致しました、デラックスプレミアムパフェで御座います」

駄々「あ、こっちこっち、アリガトゴザマース!」

店員「こちらバナナパフェで御座います」


  ケンジの前にバナナパフェを置く〝中年女性店員〟。


駄々「……流石にあのくらいだと免疫付いてんだな、なんも反応しなかった。てか絶対ポジション変えただろ、どこ行ったんだよさっきの子」


  駄々のパフェに刺さっている花火を見つめているケンジ。

駄々「……あーこういうの、子供の頃見たことあったっけな。……あー、思い出した。親父が買ってくれた花火。最後まで見れなかったけど、親父が途中で俺を殴り始めて」


ケンジ、初めて少し目を見開く。


駄々「どんな顔をして待つのが正解なんだうなこれ」


  ぼーっと火花を見ている駄々。

  火が消えたりついたりがあった後やっと 完全に花火が消える。


駄々「長いわっ!よし」


  スプーンを持ち、上に乗っているアイスを食べようとする駄々。


ケンジ「ねぇ」

駄々「なんだよ~!お前やっと喋ったなぁ~ってどんなタイミングで話しかけんだよ!」


ケンジ「……あんた、何者なの?」



○ 24時間健康ランド・外観(その2時間前)


○ 作業室

  館内着が入った大きな袋を台車に乗せているケンジ。台車を押すと斜めに進み壁にぶつかり袋が崩れる。

  車輪を見ると片方壊れている。


ケンジ「……」


  そのまま歩き出し休憩室に入っていき、置かれている椅子に座る。目は虚ろ。


女性従業員「お疲れ様でーす」


  隣の席へ座る若い女性従業員。

  静かな空間の中、店長が入ってくる。


店長「居た、志賀君!何してんの!」

ケンジ「え?」

店長「えじゃないよ!通路に館内着置きっぱなしだよ!置きっぱなしっていうかあれ途中でしょ?途中って言うかまだ休憩入る時間じゃなくない!?何してんの?」

ケンジ「……疲れちゃって」

店長「ずーーっと休んでて久々に出勤したと思ったらこれ?ダメだよーそれじゃあー」


 また違う従業員がやってくる。


従業員「店長~、フロント来てください、やっぱりですー」

店長「ええ?はぁー。まったくあの野郎。ちょっと志賀君、後で話があるから帰らないように」


  去っていく店長とその従業員。


女性従業員「(スマホを見ながら)例の変な人、またフロントで揉めてるみたいですよ」

ケンジ「……変な人?」

女性作業員「三日間くらいずっと居座ってるおっさん。金ないっぽいけど、妙に図太くて」

ケンジ「……」


ケンジ、ゆっくり立ち上がる。興味があるわけではない。ただ、何か動きたくなったように。



〇 フロント前

店長「あなた最初からそのつもりでしたよね?」


  もめているのは駄々。


駄々「違うってだからー、家に財布忘れたって言ってるでしょ! 今から取ってくる!」

店長「何回同じこと言わせるんですか! もう警察呼びます!」

駄々「じゃあ分かりました!今からお金借りますわ。誰かー!僕にお金を貸して下さいませ!それで問題が解決しますんで!」

店長「ちょっ、やめて下さい!」

駄々「どうか他人様!どうか!この通り!」


  その場で土下座する駄々。


店長「ちょっと警察呼んで!ダメだもう!」

ケンジ「あげますよ、お金」

店長「え?」


  ゆっくり顔を上げる駄々、目の前にはケンジの姿。

  シーンとなっているフロント。


駄々「……え?いいの?」

店長「志賀君、何言ってんの?」

ケンジ「この人にあげます」

店長「ダメに決まってるでしょそんなの。従業員がそんな事する必要はありません」

ケンジ「なら辞めます」

店長「は?」

ケンジ「今からこの仕事辞めるんで、というか今もう辞めたんで。で、お金あげます」

店長「……」


  目が点になっているフロント作業員達。


駄々「……なんで?」

ケンジ「……なんとなく」



〇 道端

  歩いているケンジ。

駄々「ちょっと~!ちょっと君~待って待って」

ケンジ「……」


  ケンジの前まで走ってくる駄々。


駄々「はぁ、はぁ、はぁ、ねぇ、あの、はぁ、はぁ、お茶しない?」

ケンジ「……」



〇 ファミリーレストラン


  パフェを美味そうに食べている駄々。


駄々「んっ、んんっ、あったま痛っ!」


  アイスを口に運びながら話す駄々。


駄々「それを言ったらお主も何者だろうって話よ?こんなクソみたいな人間に仕事辞めてまでお金あげて、しかもファミレスまで奢ってくれるなんてさ」

