表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられた日が、私の人生の始まりでした  作者: 小林翼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/20

20

それから五年の月日が流れた。


アレクは七歳になり、村の学校で学んでいた。聡明で優しい少年に育ち、いつか父のような騎士になりたいと言っている。


ソフィアは五歳。好奇心旺盛で、いつも母の後をついて回り、商売のことを学びたがっていた。


「ママ、これはいくらで売れるの?」


ソフィアが市場の織物を指差して尋ねる。


「そうね。この質なら、金貨二枚は取れるわ」


エリアナが答えると、ソフィアは真剣な顔で頷いた。


「私も、ママみたいになりたい」


その言葉に、エリアナは微笑んだ。


アッシュヴィルは、王国有数の商業都市に成長していた。人口は一万人を超え、毎日のように新しい人々が移住してきた。


市場は拡張され、三つの大きな建物が立ち並んでいる。宿場も増築され、常に満室状態だ。学校は二つになり、病院も拡大された。


「信じられないわ」


ある日、エリアナは丘の上から村を見下ろしながら呟いた。


「六年前、ここは何もない荒れ地だったのに」


隣にいたカイルが微笑んだ。


「あなたが作り上げたのです」

「いいえ、みんなで作ったのよ」


エリアナは夫を見た。


「あなたも、村人たちも、みんなの力があったから」


二人の後ろで、アレクとソフィアが遊んでいる。平和な光景だった。


その日の午後、王都から使者が来た。だが、今回は緊急ではなく、祝賀の知らせだった。


「国王陛下より、エリアナ様に勲章を授けるとのことです」


使者は嬉しそうに言った。


「王国発展功労賞。これは、最高位の勲章です」


エリアナは驚いた。


「そんな……私は特別なことは何も……」

「いいえ」


使者は首を横に振った。


「あなたの功績は、王国全体に影響を与えました。多くの領主が、あなたの方法を学び、真似をしています」


使者は続けた。


「辺境開拓のモデルケースとして、アッシュヴィルは教科書にも載るでしょう」


一ヶ月後、エリアナは家族と共に王都に赴いた。授賞式には、多くの貴族や役人が参列していた。


「エリアナ・アッシュフォード、開拓伯爵」


国王の声が広間に響いた。


「王国発展への多大な貢献に対し、この勲章を授ける」


国王は自ら、エリアナの胸に勲章をつけた。


「お前の功績は、永遠に語り継がれるだろう」


広間中が拍手に包まれた。エリアナは深々と礼をした。


式典の後、社交の場で多くの人々がエリアナに話しかけてきた。


「素晴らしいご活躍ですね」

「ぜひ、お話を聞かせてください」


皆が尊敬の眼差しを向けてくる。かつて自分を蔑んでいた人々も、今では頭を下げていた。


その中に、見覚えのある顔があった。リオネルだった。


彼は質素な服を着て、広間の隅に立っていた。平民となった彼は、もう貴族の一員ではない。だが、式典を見たくて、こっそり来ていたのだろう。


エリアナはリオネルに近づいた。彼は驚いて顔を上げた。


「エリアナ……」

「お久しぶりですね」


エリアナは穏やかに微笑んだ。


「お元気でしたか?」

「俺は……」


リオネルは言葉に詰まった。


「今は、小さな商店で働いている。貴族の時とは、全く違う生活だ」


彼の顔には、後悔と諦めが滲んでいた。


「でも、それでいいんだ」


リオネルは小さく笑った。


「働くことの尊さを、ようやく理解できた」


彼はエリアナを見つめた。


「君は、正しかった。本当の価値は、身分や財産じゃない」


エリアナは頷いた。


「あなたがそれに気づけたなら、まだ遅くありません」

「ありがとう」


リオネルは深く頭を下げた。


「君の幸せを、心から願っている」


それが、二人の最後の会話だった。エリアナはリオネルに背を向け、家族のもとへ戻った。


もう、過去を振り返る必要はない。全ては終わったのだ。


王都での滞在を終え、エリアナたちは領地に戻った。村人たちが盛大に出迎えてくれた。


「おかえりなさい!」

「おめでとうございます、エリアナ様!」


子供たちが花を投げ、大人たちが拍手した。


「ただいま」


エリアナは笑顔で答えた。


「やっぱり、ここが一番落ち着くわ」


その夜、エリアナは家族と共に食卓を囲んだ。アレクとソフィアが、王都で見たことを興奮して話している。


「お城、すごく大きかった!」

「お姫様みたいな人がいっぱいいたよ!」


子供たちの無邪気な話を聞きながら、エリアナは幸せを噛みしめた。


食事の後、エリアナとカイルは二人で庭に出た。星空が美しい夜だった。


「六年前、この庭はなかったわね」


エリアナが呟いた。


「全てが荒れ果てていた」

「今では、花が咲き誇っています」


カイルが答えた。


「あなたが植えた花です」


エリアナはカイルの手を握った。


「私たちが、一緒に植えた花よ」


二人は星空を見上げた。


「カイル、後悔はない?」


エリアナが尋ねた。


「私と結婚したこと。この領地で生きること」

「後悔?」


カイルは驚いたように妻を見た。


「まさか。これ以上の人生は考えられません」


カイルはエリアナを抱きしめた。


「あなたと出会い、家族を持ち、この領地を共に発展させる。それが、私の夢でした」

「私もよ」


エリアナは夫の胸に顔を埋めた。


「あの婚約破棄の日、私は全てを失ったと思った」


エリアナは顔を上げた。


「でも、実際には何も失っていなかった。むしろ、偽りの幸せから解放されたの」

「そして、本当の幸せを見つけた」


カイルが続けた。


「ええ」


エリアナは微笑んだ。


「本当の愛、本当の家族、本当の生きがい。全てを、ここで見つけたわ」


二人は長い間、抱き合っていた。


遠くから、村の鐘の音が聞こえてくる。夜九時を告げる鐘だ。村人たちは、それぞれの家で温かい時間を過ごしているだろう。


「行きましょう」


エリアナがカイルの手を取った。


「子供たちが待っているわ」


二人は家に戻った。アレクとソフィアが、眠たそうな目で待っていた。


「おやすみ、ママ、パパ」


子供たちが抱きついてくる。エリアナとカイルは、二人を優しく抱きしめた。


「おやすみ、愛しい子供たち」


子供たちが寝室に向かった後、エリアナは窓から村を見渡した。


静かな夜。平和な村。愛する家族。守るべき人々。


全てが、そこにあった。


「幸せね」


エリアナは呟いた。


「ええ。これ以上の幸せはありません」


カイルが答えた。


二人は手を取り合い、寝室へと向かった。


明日もまた、新しい一日が始まる。課題も、挑戦も、きっとあるだろう。


だが、それも全て含めて、エリアナは自分の人生を愛していた。


婚約破棄から始まった物語は、最高の形で続いている。


そしてこれからも、ずっと続いていく。


愛する人々と共に。


希望と共に。


幸せと共に。


星空の下、アッシュヴィルは静かに眠っていた。


明日への夢を抱きながら。


(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