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現実ダンジョン部 ―存在証明の試練―  作者: hourglass
見えない世界の入り口
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第二層:見えざる敵

扉が、音もなく横に滑った。


その奥からは、ひんやりとした空気と共に、濃い霧がゆっくりと流れ出してくる。


一歩踏み出した瞬間――

足の裏に伝わった感触に、思わずぞくりとした。

さっきまでの石畳の質感とはまるで違う。

冷たく無機質な金属板。その床が微かに足音を響かせた。


「……何この空間。空気が……まとわりついてくる感じ」


美紅が腕をさすりながら小さくつぶやく。


「足音の響きも変だな……なんか包まれてるみたいな、密室感」


彰も眉をひそめながら、ゆっくりと周囲に目を凝らす。


天井も壁も不明瞭な、灰色の霧に満ちた空間――

まるで、現実と幻想の境界が曖昧になったような錯覚。


そのとき――


「はい、第二層にようこそーっ!」


突如、3人の間から、ひょいっとリトが顔を出した。


先ほどまでの軽快な調子とは少し違い、表情はやや真剣だ。


「今回の試練のテーマはですね、“認識と観察”です!」


「観察……?」


「はいっ! 今度の敵は……な、なんと! 見えないんです!」


「……はあ?」


3人揃って反応が重なる。


「第二層の敵“シルエット・フレイカー”は、視覚認識から外れる特殊能力を持っています!」


「つまり……透明ってこと?」


「もっと言えば、“存在そのもの”がぼやけるんです! パッと見じゃ気配すら消してくる超高難度!」


「そんなの、どうやって戦うんだよ」


「大丈夫です! 観察レンズ、支給します!」


リトがくるりと回って、空中を指さすと、青白い光の粒子が3つ出現した。


《観察レンズ》

機能:気配の可視化、体温差の補足、振動の強調


「額にかざして、“観る”って念じてください!」


3人はそれぞれ手に取り、額に近づける。


――ふわりと光の膜が展開され、世界がノイズがかったように変化する。


「……視界が妙にざらつく……けど、なんとなくわかる。空気の流れ……」


「そう! これで敵の動きが“少しだけ”読めるようになります!」


 


突如――


カツッ……カツ、カッ……カツン……


右後方から、金属を踏むような微かな音が響いた。


「来た!」


彰が鋭く振り向くと、霧の奥に空気の“うねり”が浮かび上がる。

“何か”が、視界のノイズの中を横切った。


「3時方向ッ!」


美紅の声が響く。颯もすかさず反応した。


「おうっ!」


颯が足を滑らせるように踏み込み、低く構えながら回し蹴りを放つ。

空気が裂ける音――


――一瞬の静寂。


その直後、


「っ、ぐおぉぉ!!」


空気が弾け、霧の中で何かが吹き飛ぶように跳ね返った。


「……当たった、か?」


「まだだ!……違う、“もう一体”いる!」


彰が叫び、咄嗟に右に跳ぶ。

次の瞬間、彼の元いた場所を“何か”が掠めた。


――シャッ!


風が裂ける音。

制服の肩口が裂け、彰の腕に薄く血がにじむ。


「くっそ……見えねぇってのは、想像以上にキツイな……!」


「彰ッ!」


美紅が駆け寄り、肩を支える。

彰は浅く頷いた。


「……大丈夫。でも、これ“単体行動”じゃない。連携して動いてる」


「鋭い推理!」


リトが感心したようにうなずいた。


「複数体の同時行動型。反応だけじゃ不十分、“連携”が必要です!」


「くるよ!」


今度は真後ろから“冷たい気配”。


「今度は私が!」


美紅がレンズ越しに霧を睨みつける。

青く、微かに“ゆらぎ”が浮かび上がる。


「そこっ!」


颯が横から突っ込み、体を低く構えてタックル。

その一瞬、彰が反対方向から勢いよく跳び込んだ。


「とりゃあああッ!」


2人の攻撃が交錯し、“ゆらぎ”の中心を突き破る。


――ズンッ!


空間が歪んだような衝撃。

霧が一気に晴れ、“何か”が崩れ落ちる気配。


 


静寂。


 


「……全滅、か?」


「はい! 敵性反応ゼロ! 見事、撃退です!」


リトがくるりと一回転して空中に浮かび上がる。


3人は肩で息をしながら、静かに視線を交わした。


「……やれるじゃん、俺たち」


颯がぽつりと笑う。


「“連携”、ってこういうことなんだな……」


彰が小さくつぶやいた。


 


そのとき、目の前に新たなウィンドウが現れる。


 


《第二層クリア》

《称号獲得:「観察者たち」》

《スキルスロット:+1》


「スキルスロット……?」


「レベルアップの証です! 詳細は次の階層で説明しますね!」


リトが誇らしげに笑った。


 


扉が、音もなく開く。


その向こうに待つのは――まだ見ぬ“第三の試練”。


だが今、3人の間に確かな“信頼”が生まれつつあった。

“見えない敵”とのバトル、いかがでしたか?

今回はテンポを保ちつつ、緊張感や動きのニュアンス、チームワークの描写を強化しました。

次回は、不穏な「声」にまつわる心理的試練が待ち受けています。

お楽しみに!


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