ケンジ「はい?ファミレスは言ってませんよ俺」

駄々「え?またまた~だってこの流れは絶対そうじゃん~無一文の私をここに連れてくるってことはそうじゃん~」

ケンジ「さっき全部置いてきました、財布」

駄々「は?なんで」

ケンジ「別にもういらないかなって」

駄々「いらない?何言ってるの?……カードは?」

ケンジ「無いですよそんなの」

駄々「……。じゃあ誰か居ないの?友達とかにー」

ケンジ「居ないですそんなの。家族も。家も何ヶ月も滞納してるんで金なんてないです。というかー」

駄々「ちょちょちょ」

ケンジ「……」

駄々「君―、もしかしてー、ヤバい人……?」


  店員がやってくる。


店員「お待たせ致しました~スペシャルハンバーグ&チキンセットで御座います~」


  黙って手を上げる駄々。


店員「こちらハンバーグです~」

ケンジ「……」

駄々「……おいおいおい~マジかよ~、とんでもねぇ奴に当たっちまったよ」

ケンジ「……」

駄々「てか待って、なんで今言うの?メニュー見てる時になんで言わないの?」

ケンジ「俺見てないですよ、あなたが勝手に見て全部頼んだんじゃないですか」

駄々「俺金無いって知ってるじゃん~~」

ケンジ「知らないですよそんなの。そもそもあなたの事知らないですし、知ってても関係ないんで」

駄々「やっべ、こいつやっべぇーぞーー」

ケンジ「……」

駄々「まいっか、とりあえず食べようぜ」


  フォークとナイフを準備して食べ始める駄々。


ケンジ「……」


  少してケンジもフォークとナイフを持ち、ゆっくり食べ始める。

  店内は日常と変わらない風景。


駄々「はぁー、夢だったんだよな~こうやってパフェとハンバーグを同時に食べるの。コーヒーもあって最高だな」

ケンジ「チキンもありましたよ」

駄々「あーごめんごめん、チキンも。夢だったんだ~」

ケンジ「……良かったですね」

駄々「何?怒ってる?だってどれにするって言っても何も答えなかったじゃん。気を遣ったんだぞ?二人高いのじゃ流石にマズイかなぁ〜って」

ケンジ「……」

駄々「そういえばー、君名前なんだっけ?」

ケンジ「ケンジ、」

駄々「(食べながら)駄々、駄々拓郎です」


握手しようと手を出すがケンジは手を出さない。駄々は慣れたように手を引っ込み食べ続ける。


  -20分後-


  爪楊枝をくわえている駄々。


駄々「ふーー、食ったー」

  おかわりしたコーヒーを飲んでいる駄々。

駄々「あ、そういえばさっき途中まで言ってたけどー」

ケンジ「……?」

駄々「金なんてないです、というかー、まで言ってたじゃん」

ケンジ「あぁ…」

駄々「お前、死ぬ気だろ」

ケンジ「……死んでもいい、くらいかな」

駄々「どっちでもいいってのが一番タチ悪いよな。俺はさ、死にたくても死ねなかったクチだから」

ケンジ「はい?」

駄々「もう結構前にさ、首吊ったことあるんだよ。縄が切れて落ちた。……笑えるだろ? 運が良すぎて死ねないっていうのも、結構苦しいんだぜ〜」


ケンジ、初めて駄々をまっすぐ見る。


駄々「あー!わかった!お前幸せだったんだろ?はぁーそうかそうか。俺なんてもうベースがこれだからさ、辛さや悲しみなんて感じなくなったぞ。ゲェ(ゲップ)」

ケンジ「……」

駄々「あ、でも夢はあるぞ。スポンサーをつける事かな?んーパトロンって言った方

がいいのかな。こうやって腹減ったらたりやりたい事にお金出してくれる人が居たら幸せだな俺は。ん?てことは俺の夢は幸せってこと?」

ケンジ「だからあの時あんな土下座したんですね」

駄々「ん?」

ケンジ「こんな人間にお金出すのは金持ちか俺みたいな人間ですよ」

駄々「こんな人間って、これでも一生懸命生きてるんですけどぉ!?」

ケンジ「どうしようもない奴じゃないですか。パトロン?なんすかそれ、才能ある奴にしか現れないですよ。こんな奴にパトロンー」

駄々「ちょ、急にどうした、怖いぞお前」

ケンジ「なんかわかんないけど腹立ってきた」

駄々「おぉ?いいじゃんいいじゃん。これから死ぬって奴が感情をだしてきたな。ハハ」

ケンジ「……」

駄々「兎に角だ、今考えるべき事はここをどうやって出るかって事だな」

ケンジ「……」

駄々「ケンジ君さ、見方いないの?」

ケンジ「……ミカタ?」

駄々「うん見方というかー、仲間?」

ケンジ「何もないって言ったじゃないですか」

