教室が、消えた
※この物語は「現実世界にだけど子どもしか見えないダンジョン」に挑む、
ちょっと変わった“部活動”ものです。
異能・友情・チームワーク・日常と非日常の交錯が好きな方は、ぜひ最後までお付き合いください!
月曜日の朝。
2年A組、教室の窓からは、いつものように太陽が顔を出していた。
「――なあ彰、聞いたか? 隣のクラスのやつ、昨日から来てないってよ」
朝のざわめきの中、そんな声が聞こえてきた。
俺――中谷 彰は、眠気を噛み殺しながら教科書を開いていた。
遅刻ギリギリで駆け込んできたのは、隣の席の幼なじみ、神崎 美紅。
「うぉっす! また寝坊でしょ、彰。机に顔くっつけて起きてないじゃん」
「朝からテンション高ぇな、美紅……」
そんな、なんてことない朝だったはずなのに。
「……ん?」
妙な“違和感”が首筋を撫でた。
視線を落とすと、教科書のページが勝手にめくれていく。
窓の外はまるで、濃い墨を垂らしたように“現実”がにじんでいく。
ざわ……という音。
いや、“音のような何か”が、耳の奥に直接流れ込んできた。
気づいたときには――
教室が、なかった。
⸻
灰色の岩肌。
天井も、窓も、壁もない空間。
「どこだよ、ここ……」
足元には、古びた石畳が続いている。遠くにはぼんやりと光る扉。
教室なんて影も形もなかった。
「……夢か?」
自分の頬をつねる――が、痛い。夢ではない。
その時。
「うわああああ!! やっちゃったぁぁぁああ!!」
耳元で叫び声が炸裂した。
慌てて振り返ると、そこには……リス? いや、しゃべるリスだった。
「やべえ、超やべえ……転送ポイントズレた!? しかも子どもにバレたらマズ――」
「……おい、お前しゃべって――」
「見えちゃってるぅぅぅ!? マジで!? 初対面で自己紹介飛ばしてごめん! オレ、リトっていいます! ただのリスじゃないです、管理者見習いです!」
「何言ってんだお前……」
「ここ、ダンジョンです! 正確には“現実に重なってる試練領域”っていう空間! あなたが“適性持ち”だったので招かれちゃったのかと!!」
「……は?」
意味が分からない。だが、目の前のリスが現実にいるのも、もっと意味が分からない。
パニック寸前の俺に、リトが肩に飛び乗ってきた。
「とりあえず安心してください! 死にません! むしろ、これから始まるんです!」
⸻
その時だった。
「……おーい、彰ー! 彰も来てたんだー!」
振り返ると、そこにはもう一人の姿。
茶色のロングヘアを揺らし、制服姿で駆けてくるのは――
「美紅!?」
「よかった……やっぱり、あんたもだよね。うちの席、光ったと思ったらここにいたんだけど」
「うわー、マジで2人目出現……やば、マジでチーム形成のフラグ立ってる感じです!」
リトが一人でテンション上がっていた。
「とりあえず話を整理させろ……。ここ、教室じゃない。夢でもない。しゃべるリスがいて、美紅もいる。で?」
「で、ですね! この空間、いわゆる“ダンジョンの最初の試練場”です!」
「条件を満たした“子ども”だけがここに転送されて、最初の試験を受けてもらうんです!」
「子ども限定……?」
「この世界は、大人になると“認識フィルター”がかかるんです! 子どもだけがダンジョンの存在を視認できる! だから、大人は何も気づいてません!」
「つまり……現実世界に重なってる、子どもだけが見える“もう一つの世界”ってこと?」
「そうですっ!」
その時、床に青い光が浮かんだ。
まるでゲームのように、宙に“表示”が出現する。
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《第一の試練:選別》
条件:3名以上の適性者による共同突破
制限時間:60分
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「……3人?」
「最後の1人がいれば、扉が開きます! それまではここから動けません!」
そのとき、遠くから声が響いた。
「うおおお!? なんだここ!? ……おい、お前ら!? 彰と美紅じゃん!!」
現れたのは、クラスメイトの樋口 颯。
チャラくて、明るくて、でも根は仲間想いな男だ。
「颯、お前も……」
「気づいたらここにいたよ! なんだよこれ、異世界転生か!?」
「うおぉぉぉぉおお! 条件達成!! 扉、開きます!!」
リトが謎のボタンを空中で押すと、遠くの光の扉が音を立てて開いた。
「では皆さん、どうぞ試練へ!」
その先に何があるのか――
誰も分かっていなかった。
だが、俺たち3人の“現実ダンジョン部”は、ここから始まったんだ。
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最後まで読んでくださってありがとうございます!
リスのリト、気に入ってもらえたらうれしいです。
第2話では、さっそく「最初の試練」に突入します。
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初めての作品になります。
暖かい目で見てくれると嬉しいです。