選ばれた3人
目の前に広がる光景に、思わず息を呑んだ。まるで、今までプレイしてきたRPGのダンジョンが、そのまま現実になったかのようだ。石畳の通路は幾何学的に入り組み、壁には意味不明な記号が浮かび上がっている。空はなく、青白く光る天井――いや、“空間の天井らしきもの”が、どこまでも続いていた。
「なあリト。この“試練”って、結局なにすればいいんだ?」
颯が軽く腕を回しながら、歩きながら尋ねる。
リトは彼の肩にぴょんと乗ったまま、胸を張って言った。
「簡単です! “選別”! あなたたちが“適性者”として、このダンジョンを進むに足るかどうかのテストです!」
「選別って、何か戦うとか……そういうの?」
美紅が少し眉をひそめて聞いた。
「いえいえ! 適性には“戦闘”だけじゃありません! 思考、協調性、決断力……まあ、全部見ます!」
「つまり、全部ってことね……」
俺たちは通路を進んでいた。
進むにつれ、空気が冷たく、重くなる。
後ろに戻ろうとしても、扉はすでに閉ざされていた。
しばらく歩いた先に、開けた空間があった。
まるで学校の体育館ほどの広さ。中央には、古びた石像が3体立っている。
「……なにこれ?」
「判定ポイントですね! この石像、それぞれに問いが用意されています!」
「問い?」
リトが腕――じゃなくて前足を上げて説明する。
「“何を選び、何を捨てるか”。それぞれに違う“価値”が問われます。答えはありません。ただ、あなたたちの“選択”が、次の扉を開く鍵になります!」
颯が肩をすくめる。
「哲学の授業みたいだな」
「どれか1体ずつ選べばいいんだよな?」
「いえ、3人で“同じ選択肢”を選ばないと、扉は開きません!」
「……なるほどね。チームの意思統一を試してるってことか」
石像の前には、それぞれ異なる言葉が刻まれていた。
•A:正しさを選べ。だが、その代償に背を向ける覚悟を。
•B:優しさを選べ。だが、すべてを救えるとは限らない。
•C:力を選べ。だが、誰かが代償を払うことになる。
「……えぐいな」
「何を選んでも“代償”があるってわけね……」
俺は静かに息を吐く。
「どうする? 話し合って決めるか?」
しばらく、3人で黙って考える時間が流れた。
美紅がふと呟いた。
「私、Aかな。何が正しいか分かんないけど、それでも“正しさ”を信じたいって思う」
颯が苦笑する。
「お前ららしいな。俺はCが性に合ってるんだが、何事も力ずくじゃ解決しないってことも知ってる。……まあ、今は美紅の言うことに乗っかってみるか。」
「決まりだな。Aにしよう」
3人が石像Aに手をかざした瞬間――
空間が淡く光り、風が吹き抜けた。
正面の壁が音もなく崩れ、次の扉が現れる。
《選択を確認。適性評価:合格》
「おおおーっ! 第一の試練、クリアです!」
リトが両手……いや前足を掲げて飛び跳ねる。
「まじかよ……なんか、思ったよりちゃんとしてんな」
颯が軽く笑いながら言う。
「……でも、ただの部活動って雰囲気じゃないよね」
美紅の言葉に、俺たちは黙った。
この“ダンジョン部”――
ただの遊びじゃない。何か、もっと根深い“目的”がある気がした。
「よーし、では次! “第二層”へ進みましょう!」
軽快なリトの声が響いた。
その先に何があるのか。
それでも――
俺たちは、扉をくぐる。
そして、“現実ダンジョン部”は、一歩ずつ進み始めるのだった。
リト、けっこうテンション高めですよね(笑)
次回はちょっとだけ緊張感が増す展開になるかも?
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