駄々「俺はいるぞ、唯一の味方が」

ケンジ「?」

駄々「……運だ」

ケンジ「ウン?」

駄々「そう、運。運だけはあると思うんだよ

 なー俺」

ケンジ「運があったらそんな生活してないと

 思うけど」

駄々「チッチッチ。運があるからこんなんでも生きてるんだよ。おかわりしてくる」


  鼻歌を歌いながらグラスを持ってドリンクバーでジュースを入れていれる駄々。

  席を立ち駄々の後ろを通っていくケンジ。


駄々「あれ?おかわり?あ、トイレ?え?」


  出口へ向かって歩いて行くケンジ。


駄々「ちょいちょいちょいちょい!!」


  扉を開け普通に出て行こうとするケンジ。


駄々「待て待て待て、え?何してんの?どこ行くの!?」


  ケンジにしがみつく駄々。


ケンジ「何?」

駄々「何じゃないよっ、逃げる気?無銭飲食?だめだよぉ~」

ケンジ「よく言うよ。また土下座してパトロン見つければいいでしょう」

駄々「ちょちょちょっと待ってよ~それは最終の最終手段。てか何処行くんだよ、行く場所ないでしょ?」

ケンジ「……」


  一点を見つめるケンジ。


駄々「……おい。お前、ちょっと来いっ」


  ケンジを無理矢理席へ戻す駄々。


ケンジ「痛い痛い痛い」

駄々「まったく。死ぬ前に捕まってみろ、面倒くさいぞ~事情聴取とか。家は何処だやら家族はどうだやら」

ケンジ「……」

駄々「大体どうやって死ぬ気だよ?」

ケンジ「……どこか、誰も居ない所へ」

駄々「なんだそれ?誰にも迷惑かけずに死のうとしてんのか?海か?山か?かぁー甘いな。何処で死のうがな、誰かに迷惑かけんだよ。死ぬなら直ぐそこで車に轢かれちまえよ、直ぐ死ねるぞ。運転手の人生がメチャクチャになるの気にしてんのか?死ぬ奴がそんなの気にしてどうすんだ、あ?自殺する奴が生意気に死に方選んでんじゃねぇぞ!!」


  ヒートアップした駄々の声でレストラン内が静まりかえる。


駄々「あ、す、すいませぇーん。ははは……お、お芝居の練習ですー」


  ゆっくりと元の賑やかさに戻る店内。


駄々「ごめんな急に、へへ。あーどうしよ、目立っちまったな……」

ケンジ「さっきの銭湯でもし誰も助けなかったら、どうしてました?」

駄々「え?……どうしてたってー、んーー」

ケンジ「最初から誰かが代わりに払うなんて思ってやってました?最初から捕まる覚悟だったんじゃないんですか?」

駄々「……まぁ、それでも良いとは思ってたかな?わかんねぇよ~そんなこと~。逃げてたかもしれないし」

ケンジ「一秒先の事さえも考えてなかったんですか?」

駄々「まぁ、んー、うん」

ケンジ「今はなんでそう思わないんですか?」

駄々「……。お前とー、ケンジと一緒に居るからだよ。そうだよ、ほっとけないだろー」

ケンジ「……」

駄々「そりゃ最初は違うよ?最初はー、まぁ正直に言うとここでたらふく腹ごしらえして、……ご馳走様っつって、んじゃサヨナラーって感じだったよ?でもさぁ、そんな人だとは思わないじゃんかー」


  駄々をじっと見つめるケンジ。


ケンジ「……変な人っすね」

駄々「……は?なんだよそれ」

ケンジ「迷惑ですよ」

駄々「は?おま、あったまきた!すいませーん!ビール2つぅ!」

ケンジ「はい?」

駄々「うるせっ、いいからお前も飲め。飲めなくても飲め!いいな?ジョッキで2つお願いしまーす!」

ケンジ「はぁ」

駄々「アルコール注入して頭冷やせ」

ケンジ「ただ飲みたいだけでしょ?」

駄々「あーーそうだよ!どうせ無銭飲食する

 ならな、死ぬほど豪遊して捕まった方がい

 いだろ!」


  再び静まりかえる店内。


駄々「……す、すいませぇーん、僕達役者を志してまして!ははははは」


  怪しみながらビールを持ってくる店員。


店員「……お待たせ致しました」

駄々「あ、ありがとー。あのね、明日舞台の本番があって、すいませんね、静かにしますんで。こいつが全然出来ないもんでね~」

店員「は、はいー。お静かにお願い致します」


  去って行く店員。


駄々「……ふー。はいお疲れ~」


  駄々がジョッキを口に当てた瞬間〝すいません〟と声をかけられる。


駄々「プッ、ちょ、もうちょっと居させてくださいよ、もう静かにしますんでーー」

佳苗「あ、いや、店員じゃないです」


駄々「……ん?」


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