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十二月二十五日の放課後。薄暗くなって来た空の下、私は一人で校庭に佇んでいた。
お気に入りの場所で、好きな本を読む。それが私にとっては至福の時間でいつもなら何時間でも読書に集中できるのだが、ここ最近は本を読んでいてもふとした瞬間に彼のことを思い出してしまう。
(この校庭は、ジャックくんが私に告白してくれた場所でもあるんだよね)
彼、ハロウィン寮のジャックに突然告白されたのは二ヶ月ほど前のこと。男の子に告白されたのが初めてだった私は赤面しながら友達から始めようと提案したのだが、彼は嫌がる素振りも見せずに快諾してくれた。それからは彼と色んな話をしたり一緒にご飯やお菓子を食べたりして楽しい時を共有していたのだが、つい昨日クリスマス寮の友人であるリリーに渋い顔でこう言われてしまった。
「ねえ、イヴ。アンタ最近クリスマス寮のジャックと仲がいいんだって?」
「うん、そうだよ。ジャックくんって明るくて話が面白くて、一緒にいて楽しいんだ」
「もう、本当にイヴはお気楽なんだから」
何やらリリーは溜息混じりに頭を抱えていたが、鈍感な私もその数秒後にその訳を知ることになる。
「私たちのいるクリスマス寮の学長とハロウィン寮の学長が犬猿の仲なのはイヴも知っているわよね。今ではそれが生徒の間にも伝播しちゃってるんだけど、あなたたち二人のことはイースト棟で話題になってるわよ」
「え、そうなの?」
「イヴは知らないと思うけどね、ハッキリ言っていい顔はされていないわ。お互いに仲良くして一体どうするつもりなんだって不審そうにしているわよ」
友達として仲良くする以上のことは別に何もしていないんだけどなと私は思ったが、リリーはさらにこう付け加えた。
「正直なところ、私もイヴやハロウィン寮のジャックのことを心配してる。私は寮を跨いで仲良くすることが悪いことだとは決して思わないけど、二人のいないところでそういう噂を聞くと胸が詰まるのよ」
「リリー・・・」
「もし気を悪くさせてしまったらごめん。何かあったらいつでも相談してちょうだい、私はあなたたちの味方だから」
私は彼女の優しさが身に染みつつも、告げられた話の衝撃で言葉を失った。
今まで彼と過ごす時間が楽しくて周りが見えていなかったが、私のせいでジャックが迷惑を被っているとしたら。そんなの看過できるはずがない。
昨日からイヴは、頭の中でずっとぐるぐると考えていた。
(ジャックくんに会いたいな)
そんなことを考えた瞬間、空から冷たい白色が降ってきた。
気が付けば大分暗くなっていた空に、その白色は浮かび上るように優しく舞って冬を告げる。そしてそれらの結晶が幕を作り、その奥から私の待ち望んだ人物が姿を現した。
「こんばんは。こんなに寒い日まで外にいたら風邪を引いてしまうよ、温かい飲み物でも飲むかい?」
ジャックは優しく笑いかけながら、缶に入ったコーヒーを手渡してくる。
しかし私はそれを受け取らずに、自分でも無意識に彼に抱きついていた。いきなり抱きつかれて彼も戸惑っているのが、コートの上から伝わってくる心臓の鼓動で分かる。私の鼓動も自然と速くなっていく。
この日私は、初めて恋心を自覚したのだった。




