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お嬢様は脳筋でして!  作者: 阪井秋


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2/8

祖父のお見舞いはドタバタで

周防すおう瑠璃音るりねの学園生活は、静かで華やかだった。


授業中は姿勢正しく、指名されれば凛とした声で答える。

「やっぱり周防さんって完璧……」

「本物のお嬢様だよなあ」

そんな憧れと羨望の視線を一身に浴びる。


休み時間も笑顔は絶やさないが、どこか一歩引いた雰囲気をまとっていた。

その大和撫子ぶりに、男子が密かに胸をときめかせることも少なくなかった。


放課後。

校門前に黒塗りの車が停まると、ひときわ大きな声が上がる。


「出た! 周防さんのお迎え!」

「護衛の人、やっぱりイケメンすぎ!」


運転席から降り立ったのは、護衛のまだら修吾しゅうご

スラリとした体躯にオールバック、切れ長の目元は一見すると好青年そのものだ。


「お嬢、どうぞ」

修吾が扉を開けると、まるで映画のワンシーンのように周囲がざわめいた。


その時だった。

ひとりの男子生徒が駆け寄り、封筒を差し出す。


「よ、よかったら……!」


瑠璃音は涼やかに微笑み、受け取ろうとした――が。

修吾の手がすっと伸び、封筒を奪った。


「お嬢、これはお預かりします」


「……受け取るくらい、いいのでは?」

瑠璃音が小首をかしげる。


修吾は眉をひそめ、きっぱりと答えた。

「どこの馬の骨かわからんやつからのもんなんか、渡せるわけあらへん」


「……そうですか」

瑠璃音は小さくくすりと笑みを浮かべ、それ以上は言わなかった。


男子生徒は唖然と立ち尽くし、周囲の生徒たちは「厳しい!」「でもカッコいい……!」とざわめいている。


修吾は何事もなかったかのように瑠璃音を車へ促した。


車内。

エンジンをかけると同時に、修吾がぽつりと漏らす。


「……本当に受け取る気やったんですか」

「ええ。気持ちを踏みにじるのは失礼でしょう?」


その答えに、修吾の手がわずかにハンドルを強く握る。

「お嬢は優しすぎます。……そんなことやから余計に狙われるんですよ」

「過保護ですね」

「護衛の務めです」


瑠璃音は軽やかに笑い、窓の外へ視線を移した。

だが修吾の横顔は、わずかな不機嫌を隠しきれていなかった。


――その足で向かったのは、祖父・源一郎げんいちろうの病室だ。



古びた病院の白い廊下を、二人は並んで歩く。


「お嬢、扉は気ぃつけてくださいよ」

「わかってます」


返事をしつつも、瑠璃音が勢いよく病室の扉を引いた瞬間――


ガコン。


「きゃっ!」

「お、お嬢!?」


蝶番が外れかけて扉が傾き、修吾が慌てて支える。

中から顔を出した源一郎は、危うく突っ込むところだった。


「まったく……力加減というものを知らんのか」

苦笑しながらも、目元は優しい。


「ごめんなさい、お祖父様」

「元気なのはええことじゃ」


ベッドに腰かけ直した源一郎は、瑠璃音を見つめながら言葉を続けた。


「もうすぐ十八だろう。そろそろ後継も考えねばならん。婿取りもな」

「またその話ですか」


瑠璃音は困ったように笑い、さらりとかわす。

「私より強い人がいればいいんですけど」


「そう簡単に見つからん」

源一郎は肩をすくめ、修吾に視線をやった。


「……修吾、婿に来てくれるやつはおらんのか」


修吾は言葉を失い、ただ目を逸らす。

瑠璃音は慌てて話題をそらした。


「お祖父様、窓を開けて換気をしますね」


そう言って窓に手をかけるが――


ガラガラッ。


「えっ!?」

窓枠ごと外れかけ、近くの看護師が「ひゃっ」と声を上げる。


「す、すみません……!」

あわあわと慌てる瑠璃音。


源一郎は深いため息をついた。

「見目はええのに、お転婆で力加減も知らん。……これでは婿に来てくれる者もおらんわ」


「……」

修吾は黙って立ち尽くした。

祖父の言葉の意味を、誰よりも痛いほど理解していたから。



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