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現実ダンジョン部 ―存在証明の試練―  作者: hourglass
見えない世界の入り口
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美紅の声


 真っ白な空間に、一人立っていた。


 目を覚ますと、あたりには誰もいなかった。

 彰も、颯も、そしてリトの姿もない。


 「……え?」


 神崎美紅は、思わず声を漏らした。

 霧が晴れて、視界は開けているはずなのに、何も見えない。

 白。白。白。

 それしかない場所。


 「彰? 颯? ……返事してよ」


 返事はない。代わりに、耳元で囁くような声がした。


 ――どうせ、誰にも信じてもらえない。


 背筋が凍る。


 「なに……誰……?」


 その声は、美紅が最も聞きたくなかった、けれど最もよく知っている響きをしていた。それは、美紅の中にある“記憶”の声だった。


 *


 子どもの頃から、美紅は「見える子」だった。

 誰もいない場所に人影を見たり、誰も聞こえない声を聞いたり。

 けれどそれを話しても、大人は「気のせい」で片付けた。


 「また変なこと言って……」

 「そんなの嘘でしょ」

 「怖がらせるのやめて」


 友達も離れていった。


 だから、美紅は黙るようになった。

 明るく、元気で、誰とでも仲良くできるように。

 空気を読んで、嘘をついて、「普通の子」を演じてきた。


 けれど、心の奥には、いつも孤独があった。


 *


 ――ほら、まただ。信じてもらえないんだよ。どうせ。


 「……うるさい」


 ――嘘つきの自分。演じてるだけの自分。誰にも本当は見せてないくせに。


 「うるさいって言ってるの!!」


 叫んだ瞬間、空間が震えた。

 白い霧がざわめき、空がひび割れるように揺れる。


 そして現れたのは、自分自身の姿だった。

 中学生の頃の、美紅。

 まだ「見えること」に怯え、泣いていた頃の自分。


 「……あんた、あたし……?」


 その“影”は、濁った瞳を細め、皮肉げに口角を吊り上げた。纏う空気はどこか陰鬱で、全身から負のオーラが滲み出ていた。


 「ねえ、本当は思ってたよね。“誰か信じてよ”って。“誰か気づいて”って。でも誰も気づかなかった。もう全部どうでもよくなったんでしょ?」


 「……ちがう。違うよ」


 美紅は、拳を握った。


 「気づいてくれたよ、彰が。颯が。リトが。……あたしが信じなくてどうするの」


 “影”が、美紅に襲いかかる。


 幻影のようで、確かな恐怖を伴って。

 けれど、美紅はその一歩を踏みしめて、真正面から立ち向かった。


 「信じるのが怖かった。嫌われるのが怖かった。でも……あたしは、信じたい!」


 胸の奥から、光があふれた。


 “影”がひるみ、そして砕けて消えた。


 空間が再び揺れ、霧が晴れていく。


 「美紅ーーーっ!!」


 遠くから彰の声が聞こえた。

 走り寄ってくる足音。振り返ると、颯の姿もあった。


 「よかった……無事だったか!」


 「……うん。ちょっと……昔の自分とケンカしてきた」


 美紅は笑った。

 強く、優しく、自分の足で立つように。


 ――試練、突破。


 静かな声とともに、空に文字が浮かび上がった。


《精神干渉試験 第一段階:通過》


 そして、美紅の胸元には、小さな紋章が浮かび上がっていた。

 それが、彼女の「力」を目覚めさせる鍵になるとも知らずに──。


ご覧いただき、ありがとうございました。

今回はヒロイン・神崎美紅の“内面”に深く潜っていく回でした。


彼女の「見える力」は、単なる特殊能力ではなく、過去の痛みや孤独、そしてその中で育まれた“他人へのまなざし”を象徴するものとして描いています。

孤独だった過去と、それを認めた上で誰かと繋がろうとする姿勢は、この物語の大きなテーマでもあります。


「自分を受け入れる強さ」は、誰にとっても一歩踏み出す勇気のきっかけになるものだと信じています。

次回は颯編――どうぞお楽しみに!


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